直人
詠美、いくぞ!
詠美
うん!
慎
ちゃんと詠美にも捕れるボール投げろよ!
直人
わかってるって!
直人
それっ
詠美
…わ、わ!
慎
ナイスキャッチ詠美!
詠美
えへへ…慎くんいくよ、えいっ
慎
おっと…!
直人
慎、ナイスキャッチ
直人
詠美もナイスボール!
詠美
えへへ…こほっ、こほっ!
慎
詠美、大丈夫か!?
詠美
ごほっ、ごほっ…うぅ…
慎
咳が止まらない!?
慎
大変だ!直人、おばさん呼んできて
直人
分かった!
詠美
はぁ、はぁ…
慎
大丈夫か詠美!?
詠美
うん…
詠美
っ…どうして私だけ、こんなに体が弱いのっ
詠美
私だって、普通に遊びたいのに…っ
慎は詠美が落ち着くまでその手を握っていた
詠美
…慎くんも私と同じ体になればいいのに
慎
え?
詠美
そうすれば病院でも一緒に遊べるよね
詠美
…なんて
慎
はは、なんだよそれ
慎
冗談が言えるなんて、だいぶ落ち着いたみたいだな
詠美
冗談じゃなくて本気かもよ?
慎
いや、冗談だ
慎
詠美の冗談は最後に絶対「なんて」が付くからな
詠美
ふふっ、よく見てるね
詠美の母
詠美、大丈夫!?
詠美
あ、お母さん…
詠美の母
すぐにベッドに戻りましょう
詠美
…うん
詠美の母
ごめんね、せっかく遊びにきてくれたのに…
慎
詠美は大丈夫ですか?
詠美の母
ええ、もう落ち着いたわ
直人
良かったぁ…
詠美の母
あの子、昔から体がすごく弱いから…
詠美の母
本当はもっと遊ばせてあげたいんだけど…
直人
詠美が元気になったらまた遊びに来るんで!
直人
な、慎!
慎
うん!俺達、また来ます
詠美の母
2人ともありがとう…
詠美の母
これからも詠美と仲良くしてあげてね…
直人
はい!
慎
もちろんです!
翌日
教師
はい、じゃあこれ今日の分のプリント
教師
休んでる大城詠美さんへ届けてあげてね
慎
はい
直人
まかせといてよ先生!
慎
…詠美、やっぱり今日は欠席だったな
直人
昨日は落ち着いたって言ってたのに…
クラスメイト達
あ、お前らまた詠美の家に行くのか?
クラスメイト達
いつもいつも大変だよな
直人
別に大変じゃねぇよ
クラスメイト達
うわ、出たよ恰好つけちゃってさ
クラスメイト達
ナイト気取りかよ
直人
なにを…!
慎
よせって直人、相手にするなって
慎
それより早く届けにいこう
詠美
いつもプリント届けてくれてありがとう!
慎
お礼なんていいって
慎
それより具合はどう?
詠美
もうすっかり元気だよ!
慎
なら来週のテストは大丈夫そうか
直人
うわー、そうだった!
直人
もうテストすぐじゃん
直人
詠美、また勉強教えてくれない?
詠美
ふふ、良いよ
詠美
また3人で勉強会しよう
慎
うん!
直人
よっしゃ!オール100点の詠美がいれば安心だな
慎
詠美って本当に教え方上手だしな
詠美
そうかな…えへへ
詠美
少しでも2人の力になれてたらいいな…!
直人
力になりまくりだって!な、慎
慎
うん!
慎
(こんな風にずっと)
慎
(3人で仲良く出来たらいいな…)
数か月後
直人
詠美、このボールが捕れるか!
直人
いくぞー、それっ
詠美
っ、よっと…!
慎
ナイスキャッチ詠美!
詠美
えへへ…うっ!?
慎
詠美!?どうした!?
先ほどまで元気だった詠美が突然うずくまる
直人
詠美!?
詠美
はぁっ、はぁっ…
慎
まずい、何か変だ…!
直人
俺おばさん呼んでくる!
慎
詠美、大丈夫か!?
詠美
はぁっ、はぁっ…まただ…
詠美
どうして、お父さんとお母さんは…っ
詠美
私を健康に…はぁっ、はぁ…
詠美
産んで、くれなかったんだろう…っ
慎
っ、詠美…
詠美
2人は、ずるいよ…
詠美
…私、ずっと慎くんと直人くんの事ね
詠美
羨ましくて、たまらなかったんだ…!
慎
詠美!?いいからもう喋るな!
詠美
もし、私が死んだ後…
詠美
2人が楽しそうに遊んでたら…
詠美
羨ましくて妬ましくて、殺しに行っちゃうかも…
詠美
なんてね
慎
詠美、こんな時に冗談なんて言ってないで──
詠美の母
詠美!?
詠美
あ、お母さん…
詠美の母
もうすぐ救急車が来るからね!
詠美の母
頑張るのよ…!
数分後、サイレンを鳴らしながら救急車が到着した
救急隊員
患者様を乗せるので離れて下さい
救急隊員
お母さんは一緒に病院へ!
詠美の母
はい…!
慎
直人
詠美、大丈夫だよな…?
慎
う、うん…
慎
(あんな冗談が言えるくらいなんだ)
慎
(絶対、また元気になって戻ってくる)
しかし救急車で運ばれた詠美は
容体が急変
そのまま帰らぬ人となってしまった
数日後
詠美の母
うっ、詠美…詠美ぃ…!
直人
なんで、こんな…!
慎
慎
あの日、お前が…
慎
キャッチボールしようなんて言わなかったら
慎
詠美は死ななかったのに…!
直人
俺のせいだって言うのかよ!
直人
お前だって気晴らしにいいって言ってただろ!
直人
それに元はと言えば
直人
お前が詠美を誘わなければ
直人
こんな事にはならなかった!
慎
何だと…!
直人
とにかく俺はこんなの絶対に認めないからな…!
直人
詠美が死んだなんて…
直人
絶対に!
慎
あ、直人…っ!
慎と直人はそのままケンカ別れして
疎遠になってしまう
数年後
慎は大学生になり、医者を目指し日々勉強に明け暮れていた
教授
君は本当によく頑張ってるね
教授
立派な小児科医になるのを期待してるよ!
慎
ありがとうございます、頑張ります!
慎
へへ、教授に褒められた!
慎
…詠美が亡くなってから数年
慎
詠美のような子供を減らしたくて
慎
必死に勉強してきたんだ…!
慎
…でも、もっと頑張らないとな
男
慎…!
慎
え…
慎
(誰だ、こいつ?)
慎
(ここの生徒、か?)
慎
(いや、そうは見えない…部外者、だよな…?)
直人
久しぶり、直人だよ
慎
え、直人…!?
慎
お前、今までどこに…ていうかどうしたんだ急に?
直人
どうしても会わせたい人がいて
直人
ほら、おいで…
直人が手招きすると
物陰から1人の少女が現れる
慎
え…そんな、どうして…!
そこに現れたのは
あの日、死んでしまったはずの
詠美だった







