テラーノベル
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二十歳の春。 高専の門をくぐるのは、卒業式以来だった。 相変わらず広い空と古びた校舎が出迎えてくれる。
鏡を見るたび、昔の自分より少しだけ大人びた顔がそこにあった。
星乃 絵梨
高専の廊下を歩いていると背後から聞き慣れた声がして、振り返る。
そこに立っていたのは、白髪の長身、 変わらぬ姿の同期の五条悟。 その足は一瞬止まり、口角が僅かに上がる。
五条悟
名前を呼ばれるだけで、胸がきゅっと締めつけられる。
星乃 絵梨
丁寧に頭を下げると、五条は珍しく言葉を選ぶようにして、ゆっくりと視線を上下させた。
五条悟
軽口のはずなのに、五条の声は少し低く、どこかためらいが混じっていた。 それが妙に胸に響いて星乃は視線を逸らす。
でも今、目の前にいるのは、背も少し伸び、肩幅も広くなって、低い声が大人の男の色を帯びた五条悟。 視線の奥が見えないはずなのに、真っ直ぐに見つめられているようで、心臓が落ち着かない。
五条悟
五条悟
星乃 絵梨
星乃 絵梨
星乃 絵梨
五条は、一瞬黙りゆっくりと片方の口角を 上げた。その笑みは、どこか懐かしいのに、昔よりもずっと柔らかく感じた。
星乃 絵梨
あの頃は、分からなかったけど。 きっと初恋だったんだ。 なんでも夏油に相談していたけど、ほとんど悟のことばかり話していた。
笑った顔が好きだとか、任務中の背中が格好良かったとか。 夏油はきっと気づいていたんだろう。 でも私は、その感情を恋と呼ぶ勇気がなかった。
あの頃、距離は縮まらないまま 終わってしまった。 もう、あんなふうにすれ違いたくない。
五条悟
五条悟
五条悟
五条が軽く手を上げて歩き出す。 その背中を目で追いながら、星乃は深く息を 吐いた。
胸の奥で、春の空気が熱く揺れる。 再会の喜びと、まだ消えていない初恋の痛みが混ざり合ってこれから先の時間が、また動き出そうとしているのを感じた。
星乃と別れて廊下を歩きながら、僕は無意識にポケットの中で拳を握っていた。
五条悟
高校生だった頃の幼さはすっかり抜けて、輪郭も少し細くなって。 昔は『可愛い同期』だったはずが、今は綺麗、という言葉が真っ先に浮かぶ。
声も変わった。 芯の通った柔らかさがあって、耳に残る。 それなのに、笑うと昔のままの星乃がふっと顔を出すから、余計に胸がざわつく。
認めたくなかったけど、あの頃から彼女は僕の中でちょっと特別だった。
誰かを守るためなら一歩も退かない芯の強さ。媚びないくせに、素直に「ありがとうございます」と笑うところ。そして、そんな自覚もなく、たまに距離が近すぎる無防備さ。 それら全部が、妙に目に焼きついて離れなかった。
五条悟
食堂の隅で傑と星乃が笑い合っていたあの日、僕は勝手に「そういうことか」と決めつけて、踏み込むのをやめた。 おかげで、彼女の隣に立つ資格なんて自分にはないと思い込んだまま、時間だけが過ぎた。
それでも——。 また高専に戻ってきた理由を聞いたとき、「僕の力になりたい」なんて言われたら…冗談抜きで揺れるに決まってる。
ポケットの中の手を緩め、深く息を吐く。 星乃が、大人になったように、僕も大人にならなきゃいけない。 そう思っているのに、さっきの笑顔が頭から離れなかった。
コメント
2件
ハロー様 続き楽しみにして頂き有難う御座います。 コメントもいいねも有難う御座います。
続き楽しみすぎてやばい!続き楽しみにしてます!