山崎 孝太
孝太くんの顔がはじめてこちらを向いた。
そして傍にいる昇くんの存在など消え去ったかのように、まっすぐ私だけを見てこちらに歩み寄った。
床に座り込んだままの私に、そっと手を差し出す。
その顔に浮かんでいるのは、照れたような はにかみ笑い。 精悍さと あどけなさが混じった、私の好きな笑み。
目の前が霞んだ。 下を向いたまま、差し出された手に自分の手を重ねようと_
高山 昇
_した寸前、何かで抑えつけたかのような、平べったい声が滑り込んだ。
昇くんは、絨毯に広がったシミを見るような目で孝太くんを見下ろした。
高山 昇
_孝太くんは発言主の昇くんを見ようとせずに、立ち上がりもせずに、こちらも抑揚のない声で答えた。
山崎 孝太
山崎 孝太
山崎 孝太
高山 昇
高山 昇
昇くんが肩を揺らして笑う。
昇くんの声音は、平素の朗らかさを取り戻していた。
しかしその口から放たれる言葉は嘲りが色濃く浮かんでいる。
これが昇くんの本性。 …理解したつもりでいたが、やはり胸が締め付けられた。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
熱に浮かされたような、恍惚とした表情で、昇くんは1つ息を吐くと
堰(せき)を切ったように喋り出した。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
昇くんの声が室内を駆け巡る。
山崎 孝太
孝太くんは短い吐息を吐き出すと、相変わらず昇くんを見ようとしないまま、硬い声で応えた。
山崎 孝太
高山 昇
昇くんの目と口が、ゆっくりと孤を描く。上気した視線が私の全身を撫でた。
高山 昇
山崎 孝太
孝太くんの目が大きく見開かれた。
勢いをつけて立ち上がった孝太くんの、
相原 澪
片方の手首を掴んだ。 あれだけ動かなかった体が、すんなりと動いた。
掴んだ手首を支点にして、立ち上がった。
孝太くんの怒気は、私と目が合った瞬間霧散した。
……ありがとう。充分だ。
私は1つ頷くと、昇くんに向き直った。
相原 澪
相原 澪
限界まで気持ちが昂(たか)ぶっているのか、肩で息をしながら、昇くんが低く笑う。
高山 昇
相原 澪
高山 昇
絡みついて来る視線を、粘り気のある声を、はね退けた。
昇くんの肩の動きが止まった。 大丈夫。断ち切れる。
昇くんの手を借りなくても、私は立っていられる。
相原 澪
相原 澪
相原 澪
相原 澪
_孝太くんが目を細めて微笑んだ。話は終わりとばかりに部屋のドアを開ける。
大丈夫。分かってる。 ドアの向こうに
満面の笑みを浮かべる、3人の小学生が立っていた。
相原 勝
相原 純太
相原 香織
高山 昇
廊下の奥で、困惑している昇くんのお母さんに、「俺が招いた」と真面目な顔で説明している昴くんが可笑しかった。
昇くんはそれらを一瞥すると、天井に向かって太い息を溢した。
従兄弟たちが、もう我慢出来ないとばかりに部屋に雪崩れ込んで来た。
相原 勝
相原 勝
相原 香織
相原 純太
_昇くんは天井を見つめたまま動かなかった。
従兄弟たちに手を引かれ、背中を押されながら部屋を出た。 続いて部屋を出ようとする孝太くんに
高山 昇
いつの間にか元の向きに戻った顔が、向きだしの憎悪がこもる目が、向けられていた。
高山 昇
山崎 孝太
昇くんに正対する孝太くんの、 表情は見えなかった。
山崎 孝太
高山 昇
昇くんが何か言う前に
そして私の顔が耳まで赤くなる前に
孝太くんは部屋のドアを閉めた。
相原 香織
相原 純太
相原 勝
山崎 孝太
相原 澪
_退室する寸前の、孝太くんのシゲキが強い発言は早速議題に上がった。
孝太くんは先ほどまでの啖呵が嘘のように頬を赤く染めて小さくなっていた。
山崎 孝太
相原 香織
相原 純太
相原 勝
山崎 孝太
相原 香織
相原 香織
相原 澪
相原 勝
相原 純太
相原 香織
相原 澪
相原 香織
相原 澪
_そしてドアは閉じられた。
6畳ほどの客室に私と孝太くんを残して。
山崎 孝太
相原 澪
何故か孝太くんの顔を直視出来ない。 …香織が変な事言うからだ。
相原 澪
声がひっくり返るのを感じながら、ベッドに腰掛けた。孝太くんも30センチほど間を開けて腰掛ける。
相原 澪
山崎 孝太
相原 澪
山崎 孝太
相原 澪
山崎 孝太
相原 澪
山崎 孝太
山崎 孝太
山崎 孝太
長い沈黙の末に、こちらを見ずに、孝太くんはポツリと言った。
山崎 孝太
山崎 孝太
相原 澪
相原 澪
山崎 孝太
身を乗り出したものの、羞恥で尻すぼみになる私に、孝太くんが初めて視線を向けた。
孝太くんの髪が顔に垂れるがそれには取り合わず、その視線は私を捉え続ける。 私は熱い顔のまま頷いた。
笑みを含んだ吐息が落ちて来た。 頷いたままでいる視界に、細くしなやかな指が映る。
孝太くんは私の右手を掴むと、開いていた距離を詰めて来た。
ベッドのスプリングが悲鳴を上げる_
山崎 孝太
塞がった。
孝太くんは唇を放すと、何を言うでも無く、もう片方の手で私の肩を掴んだ。
中学生と言っても、体育会系だ。その力は強く、あっという間に私をベッドの背もたれに抑えつけた。
私も抵抗しなかった。
孝太くんは私の脚の間に自身の片膝を侵入させて、私と正対する。 両肩を掴む手は、身動(じろ)ぎを許さない。
至近距離の、正面。 今まで経験した事の無い距離で、孝太くんと目が合った。
山崎 孝太
相原 澪
山崎 孝太
相原 澪
山崎 孝太
山崎 孝太
相原 澪
ベッドが断続的に軋む。
シーツに幾筋もの皺が刻まれ、消え、また刻まれる。
背もたれに強く押さえつけられる。 そこまでしなくても、私は逃げない。
孝太くんの背に回した手も、また強く布地を握りしめていた。
何度目かの口付けの後、
唾液の糸を指で拭うと、孝太くんはイタズラっぽく微笑んだ。
山崎 孝太
それはいつもの、そして愛おしく懐かしい笑みだった。 涙が溢れた。
相原 澪
女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2 第8章「挨拶」編 第6話
夜想曲
読み:ノクターン 【名】:静かな夜の情緒を表す楽曲
高山 昇
高山 昇
コメント
1件
ちょっと狙いました。敢えて夜に投稿しました。 こーたくん…(ニヤニヤ)。…いや、このあたりにしておきましょう。無粋な私めは控えますので、どうぞごゆっくり余韻にお浸りください。 読んでくださりありがとうございました❗️