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臣桜
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#心理戦
鬼霧宗作
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あいうえお
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市役所で支給された武器は、思ったよりも重たかった。
それらがぎっしりと詰まった鞄を肩に、彼女はただただ学校へ向かう。
明治6年太政官第37号
仇討ち禁止令
復讐ヲ厳禁ス
彼女の足取りはいつもより重たい。
しかし、それは気分が重いとか、そういう意味合いではなく、むしろ逆だった。
ある決意、やり遂げると決めた意思が、彼女の足取りを重く、そして厳かなものに昇華させていた。
まさか、こんな気持ちで通学路を歩く日が来るとは思わなかった。
昨日まで嫌で仕方のなかった学校が、そして顔を見るのさえ嫌だったあいつらと会える事が、こんなにも楽しみになるなんて。
令和18年法律17号
明治6年太政官37号、仇討チ禁止令ヲ特定ノ人物ニ限リ――。
解禁ス。
その馬鹿げた法律が通ってしまったのは、本当に愚策だと思う。
多くの専門家や著名人が反対をし、国会も一時的に騒然となった。
かつて、明治時代に禁止された仇討ちを、令和の今になって合法的に認めるなんて、実にふざけた話だ。
この法案を発案した人間が、何を考えて発案したのかは分からない。
けれども、毎日をどん底で過ごしてきた彼女――最上日向(もがみひなた)にとっては、ある意味で光となった。
もう限界だった。
あの日々を思い出すだけでもゾッとする。
お昼休み、四限の特別授業から帰ってくると、いつものやつをやられていた。
片親で仕事をしながら、それでも朝早く起きて母が作ってくれているお弁当。
それがゴミ箱の中でひっくり返っている。
これで何度目なのだろうか。
最初こそ、色々と対策を試みたが、お弁当だけ持って歩くこともできず、また貴重品としてどこかに預けることもできない。
購買のパンを買おうにも、家庭は生活でいっぱいいっぱいであり、自分のことを切り詰めて生活している母に向かって、昼食代を出してくれとも言えなかった。
もちろん、お弁当が悪意あるやつらに捨てられる――なんてことは絶対に話せない。
結局、やられたい放題というのが実情だ。
えみり
わざとらしく、こちらを見てニヤニヤしていたと思ったら、あちらから声をかけてくる。
実にわざとらしい。
みさこ
ひなた
言ってやりたい。
お前らがやったんだろ――と。
でも、それが言えればこんなことになっていない。
一方的に殴られるサンドバッグみたいには。
るな
るな
るな
るな
屋上は密室だった。
そう、彼女達にとって、都合の良い密室。
るな
るな
るな
るなが差し出した三角切りしたパンには、レタスに加えて――生きたムカデがサンドされていた。
えみり
えみり
みさこ
空気を読む。
それに徹するのであれば、ここは差し出されたものを食べるべきなのであろう。
しかし、パンに挟まれてはいながらも、数多の足でガサガサと動き回るムカデを挟んだサンドウィッチを食べられるわけがない。
ひなた
るな
るな
るな
えみり
みさこ
えみり
えみり
ひなた
るな
るな
るな
明らかに笑いを堪えている。
もちろん、この女は傷ついたりなんてしていない。
こうすることで、喜んでいるのだから。
取り巻きの、えみりとみさこも同様。
自分ではない誰かを見下すことで、自分の地位を確保することに必死だ。
誰かを下にすれば、自分は上に上がれる。
それが通用するのは、せいぜい高校生まで。
でも、彼女達は必死だ。
自らの地位を守ることで。
るな
ひなた
えみり
えみり
みさこ
みさこ
そしてみんなで笑うのだ。
こちらが何をしたわけでもない。
彼女達に損をさせたわけでもない。
それでも、彼女達は気に入らない。
自分達が損はしなくとも、誰かが得をすることを許せない。
きっかけは分かっていた。
るなの意中の相手である森野翔太(もりのしょうた)と仲良くしているからである。
だって、幼馴染だから仕方ないではないか。
るな
るな
ひなた
抵抗できぬまま、ひなたの口にパンが押し付けられた。
それから先は覚えていない。
マイナンバー 〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇
最上日向様
先日は個人国勢調査へのご協力ありがとうございました。
今回はその調査をもとに、あなたを仇討ち解禁令の対象として決定したことをお知らせいたします。
十数年前、北海道の神居古潭にて女子高生が殺害されました。
結果、死に追いやった被告には懲役27年が求刑され、控訴されずに確定しました。
これに対して遺族は異議を申し立てました。
その折、国会にて秘密裏に施行の準備が進んでおりました本施策を、ご遺族に提案いたしました。
法でも裁けない――法で裁くにも限界がある事件に対して、被害者の遺族はこれまで泣き寝入りをして参りました。
結果、ご遺族は模範囚として奇跡的に仮出所した被告を拉致。
神居古潭にて丸裸にし、拷問を尽くした後に、被告を欄干から突き落とし殺害しました。
本来ならば、犯罪行為ではありますが、国が認めた法により、彼らは無罪にて、現在も幸せな日々を過ごしております。
さて、この度は最上日向様が、この【仇討ち解禁令】の対象として選ばれました。
市役所への届け出より24時間、あなたがどんな仇討ちをしようとも、罪には問われません。
この法が、貴方を良き方向へと導いてくれること。
また、犯罪により理不尽な思いをしている方々の拠り所になってくれること。
心より祈っております。
内閣総理大臣 田之上義孝
仇討ち解禁令――。
それは、明治6年に制定された、仇討ち禁止令を、一時的に解禁する法令。
それを背負うは、昨日まではいじめられるままに生きてきた、ただの女子高生。
彼女が成り果てるのは鬼か――それとも。
ひなた