テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夏休みのある日、私はふと思い出したように神社へ足を運んだ。
志保がいなくなってから、もう随分と時間が経っていた。
あの日、彼女は突然姿を消した。
誰も行方を知らず、家族も必死に探していたけれど、結局見つからなかった。
私は信じられなかった。
昨日まで隣で笑っていた友達が、突然消えてしまうなんて。
神社の鳥居の前に立つと、蝉の声が耳に降り注ぐ。
その音の中に、小さな鳴き声が混じった。
若林 志保(猫の姿)
見ると、赤い鳥居の下に一匹の猫がいた。
薄茶色の毛並みをした、小さな猫。
じっと参道を見つめ、まるで誰かを待っているかのように動かない。
その姿に、胸がきゅっと締めつけられる。
新山 日奈子
思わず心の中で名前を呼んでいた。
もちろん、そんなはずはない。
でも、不思議とその猫からは、懐かしい温もりを感じた。
後ろを通り過ぎた人々が、ひそひそと話している。
︎︎
︎︎
私は振り返り、もう一度その猫を見た。
夕暮れの光に照らされ、猫の瞳がきらりと揺れる。
まるで何かを伝えたそうに。
まるで、まだそこに「志保」が生きているみたいに。
私は手を合わせ、そっと祈った。
新山 日奈子
蝉の声の中で、猫は小さく鳴いた。
それが返事なのかどうかはわからない。
ただ一つだけ確かだったのが、
──あの鳥居の下には、今も誰かを待ち続ける祈りがある、という意味だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!