_____無彩病。
それは、10年前から流行りだした 原因不明の病。
初めはある一色から色を認識できなくなって
やがて全てがモノクロになる
そして一年ほどで死に至る
原因も不明で発症理由も分からず、
発症率は十万人に一人と言われている
かかる可能性はほとんどないが、
避けられない死という脅威は、
人々を恐怖に陥れるに十分だった。
政府はこの状況を重く受け止め、
実態を把握するために、 5年前から学校や会社で
年に一度色彩感知テストを実施している
それで以上が見つかったものには
無彩病患者でも最後まで見ることができるふたつの色、
白と黒のうち、黒を使った封筒を 送り通知する
これが『黒の手紙』。
_____別名、『死の手紙』だ。
そんな手紙を握りしめながら
玄関の前で呆然と 立ち尽くしてしまう
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額に汗が浮かぶ
震える手で封を切ると、 1枚の手紙が出てきた
そこには簡潔な文と 総合病院の名前が書いてある
『色彩テストにて気になる点がございましたので、該当の病院にて 診察を願います。』
…
ぽつりと口に出して呼んだ瞬間
???
声のする方を向くと、 5歳の妹ことねと母親がたっていた
ちょうど幼稚園から帰ってきたのだろう
母親
母親
怪訝な表情でチラシを拾う母と
幼い妹を見て 現実に引き戻された。
慌てて背中に封筒を隠す
母親
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母親
👑
👑
母親
👑
笑いながら手を振って家を出る
来た道を戻る
手には黒い封筒を握りしめ…
30分ほどすると、有栖総合病院が見える
全力で足を動かした。
走って、走って、自動ドアにぶつくりそうになる
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乱れた息を整えながら受付に向かう
黒い封筒を差し出せば、
少々お待ちください
と待合席に待たされた
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いつの間にか時間はたっていて、 自分を呼ぶ声に体が跳ね上がる
看護師
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医者
低い声で話すのは、40代半ばの 整った顔立ちの男性医師
医者
医者
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医者
👑
医者
医者
医者
医者
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思わず素っ頓狂な声が出た
医者
医者
医者
医者
👑
医者
医者
こうして俺の日常が壊されて行った
病院を後にして、日が暮れた紅葉公園で一人ベンチに座ったままぼんやりと 桜の木を見る
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真っ白な桜の木は 俺の苦労も知らないらしい
悩んだ時や、行き詰まった時はこの公園に来て、時に身を任せていた
しかし、今は足元に落ちている白い桜が、死の色に見える。
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信じたくないのに理解してしまっている 自分が嫌いだ
手元には黒い封筒と、カラーパレットが書かれた用紙…
そのカラーパレットの中に一つだけ見えない色があった
『最後に見えなくなる色は、 最初に消えた色の右側にあるもので、 その1番濃い色』
この病気の解説の1部いはそう書かれていた
最初に見える色は例外で、抜けていくように他の色も消えていくらしい
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👑
なんの因果か、この公園の名前と少し似ている
突然終わりを告げられた日常に対し、 どう反応すれば分からない
帰ろうとベンチから立ち上がろうとするが、その場にしゃがみこんでしまった
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顔を上げずに玄関を開ける
母親
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無彩病のことを口にしようとしたが 開いた口から音が出ない
そのまま言葉を飲み込む
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言葉にすれば、自分の病気
___死を認めることになる
そして家族に お別れの準備をさせることになる
それがたまらなく嫌だ
母に背を向け、2回に逃げ込む
入り交じった感情は言葉に出来ず、
暗い部屋に溶けていった