紅羽さんが起きてくれた日から1週間。
今日も私は紅羽さんの自宅で朝ごはん(夕方)を作っていた。
すみれ
すみれ
すみれ
ガチャ
そんなことを考えながら私が焼き鮭を裏返すと、起きてきた紅羽さんが寝ぼけ眼のままリビングのソファに寝そべった
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
相変わらず曖昧な返答の紅羽さんにも、1週間もすれば慣れてくる。
すみれ
紅羽
すみれ
普通麦茶を「むぎ」とは言わないと思う。
しかしこの紅羽さん独特の言い回しも、1週間もすればもう慣れっこなのでスルーした。
すみれ
そう思いながら、いつも通り紅羽さんに朝ごはん(夕方)を出すと、
彼はいつも通りゆっくりした動きでもそもそとご飯を食べ始めた。
すみれ
この1週間で分かったことが、いくつかある。
まず、紅羽さんは相当な偏食かつ少食であること。
嫌いなものには手をつけず、まず野菜はほとんど避けられる。
今日のほうれん草とササミのおひたしも、器用にほうれん草だけ避けて食べている。
すみれ
すみれ
つぎに、紅羽さんはとにかく夜行性でほとんど寝ていないと言うこと。
夕方に起こしてそのままスタジオに練習に行き、解散が10時ごろ。
0時から配信を始め、朝方まで。酷い時は昼まで配信し続けいる。
基本的に連絡はつかず、チャットは既読無視が平常運転。たまにスタンプや短い返答があればかなり良い方で、ひどい時は既読にすらならない。
すみれ
目覚まし係に成功していることもあって、私は紅羽さんが返さない連絡関係を、マネージャーさんの代わりに確認して伝えることも任され始めていた。
大体いつもこの食事中に聞いて、会社の事務所に着いたらマネージャーさんに伝えている。
すみれ
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
紅羽
すみれ
紅羽
最初は警戒していた紅羽さんもだんだん私という存在に慣れてきたのか、
今はこうして、ぶっきらぼうだが普通に返事をしてくれるぐらいにはなった。
紅羽さんは味噌汁を啜りながら、目をしぱしぱさせている。
いつも病的に白い肌が、今日はさらに青白く見えた。
すみれ
紅羽
すみれ
すみれ
紅羽
『フォリ掘り』とは『フォリアージュの掘り出し映像』というインターネットエンタメ番組で、
紅羽さんと奏さんが2人で普段やらないことに挑戦してみるバラエティ番組だ。
1日にまとめて何本か収録するので、拘束時間が長く、明日はライブのレッスンはお休みになったということである。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
そう思いながら、私はいつも通り事務所へ向かうタクシーの迎車手配をした。
先生
紅羽
先生
奏
事務所でマネージャーさんと少し情報共有などのミーティングをした後、私は紅羽さんを送り届けたスタジオの様子を覗きにきていた。
先生
紅羽
紅羽さんはそのままバランスを崩して後ろ向きにバタッと倒れる。
紅羽
奏
先生
すみれ
紅羽さんは、振り付けを覚えるのは早いようだが、
体幹が弱いのか、姿勢をキープするのに難航しているようだ。
すみれ
すみれ
私が不安を抱えながらも機材の後ろで見守っていると、どうやら練習はちょうどひと段落するタイミングだったようだ。
先生
奏
紅羽
「ありがとうございました〜」と挨拶をし合って、ダンスの先生はスタジオを出ていく。
入れ替わりに、私は差し入れのために買ってきたスポーツドリンクを2人に差し出した。
すみれ
奏
すみれ
奏
奏さんは大汗をかいていると思えないほど爽やかな笑顔で笑いかけ、私からスポーツドリンクを受け取った。
紅羽さんは、「あーっ!」といらただしげに声をあげて、床に転がっている。
紅羽
奏
紅羽
紅羽さんはお礼も言わずに受け取ると、そのまま渡されたペットボトルを額に押し当てた。
どこか心ここに在らずと言ったように遠く天井を見つめている。
そして、突然ガバッと起き上がると、スポーツドリンクを飲んでいる奏さんに話しかけた。
紅羽
奏
紅羽
奏
紅羽
奏
曲の位置を確かめると、奏さんはすぐにさっと立ち上がって、カウントに合わせて先ほどのダンスを踊り始める。
奏
奏
紅羽
華麗に振りを披露する奏さんを、紅羽さんは胡座をかきながらじっと凝視して、
奏さんが踊り終わると立ち上がって、自分でも振りを確認し始めた。
紅羽
奏
紅羽
奏
すみれ
すみれ
水を飲むのも忘れるくらい、熱中して
ひたすらに鏡と向き合い、奏さんと相談しながら振りを練習している。
すみれ
紅羽さんは一見チャラチャラしていて攻撃的で不真面目そうに見えるけど
本当は熱血漢で身内を大切にするひたむきな人だ。
配信ではあえて見せていないけれど、そういう根っこの部分が、紅羽さんの人気を確立している。
すみれ
すみれ
紅羽さんのひたむきさはとても美しいけれど、諸刃の剣で、ひどく危うい。
私は練習を続ける紅羽さんの後ろ姿を、少しだけ不安な気持ちで見つめた。
なぜかはわからないが、何かとても良くないことが起こる予感がしたのだ。
すると、練習を続けていた紅羽さんが私の視線に気づいて、言った。
紅羽
すみれ
一瞬、反応が遅れて、すぐに私の事を呼ばれたのだと気がついた。
紅羽さんから名前…、じゃないが、私の事を呼ばれるのは初めてだ。
奏
紅羽
たしなめる奏さんも軽くあしらうと、紅羽さんは私に命令するような口調で言う
紅羽
紅羽
すみれ
すみれ
どうやら紅羽さんたちはこの後もここで自主練をするようだ。
私はそこはかとない不安を抱えながらも、ひとつ心に決めた事をかかえて、
空き時間を確認しに、紅羽さんのマネージャーを探しにスタジオを出た。
執務室に戻って紅羽マネを探すと、つい先ほどミーティングをしていた会議室から出てくる彼を見つけた。
すみれ
すみれ
紅羽のマネージャー
マネさんは快く受け入れてくれ、今しがた出てきたばかりの会議室にもう一度2人で入る。
紅羽のマネージャー
すみれ
すみれ
紅羽のマネージャー
すみれ
紅羽のマネージャー
すみれ
私は少しだけ緊張して、ごくりと唾を飲み込む。
すみれ
その時、すこしだけマネージャーさんの顔が強張るのがわかった。
私だって、この申し出が越えちゃいけないラインを越えているのはわかっている。
それでも、胸の中にざわざわとざわめく、嫌な予感を払拭したかった。
すみれ
紅羽のマネージャー
すみれ
私が見ているのは紅羽さんのほんの一部分に過ぎない。
でも、きっと、みんなが見えていない部分だってある。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
紅羽のマネージャー
私は頷いた。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
ずっと、不思議だったのだ。
いくら、自然に起きれるように促しているからと言って、
連日深夜まで配信してぐっすり眠っているはずなのに、たかだか料理の音で毎日起きてくるのは明らかにおかしい。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
私の必死の訴えに、
マネージャーさんはノートパソコンを難しそうに睨みつけながら、「うん、」と頷いた。
紅羽のマネージャー
紅羽のマネージャー
紅羽のマネージャー
紅羽のマネージャー
すみれ
紅羽のマネージャー
すみれ
紅羽のマネージャー
紅羽マネにそう褒められて、私はほっと一安心した。
よかった。
これで、紅羽さんも少しは休めるはず。
余計な事をした自覚はあった。でも、余計な事をしなければ、危うく紅羽さんたちのファーストライブが失敗してしまうかもしれない。
すみれ
すみれ
たかが目覚まし係でも、ファーストライブを成功させるための目覚まし係だ。
このプロジェクトに関わったからには、
絶対に紅羽さんの努力を無駄にしない。
私は人知れず、そう胸に誓った。
…それが、あんなことになるなんて、
この時は、露ほども思っていなかった。
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