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私には、生きていれば今年で 二十五歳になる一人娘がいた。
加奈子という名前で、 ピアノが得意で、成績もよく 頭も良かった。
加奈子が小学生の頃旦那と離婚し、 私の祖母と娘と三人で暮らしていた。
少し照れ屋で、いつもどちらかと言うと反抗的ではあったが、
将来音楽に携わる仕事に就きたいと大学を目指していた。
そんなある日のこと、加奈子が 十八歳の頃だった。
加奈子
突然、夜中に起こされた。
山岸
加奈子
何が辛いのかを聞いても答えなかった
この当時、私は仕事も新しく変わったばかりで何にしろ、多忙時期だった。
ただでさえ、仕事で睡眠不足だった事もあり、イライラしていた私は
山岸
加奈子
加奈子はそれだけ言うと、 部屋を出ていった。
山岸
私は大きな溜息を吐いて、再度眠った
その翌日から、自室に入ったまま出てこなくなった。
最初は心配して声掛けをしていたが、 無反応だった。
私も、相変わらず仕事が忙しく… 構ってられず、 よく、夜中に物音がしていたのは 知っていた。
いつの間にか、すれ違いの日が増えた そして、この日に私は 絶望を見る日となる。
仕事から帰宅すると、珍しく 普段開いてないピアノの部屋のドアが 少し開いていた。
もしかして、部屋から出る気になったのかな…と。
山岸
名前を呼びながら部屋を覗くと、 私の視界の有り得ない場所に 足が見えた。
全身に悪寒が強く走る。
中に入ると、部屋の片隅で ロープで首を吊った状態で、 項垂れている加奈子の姿に口元を抑えた。
床には、血溜まりや液体が広がっており、ピアノの上に一枚の紙が置かれてあった。
山岸
私はその場に座り込み、 あまりのショックに気絶し床に倒れ込んだ。
目を覚ますと、 自分の部屋のベットの上にいた。
祖母
山岸
祖母
山岸
祖母
山岸
祖母
祖母が一枚の紙を置いていき、 部屋を出ていった。
山岸は身体をゆっくり起こし、一枚の紙を開いた。
"お母さんへ"
この手紙を見てくれた時には、私はもう居ないと思います。ごめんね。
実は、私ね…おばあちゃんと病院に通ってたんだ。 うつ病って診断されたの。
でも、お母さん、いつも仕事で忙しそうにしていたから、おばあちゃんには 口止めしてた。
だって、そんなこと聞いたら… お母さん仕事できなくなるから。
原因は分からない。でも、新しくお仕事も変わって、お母さんに負担を掛けたくなかった。
でも、おばあちゃんのこと責めないでね。悪いのは私だから。
ただ、もうこの世界で生きるのは疲れた。
なんにも出来なかったね。成果も残せなかった。 ピアノのコンクールだって、一度も賞すら取れなかった。
ごめんなさい
本当は、ただ、近くにいて欲しかった ごめんなさい。最後までわがままで。
でもありがとう。
先立つ事をお許しください
" さよなら "
山岸
全てを読み終えた後、私は声にならない程泣き叫んだ。
あの夜中に来た時、きっとすごくさみしくて、一人が不安だったのだろう。
だから私のそばに、ただ居たかっただけだった。 それを私は仕事を理由に…
後悔しても、もう娘は戻ってこない。 分かってはいても自分を拒み続けた。
下に降りて加奈子の顔に手を触れたが 冷えきっていた。
まだ、全てを断ち切れてはいない。 だけど、その分全てを 仕事に費やした。
もう二度と同じことを繰り返さぬ様。
サービス管理者と上の立場に上がれたが、でも、正直喜べはしなかった。
何度も辞めることも考えた。
それでも、あの時娘が私への仕事を大事に思ってくれていたことを知って、 心は変動したが… もし戻れたなら、あの日の夜を共にすごしたい───
目が覚めると、暗闇だったが ベッドの上で寝ていた。
私はすぐに分かった。 本当にあの日に戻ってきた───
すると、静かに扉が開いて、 加奈子が私の元へと寄って来た。
数回肩を叩かれた。
山岸
加奈子
あの時は、理由を聞いて…。 でも今は違う。
枕元のスタンドライトに灯りを付け 起き上がった。
山岸
加奈子は嬉しそうに私の横に座った。 私は、加奈子の背中を撫でた。
加奈子は居心地良さそうに私の肩に 頭を乗せた。
加奈子
山岸
加奈子
山岸
加奈子
山岸
加奈子は静かに頷いた。
加奈子
山岸
あの時、加奈子は自分の病と必死に一人で戦っていた。
その辛さを全ては、分からないけど… それでも、もう加奈子は 一人で戦う必要は無い。
とはいえ…和也が言っていたように、 死は変えられない。 α線に居るが…もう現実にはいない。
それでも、ずっと思い残していたこの夜のこと。変えられた。
山岸
加奈子は恥ずかしそうにしたが、大人しく横になった。
私はそのまま、加奈子が眠りにつくまで見届けた。
山岸
私は優しく告げ、加奈子を抱きしめたまま、いつの間にか私も眠りについた
白く光ると、誰もいないホールへと戻ってきた。
山岸
私は先程まであった加奈子の感触を忘れられず、そのまま床に寝転がったまま瞳を閉じた。
もう一人じゃないからね。 加奈子────