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翌朝釉はいつものように薄い黒の長袖に身を包み玄関へ向かう
留
背後から留(るい)の明るい声が追いかけてきた 眩しいほどの笑顔それはまるでこの家には何の問題もなく 彼らがどこにでもいる幸せな兄弟であるかのように 周囲に信じ込ませるための完璧な仮面だった 釉はその声に小さく頷きドアを開けた
釉
登校中の通学路
雨嶺
横から声をかけてきたのは 雨嶺(あまね)だった 変わらず穏やかで そっと手を差し伸べる光のよう
釉
釉は素っ気なく返すが 雨嶺は気にしない 並んで歩きながら釉は口を開いた
雨嶺
釉
雨嶺は短く返したが その言葉の裏に深い同意があることを 釉は感じていた
世間話に花を咲かせる周囲の生徒と異なり 二人の会話は常に静かで短い
釉は心の中で「今日は七時間授業で良かった」と思った 皆が嫌がる長丁場の学校生活は 彼にとって家に帰りたくない時間稼ぎだったからだ そうこう話しているうちに校門が見えてきた
先生が入室しホームルームが始まった 先生の話に耳を傾けながらも 釉の視線は窓の外に釘付けになっていた 雲の流れが早く 冬の訪れを告げるような 冷たく澄んだ空
窓の外を眺めながら 今日から転校生が来ることを思い出す
山田葵大先生
悠珠
山田葵大先生
悠珠
モブ(その他)
悠珠
先生が転校生の名前を呼ぶと ガラリと扉が開き一人の生徒が入ってきた 自己紹介が始まるが 釉には無関係のことだとばかりに 再び窓の外に意識を向けた。 だが、突然、隣から声がした
悠珠
驚いて顔を上げると転校生が まさかの隣の席に座り 屈託のない笑顔を向けていた 彼は挨拶を終えるや否や用意されていた 席に着席したのだ
釉は予想外の状況に戸惑いながらも いつもの素っ気ない態度で応える
釉
転校生が座ったことを確認すると 先生はすぐに授業を始めた 釉は必死に授業を聞くが 内容はほとんど頭に入ってこない しかし分からないなりにノートだけは几帳面に 誰に見せても恥ずかしくないよう綺麗にまとめた
ふと隣を見ると 転校生は既にノートを広げ釉よりもさらに整然とした美しい字で 板書と先生の解説を分かりやすくまとめていた 釉が見つめているのに気づくと 転校生は優しく声をかけた
悠珠
その優しさが、釉の境界線を刺激した
釉
釉は慌てて前を向いた
あっという間に 下校の時間が訪れた 夕日が教室の窓から 長くオレンジ色に差し込んでいる 釉はその光の中で机に 肘をついて静かに本を読んでいた 廊下から楽しげに 話す生徒たちの声が聞こえやがて扉が開く 入ってきたのは 転校生と数人のクラスメイトだった
転校生は読書する釉に気づかなかった しかし彼に気づいた一人のクラスメイトが 怪しげな獲物を見つけたような笑みを浮かべた その顔は釉の心を冷たい闇で包み込む
モブ(その他)
釉
悠珠
モブ(その他)
モブ(その他)
モブ(その他)
転校生の突然の提案に クラスメイトの関心は釉から逸れた 釉はその隙を見逃さなかった 誰にも気づかれないよう 音を立てずに椅子を引き 教室を出た
向かったのは学校から少し離れた公立図書館 与えられた課題を広げるも 日々の授業についていけていない釉には 何一つ理解できなかった
釉
釉が困り果ててため息をついていると 隣の席に座っていた優しそうな 大学生が声をかけてきた人見知りな釉は 不意のことに身体を硬くし心臓が跳ねた 気まずい沈黙が流れる 大学生はすぐに察し苦笑いを浮かべた
柊星
釉
大学生はもう一度、優しく聞き返した
柊星
釉はその温かい眼差しに いつもの境界線が揺らぐのを感じた 意を決して小さな声で返事をする
釉
柊星
大学生はそう言って身を寄せ 優しくそして分かりやすく 課題を教えてくれた
話をしているうちに 大学生は自己紹介をしてくれた
柊星
釉
釉が答えると、柊星は驚いたような声を上げた
柊星
釉は小さく頷いた
釉
柊星は釉の家族のことや学校のことを 質問してきたが釉はいつものように 真実の欠片とそれを覆い隠すための嘘を 器用に交えて話した
柊星
釉
釉
釉
柊星
柊星
釉
釉
一瞬釉の表情が曇るそれを隠すように すぐに笑顔を見える釉大学生には 普通に笑っているように見える
柊星
釉
釉
柊星
柊星
釉
柊星
夕日が完全に沈みかける頃 六時のチャイムが鳴った 柊星と一緒に図書館を出て帰り道を歩く
柊星
釉
そう言って笑う柊星は釉にとって お隣さんという確かな温もりのある存在だった
家のドアを開けると 玄関に両親の姿はなかった ダイニングテーブルの上には 二枚の紙が置いてある
『父:飲み会に行ってくる』 『母:友達の家に泊まってくる』
釉はそのメモを見て 安堵と寂しさの光と闇が混ざったような 感情を覚えた
二階から弟の留が勉強しているような 声が聞こえやがて階段を下りる音が響いた
留
釉
釉
釉は作ってあった 晩御飯をレンジで 温めて食べていると 瑠が声をかけてきた
留
留は自分の分をレンジで温め どこにでもいる普通の兄弟みたいに 一緒に食事をする
学校の話や今ハマっているゲームの話。 両親の目が届かないこの時間だけが 釉が心から安らぎのびのびできる 唯一の温かい時間だった
釉
留
釉
留