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お母さんの描写でさ、「いつもと違って」とか「普段はこうするが」って書くとわざとらしいかなって思ってたんだけど全然そんな事ないね。 むしろいつもとチグハグな行動をする緊迫感がダイレクトに来ていいわ。
第30話、読み終えました。冒頭のともり母の絶望的な内省から始まって、一転して三人の賑やかな海沿いドライブ──その温度差がまず印象的でした。特に「ぴえん」「ぱおん」「ぺぬん」の流れ、久美子さんが造語の背景を語るシーンは、彼女の人生観が滲んでいて好きです。ともりが紅里夢に「普通の女の子」と言い、それを全部含めて良いと伝える場面も温かくて。ただ、台風の中での危険な逃避行、そして最後の「二人で話したい」の伏線がどう転ぶか、次が気になります。
『幸福が満ちる』……だなんてよく言うが、私には彼らの言う幸福がわからない。
満ちるのは、いつだって不幸だった。
私の人生とは何だったのだろうか。
両親が愛し合ったわけでもなく生まれ、その二人のために生きた。
私とは何なのだろうか。
時折、吐き気が抑えられない。
……色々なことがあった。
しかし、私が過去を振り返る時、いつも一番に浮かぶのは"彼女"のことだった。
泣き虫で……弱虫な……彼女のことを。
――西空ともりのことを。
返事がない。
奇妙な感覚があった。
今は亡き夫との日々が、ともりの母の脳裏をかすめる。
どうしようもない絶望とそれ以上の想いからくる、やるせなさの混じった――
あの人の纏っていた空気感が、この家を覆っているように思えた。
自分と家とその外が、強烈な概念に絶たれている感覚。
静寂の中で台風が網戸を揺さぶり、音量を誤ったアンプのような爆発が、そこらで起きているとわかる。
今の彼女の聴覚は冴えていた。
非常に騒がしいということはわかる。
しかし、それでも不思議なことに、この家の中はすっかり静かだと感じた。
そして、その原因が他でもない愛娘、西空ともりであるということも確信できていた。
非現実的ではあるが、ともりの母は彼女が幽霊になってしまったと考えていたのだ。
ともりの母は何秒かその衝撃に動けなかった。
聴覚が心臓の音で正常になり、他の感性が蘇る。
はじめに戻ったのは嗅覚。不快ではないものの、何かまずい香りがした。
ふと視線を落とすと、パンケーキが焦げていた。
火を止め忘れていた……いや、今はそんなことはどうでもいい。
私はいったい何秒――いや、何分こうしていた?
いや、違う。それもどうでもいい。
ともりは……ともちゃんは無事なのか!?
ともりの母は遂に焦りを覚えた。
火を止めると同時に廊下へ飛び出す。
玄関の方を一瞥した後――この天気だ。それは無いだろう――と反対に歩いた。
まだ倒れているのではないか?
これが最も大きな恐怖だったが、そうではないとわかり、安堵のため息をこぼす。
時計の針は十二時四七分、一八秒にある。
普段は四七分も五〇分ということにする彼女だったが、今ばかりは秒数すら重要に考えていた。
生死が関わる予感があれば、誰であれそうなる。何のためかは知らないが。
最後にたどり着いたのがともりの部屋。
実を言えば、彼女はこれを見る前から、西空ともりがここにいないことを知っていた。
西空ともりは部屋にいる時には、必ず扉を閉める。
話を聞くに部屋にいる時には、机に座ることが多いようだが、背後からの視線が不得意らしい。
視線があるかもしれない、という状況そのものが無理らしい。
ともりの母が階段を上がる途中、手すり越しに見えた扉は半端に開いていた。
いざ部屋に足を踏み入れても、やはり西空ともりはいなかった。
ともりの母はその瞬間、台所での確信がより完璧な確信に変わったのを理解した。
腰から下の力がすべて抜ける。実際のところは定かでないが、涙が流れる感覚もあった。
あまりに気が動転していたので、その瞬間のすべては彼女にとって、映画のワンシーンのように感じられていたのだ。
この後、ともりの母はいつの間にか眠りに落ちてしまった。
目を覚ましたのは三〇分ほど経ってから。
そして、ゆっくりと立ち上がり、机の上に一枚の紙が置かれていることに気がついた。
そうだ、私は映画を観ているのだ。いいや、これは夢なのだ。
――そう思いたいような気分だった。
もはや、書かれていることを確認する必要はなかった。
ただ、ずっと恐れていたことが起こっただけだと。
何らかの神的存在から、私と夫への天罰が始まったのだと。
西空ともり
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山本紅里夢
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三人は今、海沿いを走っている。
ナビレーション機いわく、しばらく道なりとのこと。
西空ともり
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台風上陸から時間が経過していたためか、その勢力は落ち着きつつあり、
結果として津波のことは完全な杞憂だった。
私たち三人は海沿いを走り、街を抜け、トンネルをくぐって、峠に突入。
キャンプ場までもうしばらくというところで、再びナビレーションが道なりを指示した。
西空ともり
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十六時を回ったあたりの時刻で、三人は目的のキャンプ場へ辿り着いた。
木々に囲まれた山の半ばのキャンプ場だった。
今回ここに決めた理由は、なんとなくこういった囲まれた場所のほうが安心できるというのと、
台風接近の中でも営業していたためである。
主に後者によって決まった。
虫嫌いのともりは反対したが、この状況で営業している湖や海沿いのキャンプ場は恐怖でしかない。
当日の予約で不安はあった。しかし、これは逆に台風が幸いした。
どうやら多くの客は賢明な判断により、キャンセルを選択したようだった。
このことは予約で電話した、陽気なお姉さんから既に聞いていた。
だが、いざ着いてみれば、そこには私たちしかいなかった。
台風の中で営業しているなら、湖沿いであろうと、海沿いであろうと、山中であろうと、
どこであっても恐怖でしかないということを三人は学んだ。
なお、久美子さんだけは、その恐怖を心の底から喜んでいた。
山本紅里夢
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