結局、数藤の最期となる姿を確認したのは、九十九と長谷川だけだった。
かと言って、自分の楽屋に閉じこもっているのも嫌だったのであろう。
茜
……どうだった?

九十九
どうだったもなにも、酷い有様だぜ。

長谷川
あぁ、一体誰があんなことをやったんだ。

九十九
その人物がこの中にいない――なんて保証はないけどな。

九十九
それはそうと、例の件はどうだった?

茜
あ、やっぱりそうだったみたい。

凛
私、確かアイドルになったばかりの頃にあのバスに乗って、そして事故に遭ったんだよね。

凛
亡くなったお姉さんとバスの中でちょっと仲良くなってさ。

凛
だから、お姉さんの座っていたところが落石で潰れたのを見て、怖くなって泣いちゃった記憶がある。

眠夢
私、多分おばぁちゃんの家に1人で遊びに行く途中だったと思う。

眠夢
事故のことも覚えてる。

九十九
――やっぱり、全員があのバスに乗ってたわけか。

茜
え、長谷川さんも乗ってた?

茜
いや、さすがにその体型の人がいたら、嫌でも覚えていそうなものだけど。

長谷川
……運転手だよ。

長谷川
あのバスのな。

眠夢
えっ?

九十九
公営バスの運転手は、地方公務員だからな。

九十九
だから、公務員って肩書は嘘じゃないし、まちがいでもないわけだ。

九十九
それで、そっちの印象はどうだった?

九十九
例の亡くなった女性の片割れ――そいつの記憶は?

凛
言われてみれば、確かにRYUSEIに似てた気はするんだよねぇ。

眠夢
私も断言はできないけど、確かに顔はあんな感じだったと思う。

長谷川
俺はずっと運転席だったからな。

長谷川
そのカップルが降りる時まで無事に運行できていれば、顔を見る機会もあっただろうけど。

九十九
それは仕方ねぇが、これで一歩前進だな。

九十九
俺達は全員、あの時のバスに乗り合わせていた。

九十九
ここに偶然集められたはずの俺達が、全員同じバスに乗り合わせていた過去を持つ。

九十九
それはもう偶然じゃねぇ。

九十九
必然だ。

茜
でも、なんで私達が集められたんだろう?

九十九
それが分かれば苦労しない。

もうしばらくすれば、楽屋に戻るようにRYUSEIから促されることだろう。
九十九
とにかく、次の収録でRYUSEIを詰めてみるしかねぇな。

とりあえず楽屋に戻ったほうがいい……九十九がそう続けようとした時のことだった。
長谷川
そう言えば、あの時の担当刑事、随分と杜撰な聞き取りだったよな?

九十九
刑事?

長谷川
あぁ、あんたらは乗客だったから、そこまで詳しく話も聞かれなかったか。

長谷川
まぁ、明らかに不運な事故だったんだけどな、事故との処理とかの関係で、警察の人間と話をしたんだよ。

長谷川
その時の担当がよ、よほど早く帰りたかったのか、事故の一言で聴取を済ませようとしてよ。

長谷川
もちろん、事故であることに変わりはないけど、普通はもう少し詳しく話を聴くだろ?

長谷川
曲がりなりにも人が死んでるんだからよ。

九十九
あー、なんとなく簡単な聴き取りはあったかもしれねぇな。

九十九
俺の時も、形式上って前置きで始まって、すぐに終わったな。

九十九
事故の処理なんだから、そんなもんかと思っていたが。

茜
私もうっすらそんな記憶はあるけど、その日のうちに家に帰ってるから、そんなに長いこと話をしたわけじゃないと思う。

凛
駆けつけたマネージャーが同席してくれたけど、あんまり時間はかからなかった気がする。

眠夢
ごめん、あんまり覚えていないけど、覚えていないってことは、そこまで長時間拘束されたりはしなかったと思う。

眠夢
あ、でも――警察までおばぁちゃんが迎えに来てくれたことは覚えてる。

九十九
で、その担当刑事がどうした?

長谷川
いや、思い返せば、事故の処理をするにしても投げやりな感じで、気分が悪かったなぁと思ってな。

長谷川
あの刑事の名前……なんて言うんだったっけ?

茜
もう大分昔のことだし、誰も覚えていないでしょう?

長谷川
いや、ここまで出かかってるんだよ。

長谷川は懸命に記憶を掘り起こしているようだったが、それを遮るようにして、アナウンスが入る。
アナウンス
あの、みなさん。

アナウンス
そろそろ楽屋に戻ってくれません?

アナウンス
明日の収録もありますのでね。

九十九
――だってよ。

凛
じゃあ、今日はもう解散だね。

眠夢
これ以上、誰かが死ぬのは見たくないんだけど。

九十九
そんなもん、誰だって同じ思いだろうよ。

茜
とにかく、明日に備えて休んだほうがいいよね。

茜
みんな、おやすみなさい。

茜の言葉を皮切りに、一同はそれぞれの楽屋に向かって歩き始める。
九十九が自分の楽屋に入ろうとした瞬間のことだった。
長谷川
あっ!

楽屋に戻る直前だった一同が、一斉に長谷川のほうへと視線をやった。
長谷川
思い出した、刑事の名前!

長谷川は嬉しそうな表情を浮かべたのちに、こう続けた。
長谷川
神崎だ!
