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結莉の主治医は松田(まつだ)先生と言う院長の男性だ。 この松田クリニックに通い始め5年以上になる。
結莉はドクターをとても信頼しているので、先日の痴漢のことを今日やっと話した。
松田ドクターは結莉の言葉を決して遮ったり否定したりせず、黙って話を聴く。
松田ドクター
結莉
松田ドクター
結莉
うんうん、と松田ドクターは頷いている。
結莉が唇を咬んで黙っていると
松田ドクター
とドクター。
結莉
松田ドクター
結莉は少し考え、答えた。
結莉
松田ドクター
結莉
帰りは……帰りは一人。そもそも行きに戸川さんに逢えたのはミラクルだ。
やって来た電車にホームから、深呼吸をして乗って行く結莉。
お昼過ぎで、ラッシュの時間帯ではないので座席に座れた。ホッとする。
この状態であれば痴漢野郎も悪事をして来やしないだろう。空いているので悪事を働けば丸見えだもの。
シートに座り車窓に広がる街並みを眺めていた。
結莉は(あたし、いつ社会復帰できるんだろう)と思った。
今は福祉の力を借りて質素な暮らしをしている。 社会復帰するとして、お給料が良いからと夜の仕事に戻ろうとはもう思えない。
人間不信……特に男性が恐ろしいのだ。ストーカーに遭うかも、しつこく言い寄られるかも、などとろくでもない想像が浮かぶ。
35才。ほんの少し、焦るような気持ちがある。
結莉
しかし今の結莉は元気になること、甚だしい恐怖心など感じない当たり前な心地になることが目下の仕事だ。
結莉
皐月はまだ学校だが、結莉は『悪者に見張られていることを想定』し、大きな声で「ただいまー」と、さも家の中に家族が居るかのようにするようにしている。
結莉自身、自分の怖がりにほとほと疲れるが、この行動は一般的にも防犯になるらしいから良いだろう。
おしゃれなワンピースからラフな部屋着に着替え、くつろぐ結莉。
いつもの癖でパソコンの電源を入れる。一番最初にすることは『ハートのたまご』の公式SNSのチェック。時々DJロリポップさんが、予告なく動画をライブ配信することがあるのだ。ラジオリスナーみんながそれを楽しみにしている。
結莉
と考えながら画面を見ていた結莉……。SNSのダイレクトメッセージの所にメッセージが来ているマークを発見。
結莉
結莉(=つむじ)のもとにダイレクトメッセージが届くのは稀だ。
なぜなら、長年『ハートのたまご』を聴いている仲間たちは、『つむじちゃんは人づき合いがあまり好きではない』ことを感じ取っているからだ。
メッセージをクリック。
結莉
なんと、ここのところちょっぴり気になっているジャン・ロイドンくんから。
結莉は戸川さんに心奪われながらも、ジャンくんのことを想うとドキドキしちゃう。
結莉
はやる気持ちを抑え、一度深呼吸してから目を通す。
ジャン君
途中で思い出した、結莉は。
結莉
しかし、人のことを言えない、同じタイプの結莉ではないか。 自分のことを棚に上げるとは、このようなことを言うのであろうか。
気持ちを切り替え、再び続きを読む結莉。
ジャン君
ジャンくんのことを気が多い男性? などと疑ったが、なぜか、胸の高鳴りを抑えきれない結莉。
結莉
なんてちょっと落胆する自分に気づく。
結莉は戸川さんを好きだが、別にお付き合いしているわけではないし、ジャンくんに返信をしたってかまわないだろう、と返信することにした。
(ジャンくんに逢ってみたいな)という興味がある。
でも……『オフ会』なんて気疲れする事柄には全く興味のない結莉だ。
結莉
結莉
結莉の中では、現実的にお逢いしている戸川さんへのときめきが大きい。でも、ジャンくんのことが男性として気になっているのも事実だ。
皐月
皐月が帰って来た。
結莉
皐月
結莉
なんだそれ? というキョトンとした表情をした直後
皐月
とキャッキャとし出した娘。
結莉
と言いながら結莉は、洗濯物を取り込むためにベランダへ逃げて行った。
皐月
皐月は気になる様子ではあったが半ばあきれ顔だった。恋多き母を知ってか知らずか。
***
『ハートのたまご』のオンエアー日がやって来た。 先に述べたようラジオは付けっぱなしの園河家。 結莉はミルクティーを淹れドキドキしつつ、スタンバイ。
結莉
思うことはいつも同じ。いつものDJロリポップさんの声がホッとさせる。
――――番組が始まり、中盤辺りでジャンくんの名前が出てきた。
ジャン君
結莉
聴いていてなんだか複雑な心地のする結莉。
結莉
ジャンくんのリクエストは今宵も甘いラブソングだった。
今回は90年代のシンガーソングライターの曲で、つむじこと結莉もアルバムを数枚持っている、素敵なシンガーだ。その上、この曲がたまらなく好きだ。
切ない片想いを歌っている内容だ。
結莉
改めてジャンくんを意識する結莉。
SNSは今日もワイワイしている。ジャンくんへ向けてつむじこと結莉は書き込んだ。
結莉
すぐにジャンくんから返信。
ジャン君
サトル
ラジオ仲間でも特につむじが仲良くしているサトルさんが声をかけてきた。
なんだか照れてしまう結莉。
ジャンくんが返信した。
ジャン君
すると他のリスナー仲間の女性が
女性リスナー
なんて優しい笑顔の顔文字付きでチャチャを入れてきた。
ロリポップさんが話し始めた。
DJロリポップ
嬉しそうなロリポップさんの明るいトーク。
キッチンでアイスクリームを食べていた皐月がアイスを持ったまんま結莉のもとへやって来た。
皐月
結莉
意味深に笑って見せる結莉。
皐月
と笑う皐月。
結莉
耳をそばだてる母子。
結莉
偶然にもジャンくんと同じような一節をお便りに書いていた結莉。そのことを自分で忘れていて、ロリポップさんが読み上げた時にハッとした!
隣で聴いていた皐月が
皐月
なんて言って向こうへ行った。
リクエスト曲は今流行っているとってもスウィートな恋の歌だ。
結莉
戸川さんと恋人同士でもないのに、けっこう『三角関係』を真剣に思い悩むお茶目な結莉である。でも……やっぱ悩むよね。
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コメント
1件
第6話「揺らめき」、読み終わりました。松田先生との診察シーン、ちゃんと話を聞いてもらえるって大きいよね。「見る人全員が悪く思える」って言葉、結莉の心の重さがひしひしと伝わってきた。そんな中で届いたジャンくんからのDMに、ちょっとドキドキしちゃう結莉の心情が可愛らしい(笑)戸川さんへの気持ちとジャンくんへのときめきの間で揺れる感じ、タイトル通りだなあ。ラジオ仲間の温かい反応も含めて、居場所が広がっていく予感がしてほっこりしました。