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レールの上を暴走するトロッコがある。

あなたは切り替えポイントに立っている。

このままでは、レールの先にいる5人の作業員が死んでしまうことだろう。

しかし、あなたがポイントを切り替え、トロッコの進路を変更すれば、その先にいる作業員は1人だけ。

さて、あなたは5人を救うために、ポイントを切り替えるべきだろうか。

あなたがポイントを切り替えなければ、死なずに済んだ1人を犠牲にすべきだろうか。

3年D組史上、静かな昼食時間だった。

担任が用意したのは、そこら辺で売っているような菓子パンを1人につき1個ずつと、ペットボトルのお茶だけ。

どんな状況に置かれても腹は減る。 いや、腹が減るのは、生きようとする生存本能なのかもしれない。

ヨウタ

なんて言うか、銃を突きつけられたまま食う飯はまずいな。

ハカセ

確かに、味なんて分からなかったな。

シズカ

あの、足りないようなら私のも食べる?
食欲がなくて。

セイヤ

シズカ、食べられる内に食べておいたほうがいいと思う。この状況が、いつまで続くか分からないから。

机の形は最初に班を作ったまま。

なんとも味気のない昼食だった。

ヨウタ

担任のやつはいいご身分だよな。見張りはフルフェイス達にやらせて、自分はスマホいじりかよ。

ヨウタは教壇の上でスマホをいじっている担任へと視線をやる。

クラス全員のスマホは、この教室が占拠されてしまった時に全部奪われてしまっている。

外部と連絡できる手段が断たれせいか、教室の閉塞感が増していた。

ハカセ

担任はもちろんのこと、フルフェイス達も食事をしていないみたいだな。

ハカセ

隙が生じるならその時だと思ったけど、うまくいかないものだね。

教室に監禁され数時間。トイレには一度行ったきり。

それ以降、教室を出たのは、クラスメイトを殺すために隣の教室に連れて行ったフルフェイス達と、食事を取りにどこかへ向かった担任のみ。

隣の教室がどのようになっているのか、想像するだけでもゾッとする。

セイヤ

みんな、良くも悪くもこの状況に慣れ始めているな。

セイヤ

妙なことをする人がいたら、まずいと思ったんだけど。

担任に逆らえば容赦なく殺される。

目の前でクラスメイトが犠牲になった光景が、みんなの脳裏に焼きついているのだろう。

食事中はみんな大人しくパンを食べたし、結託して謀反を企てる者もいなかった。

ヨウタ

そう言うこと言い出しそうなツヨシは、あんな感じだからなぁ。
なんて声かけてやりゃいいんだ。

ツヨシはうなだれたまま、自分の席からぴくりとも動かない。

彼女を失ってしまった悲しみを、分かった気になるのは申し訳なく思えた。

志賀先生

あー、ちょっと。

担任はフルフェイス達に手招きをする。

そして、なにかの打ち合わせをすると、フルフェイス達は教室の外へと出て行ってしまった。

しばらくすると、フルフェイスAだけがなにやら段ボールを抱えて戻るが、担任と頷き合うと、再び教室を出て行った。

志賀先生

よーし、そろそろ飯の時間は終わりにしよう。

志賀先生

2時間目を始めるぞー。

手を叩いて周囲の関心を引くと、いつも通りと変わらぬ調子で口を開く。

志賀先生

あぁ、ちなみに仲間がちょっと席を外して、今がチャンスだと思ってる馬鹿がいたら、やめておいたほうがいいと忠告しておく。

志賀先生

そんなことしたら、死ぬかもしれないからね。

担任はそう言うと、さっきフルフェイスが持ってきたダンボール箱を開ける。

マドカ

あれ、なにが入ってるのかしら?

セイヤ

ここからの位置じゃ見えないな。

志賀先生

さて、ここで先生、重大発表をしちゃうぞ!

志賀先生

実はさっきお前達に配ったパンとお茶なんだがな。

志賀先生

……あの中の一部に、毒が入ってたんだなぁ。

担任の発言に教室がざわめく。

ヨウタ

はぁ?
毒?

ハカセ

それにしては、みんなピンピンしてるけど。

志賀先生

あー、入ってた毒は遅効性の毒だから、今すぐに死ぬことはない。

志賀先生

ほら、キノコの毒も、数時間後に症状が現れるだろ?

志賀先生

あれと同じく、数時間後に症状が出始めて、いずれは死ぬ。

担任の発言に、無駄であろうに吐き出そうとする者が出てくる。それを制しながら担任は続けた。

志賀先生

おいおい、早とちりするな。
毒が入っているのは、あくまでも一部だ。

志賀先生

つまり、お前達のうち一部は遅効性の毒入りのパンを食ったり、お茶を飲んだりはした。

志賀先生

でも、一部を除けば、毒の入っていないパンやお茶を口にしたことになる。

志賀先生

ただ、先生うっかりしててなぁ。
毒入りパンや毒入り茶が、どれくらい混入したのか覚えてないんだよなぁ。

アカリ

私達の中の一部が毒入りを食べたってこと?

シズカ

しかも、誰が食べたかは分からないし、どれだけの数が混入していたのかも分からない。

セイヤ

分かっているのは、このままだと数時間後に誰かが死ぬってことくらいか。

志賀先生

おいおい、そんな悲観的になるなよー。

志賀先生

先生だって鬼じゃないからな、そんなに心配するな。

担任はそう言うと、ダンボールの中から次々と小瓶のようなものを取り出す。

小瓶の中には透明な液体が入っていた。

それを教壇の上に2列に並べると、小瓶は偶数個のようで、前後の列の個数が綺麗に揃った。

志賀先生

ここに人数分の小瓶がある。中に入っているのは、解毒薬だ。

志賀先生

本当なら50㎖くらいで充分なんだが、個人差もありそうだから余裕を持って1瓶あたり100㎖入っている。

志賀先生

優しいだろ?

志賀先生

ただし、これらの小瓶のうち1瓶だけ、パンやお茶に入っていたものと同じ毒が混じってる。

志賀先生

さて、ここで2時間目の課題だ。

志賀先生

今のままだとどれだけの犠牲が出るのか全く分からない。

志賀先生

クラスの半分が死ぬかもしれないし、大半が死ぬかもしれない。

志賀先生

逆に数人が死んで済むことだってあり得る。

志賀先生

そこで、小瓶の中身を飲むかどうかを、お前達で議論して決めて欲しいんだ。

志賀先生

飲む場合は全員が小瓶の中身を飲むという決まりにしよう。

志賀先生

同様に、飲まないのであれば、全員が飲まないということになる。

志賀先生

誰かが解毒薬を飲み、誰かが解毒薬を飲まないということはない。

志賀先生

さて、何人死ぬか分からないし、自分は毒を摂取していないかもしれない。

志賀先生

そんな状況で、お前達は死んでしまうかもしれないクラスメイトのために、毒かもしれない解毒薬を飲むことができるのか。

志賀先生

多くの死を回避するために、1人の死を良しとするのか。

担任は笑みを浮かべながら、まだダンボールの中からなにかを取り出す。

ビーカー、リトマス試験紙、スポイト、メスシリンダー、ポリバケツ。

志賀先生

理科室から失敬してきた道具だ。
こいつを自由に使ってもらって構わない。

志賀先生

もしかすると、毒入りの瓶を回避する方法があるかもな。

セイヤ

解毒薬の瓶の中には、1瓶だけ毒が混ざってる。

アカリ

今、毒を摂取した人を助けるためには、誰か1人が犠牲にならないといけないってことだよね?

ハカセ

……トロッコ問題だよ。

ハカセ

これは、形を変えたトロッコ問題なんだ。

3年D組のクーデター

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