※結衣が昔遭った事故の日の話です
如月 結衣
それはとあるなにもない平日のことだった
如月 結衣
私たちの親はある日突然姿を消し、私はお姉ちゃんと二人暮らしをしていた
如月 結衣
正直最初は大変だったが数ヶ月が経った今はそこまで苦じゃなくなった
如月 結衣
生活費などが最初はギリギリだったが、私もお姉ちゃんもお互いにバイトの数を増やしてある程度余裕を持って生活できるようになった
如月 結衣
そして今、私たちはショッピングモールに来ていた
如月 結衣
「ねぇお姉ちゃん、なんで今日はここに来たの?」
円
「ふふ、最近新しい洋服とか買ってなかったでしょ?そろそろ結衣も新しい服ほしいかなって思ってね!」
如月 結衣
「やった〜!私ね、欲しい洋服いっぱいあったの!」
円
「でもあとで夕飯のお買い物しなくちゃいけないから今日は一つだけよ!」
如月 結衣
「はーい!!」
円
「ちなみに今日の夕飯は何がいい?」
如月 結衣
「んーなんでもいいよ!」
円
「結衣、なんでもいいが一番困るって前言ったでしょ?なんでもいいからなにか言ってみて!」
如月 結衣
「えー…ってお姉ちゃんもなんでもいいって言ってるじゃん!」
如月 結衣
「んーそうだなー…じゃあハンバーグとかどう?」
円
「良いわね、じゃあ今晩はハンバーグにしましょうか」
如月 結衣
「わーい!」
円
「でも今日はいっぱい買い物するから結衣も荷物いっぱい持つんだよ〜」
如月 結衣
「えー私重いの持てないよ…」
円
「お洋服は荷物を持てる人だけにしか買わないわよー」
如月 結衣
「わかったわかった!持つ持つ!!」
円
「ふふ、よろしい」
如月 結衣
「あ、そういえばさ、この前駅前歩いてるときに私お姉ちゃんのこと見かけたんだよね!」
円
「あら、そうなの?」
円
「なら声かけてくればいいのに」
如月 結衣
「いやだってあの時お姉ちゃんなんか立て込んでたように見えたし」
円
「あれ、そんなことあったかしら。私駅前行くときとかは基本一人だったはずだけど」
円
「結衣、それ人違いなんじゃないの?」
如月 結衣
「ううん、絶対あれはお姉ちゃんだったよ!」
如月 結衣
「なんか男の人と話してたよ!」
如月 結衣
「あ、もしかしてナンパじゃない?お姉ちゃん可愛いからしょっちゅうナンパされてるじゃん!」
円
「ふふ、それは結衣、あなたもでしょ?この前カフェ行ったときで私がトイレから戻ってきたときあなた男二人にナンパされてたじゃない」
如月 結衣
「あれはナンパっていうかなんかきもいだけだったよ」
円
「ちょ、辛辣…男たち泣いてるわよ…」
如月 結衣
「良いんだよあんな人たちは!」
如月 結衣
「ていうか話それ過ぎ。さてはお姉ちゃんごまかしてる?」
円
「そんなことないわよ。でも、私ここ最近でナンパなんかされてないと思うんだよね…結衣が見たのどんな人だったか覚えてる?」
如月 結衣
「うーんとね、年齢がパッと見30歳くらいかな…それで高そうなスーツ着てたと思う」
円
「高そうなスーツ…30歳くらい…」
円
「あー思い出したわ!」
円
「あれね、ナンパじゃなくて変な勧誘よ」
如月 結衣
「変な勧誘?どうな感じのやつ?」
円
「なんかアルバイトの勧誘よ」
如月 結衣
「どんなアルバイト?キャバクラとか?」
円
「ううん、確かレンタル彼女のバイトみたいなこと言ってた気がするわ」
円
「君ならレンタル彼女やっても儲かるとかなんとか言ってたけど正直怪しいからやめたわ」
如月 結衣
「レンタル彼女…どっかでその単語聞いたことあるようなないような…」
如月 結衣
「あー!思い出した!私も多分同じバイト勧誘されたわ!」
円
「ほんと!?」
如月 結衣
「うん。私もその時は確か駅前歩いててね、顔はちゃんと見てなかったから同じ人かどうかわからないけど言われた!」
円
「それで結衣はなんて返したの?」
如月 結衣
「えーっと確かね…」
如月 結衣
「普通に興味ないって言って断ったと思うよ」
円
「あはは、結衣らしいわね」
円
「まぁそういうのは気にしないのが一番ね」
如月 結衣
「うん、そうだね」
如月 結衣
「あ、ここだ!ここの服屋さんがお気に入りなんだよね!」
円
「あらそうなの、それじゃあ私も買おうかな」
如月 結衣
「うん、そうしよそうしよ!」
如月 結衣
「などと私たちは姉妹二人で買い物を楽しむのだった」
如月 結衣
「うへ〜重いよ〜」
円
「ほら、もうちょっとで家なんだから我慢我慢!!」
如月 結衣
「お姉ちゃんいくら何でもこれは買いすぎだよ〜」
円
「でも洋服も買ったんだよ?」
如月 結衣
「そうだけどさー」
如月 結衣
「でも重いものは重いよ…」
円
「でももう買っちゃったんだから頑張って持って帰るしかないでしょ?」
円
「それに私の方が重いんだから結衣も自分の分は自分で持ってね!」
如月 結衣
「う、うん…」
如月 結衣
如月 結衣
「重い…」
円
「もーそうやってずっとぶつぶつ言って…」
円
「ほら、あそこに信号あるでしょ?とりあえずあそこまでは頑張りましょ。あそこまで行ったら一旦荷物おろしていいから」
如月 結衣
「わかった…いったんあそこまでは頑張る…」
円
「よし!それでこそ私の妹!」
如月 結衣
そういいながら私たちはショッピングモールで買った重い荷物を持って帰路をたどっていた
如月 結衣
そして横断歩道の前までたどり着き私はそこで荷物を降ろし信号機が青になるのを待っていた
如月 結衣
その瞬間の出来事だった
如月 結衣
「もうすぐで家着くね!」
円
「そうね。夕飯美味しいの作ってあげる」
円
「でもその前にちゃんと手洗うのよ」
キィィィィィィィ!
如月 結衣
「はーい!」
如月 結衣
「ん?これ何の音かな?」
円
「結衣危ない!!!!!」
如月 結衣
「え…?」
ドンッ!!
如月 結衣
突然のことで何が起こったのかわからなかった
如月 結衣
目の前にトラックが現れたことまでは覚えていた
如月 結衣
そしてその瞬間だれかに突き飛ばされたような気がした
如月 結衣
私は恐る恐る目を開け一番に目に入ってきたのは、お姉ちゃんが頭から血を流して倒れている光景だった
如月 結衣
そこからはよく覚えていない
如月 結衣
というよりも何も考えることができなかった
如月 結衣
お姉ちゃんはすぐに病院に運ばれ一命を取り留めることはできたがずっと昏睡状態のままだった
如月 結衣
その診断を聞いた後は警察の人からの事情聴取があった
如月 結衣
だが、私はなにも語らなかった。何も語ることが出来なかった。語る気力すらなかった
如月 結衣
少し時間が経ち、段々とこれは夢ではなく現実であるという実感が湧き始めた
如月 結衣
そして、実感が湧き始めると同時に私の心には強い罪悪感が現れた
如月 結衣
私があの時注意していれば、私があの時もっと早く気づいていれば、お姉ちゃんがこんな目に遭うことはなかった
如月 結衣
私のせいでお姉ちゃんに大怪我を負わせてしまった。そう考えるようになった
如月 結衣
それから私は毎日のようにお見舞いに行っていた
如月 結衣
お姉ちゃんが目を覚ますことを祈って
如月 結衣
そしてそんなある日のことだった
如月 結衣
病室の中に主治医の助手がやってきて、お姉ちゃんの治療のために手術をした方がいいと言われた
如月 結衣
そして私はお姉ちゃんの怪我をいち早く治すために手術に必要な費用を集めることを決意した
如月 結衣
今やっているバイトでは給料が少なくいつ費用がたまるかわからない。だから私は新しいバイトを探すことにした
如月 結衣
できるだけ高収入なバイト…
如月 結衣
私はその時あの勧誘を思い出した
如月 結衣
お姉ちゃんを勧誘していた人は見るからに高そうなスーツをしていた…
如月 結衣
私はそこに望みをかけてあの駅前に向かった
如月 結衣
そして私はひたすらあの人を探した
如月 結衣
そして…
如月 結衣
「…すみません」
如月 結衣
私はなんとかその人を見つけることができた
スカウト
「君は…この前声をかけた子だよね…?」
如月 結衣
やはり私とお姉ちゃんを勧誘した人は同じようだった
如月 結衣
「はい…その仕事、まだ募集してますか?」
如月 結衣
その一言が始まりだった
如月 結衣
私の"レンタル彼女"としての人生の
如月 結衣
「って感じかな」
柊 綾人
「そうだったのか」
柊 綾人
過去の結衣の身に何が起こったのか、そしてなぜ結衣がレンタル彼女を始めたのか、それをついに結衣の口から聞くことができた
如月 結衣
「まぁもう何年も経ってるから昔ほど気負ったりはしてないからね」
如月 結衣
「でもこういう話、重いでしょ?だから今までなかなか打ち明けることができなかったの」
如月 結衣
「ごめんね」
柊 綾人
「謝らないでくれ…」
柊 綾人
「結衣、話してくれてありがとな」
柊 綾人
「俺になにができるかはわからないけど、それでももう結衣一人で背負わなくて大丈夫だ。俺が支えるよ」
如月 結衣
「そっか。ありがとね、あやと君」
柊 綾人
そういうと同時に結衣はにこっと笑いかけるのだった
柊 綾人
あれから二日が経過した
柊 綾人
本当はあの次の日に退院できる予定だったが、大事を取って数日退院を遅らせることになった
柊 綾人
そして今日がついに退院の日、俺は結衣を迎えに病院に来ていた
コンコン
ガラガラガラガラ
柊 綾人
「おーい結衣、迎えに来たぞー。準備はできてるかー?」
柊 綾人
俺はそういいながら病室に入り…
柊 綾人
柊 綾人
「え?」
柊 綾人
「どういう…ことだ…」
柊 綾人
病院に入った俺はその光景に呆然(ぼうぜん)としていた
柊 綾人
なぜなら…
柊 綾人
「結衣が…いない…?」
柊 綾人
どういうことだ…?
柊 綾人
退院は今日で間違いない
柊 綾人
すぐに探しに行ったがトイレにはいないし売店にも結衣はいなかった
柊 綾人
それにスリッパがあって靴がない
柊 綾人
てことは結衣は…病院を抜け出した…?
柊 綾人
でも一体なぜ…何のために…
柊 綾人
その刹那、俺のスマホから着信音が鳴り始めた
柊 綾人
俺はスマホを見て、そして電話に出るのだった
次回
最終回