コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕は幼い頃から 人と関わることが苦手だった
相手の通話が終了するのを待って、 僕もやっとスマホを耳から離す。
目を閉じて、1つ深呼吸をすると、 壁にもたれてまっさらな天井を 仰ぎ見た。
机の上には小さなメモ帳とボールペン
朝から何十回と、電話の台本を読み返し、口にするという練習を重ね
飲食店のバイトの面接予約を取り付ける電話を、10時きっかりに掛けた。
自嘲を口元に浮かばせ、僕はそういえばと立ち上がり、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けると、中には麦茶のポットと、賞味期限切れの魚肉ソーセージが段を分けて冷やされていた。
それ以外に食べられそうな食材は何も無い。
僕はそうボヤくと、 部屋着から差程変わらないような スウェットとジーパンに着替えて
鍵と財布を手に取る。
玄関のドアノブに手をかけ、はたと今日は昼頃から雨が降る予報だったのを思い出した。
持ち手の細い黒い傘を手に取ると、僕は何日かぶりの外へ出た。
家から10分程で着くスーパーは、 昼前ということもあって主婦の奥様方が割と多かった。
とりあえずネギと卵があれば、 炒飯ぐらいは作れるので その2つをカゴに入れ
余ったネギでネギ塩豚丼でも作ろうと肉売り場に足を向ける。
豚こまを少し多めのものを選び、その残りを肉うどんに使おうと、油揚げとうどんもカゴに入れた。
一人暮らしを初めてから早1年
自分が作れる料理のレパートリーも大体決まって、買い出しはこのように連想ゲームになる。
一汁三菜とバランス良く食生活を送るよう心掛けていた時期もあったが、
今ではそこまで作る気力もなく、主食だけのことが多い。
家に菓子類を切らしていたと、 もうどこに何の菓子があるか 把握している棚に行けば
カートを押しながらどの菓子を買おうか話している同年代の男女がいた。
僕は反射的に俯き、不自然にならないよう下の段のチョコレート菓子を吟味し始めた。
僕はしばらくその場で男女が立ち去るのを待ってみたが
反対側の棚を見たり、 これはカロリーが高いだの、 こっちのが容量があるだのと わいわいと菓子選びをしていて 立ち退きそうになかった。
仕方なく、僕は菓子売り場を後にしようと男女に背を向けると
クスクスと背後で笑い声がした。
僕は、一瞬肩を跳ねさせた。
大丈夫。僕じゃない
僕のことは知らないはず。
重く脈打ち出した心臓を宥め、何事もなかったかのように歩き出す。
もう買うものは買ったし、 早く店を出よう。
会計をするためにレジへ向かい、カゴをカウンターへ降ろす。
店員
何も考えない。
別に僕は普通だ。
店員
何も関係ないから普通に
店員
いつも通りに
店員
僕はやっと我に返り、 店員と目を合わせた。
店員
店員
店員は、僕の答えを聞くなり 「レジ袋5円で合計985円の お会計になります」と、商品をカゴに詰め終えていた。
僕は極めて焦って小銭を落とさないよう、注意を払いながら精算を終えると
急いで買ったものを袋に詰めて、スーパーをあとにした。
僕の頭には、 もう姿も見えない先程の男女が
こちらを見て嘲笑する声が聞こえた。
男
女
幻聴