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泣ける😭😭 いい話をありがとうございます😭
初夏、某日。
徐々に大きくなる音楽と共に、アラームが鳴る。元は好きだったこの曲も、今となれば一種のトラウマに近くなってしまった。 何なら最近お気に入りのミックスリストから消した。
Kz
重たい身体を半無理やり起こし、 欠伸と共に目を開ける。 ああ、今日も変わらない。
そんな話で始まったのは、 蝉も鳴かない 夏の初めの記憶だ。
階段を降り、リビングを目指す。 ソファの上に置き去りにされたリモコンを手に取ってはテレビをつけるが、番組は適当。 今朝はたまたまニュース番組だった。
ニュースキャスター
Kz
この頃、ずっと雨が続いている。 神様でも怒らせてしまったのではないかと不安になるくらい、厄介な雨。
こんな日に学校とかだるすぎだろ。 なんてネガティブな独り言を曇り空に乗せ、ソファに頭を乗せては楽な姿勢をとる。このまま眠ってしまおうか、 と思った矢先__
ニュースキャスター
Kz
ニュースキャスターが告げるには、俺の住んでる市で殺害事件が起こったとか、そんなやつ。 流石に他人事じゃいらんねえよなあ、なんてまた独り言を零す。
叶でも誘って学校をサボってしまおうか。 事件やら豪雨やらで世間は忙しいのだから、少しくらい羽目を外したって誰も咎めたりなんてしないのだから。
ピンポーン
ココアでも飲もうかとマグカップを手に取った時、玄関先からチャイムの音が響く。 さっきのニュースが頭をよぎっては自身の身体を震わせた。 流石に、いや、そんな事は絶対にないだろ なんて己を暗示しては、重たい足取りでそちらへ向かった。
Kz
Kn
扉を開けば、そこには雨でぐしゃぐしゃになった叶がいた。服も髪も地肌に溶け込んで、雫が滴っている。 そのザマが水溜まりに突っ込んだ犬のようで自然と笑みを浮かべてしまった。
Kz
ちょっと待っとけ、なんて一声かけては 洗面台にあった 洗濯済みのタオルを叶に目掛けて投げつける。 見事にキャッチした叶は、それで拭くどころかタオルを握る拳を下ろしたままでいる。
Kz
おかしい。その時そこで確信した。 目の前の奴は叶だ、だけど叶じゃない。 いつもの、叶じゃない。
Kn
濡れた髪で見えなかった顔が、ゆっくりとこちらへ向く。甘く垂れた目元が、何処か虚ろげな様子でこちらを凝視する。
その時、こいつは言ったんだ。 なんて言ったと思う? 俺もびっくりしちゃったよ、今まで生きてきて初めて聞いた言葉だった。
勿体ぶらずに言えってな、わかってるよんな事。こいつね、こう言ったんだよ、
Kn
甘い言葉が得意な薄い唇で、そう告げたんだ。俺は驚きすぎて何も言えなかったし、何故か頭は冷静だった。 今朝見たニュースの犯人も、こいつなんだってすぐに理解した。 でも、こいつが人を殺すわけねーじゃんってさ、一発ぶん殴ってやりたくなったわけ。だって有り得なくね?叶だぜ、
Kz
なんて、意味もなく脅してみた。 こんな大事な時に何言ってんだろーって自分でも思った。 でもこいつに殺されるなら別に悪くねえなって思ったんだよ、変な話だよな。
Kn
ぽろぽろ、彼の頬から流れるのは雨雫だろうか。それとも他の何か?俺には分からない。理解ができなかった、なんで泣いているのかも、なんで謝られているのかも。 何もわかんないし、なんて声を掛ければいいのかもわからない。
Kz
そうだ、この時出した俺の答えは、 これだった。2人で逃げてしまえば、罪も半分こになるんじゃねーのって。 馬鹿だよなあ、2倍になるだけだってのに。
財布を持って、ナイフを持って、携帯もゲームもカバンに詰めて。 それ以外のものも全部、全て置いて行ってしまおう。
Kn
何も言わない、言おうとしない叶に痺れを切らし、腕を引っ掴んでは外に飛び出す。
人殺しと、ダメ人間の、 お前と俺の長い長い旅。
Kz
Kz
傘もない、無慈悲に降り注ぐ雨粒に身を委ねることしか出来なかった。 地面に落ちる雨音と、愉快そうに笑う声だけが辺りに転がっている。 もう一人の青年は、未だに口を閉ざしたままだった。
Kz
彼はやっと口を開く、唯一の理解者であり長年隣を居座ってきた葛葉にとってこの所業は容易い事で。
Kn
Kn
そう、どこか他人事のように話す横顔が苦しかった。
Kz
荒げた声で言葉を投げる。 悪くない、お前は、何も。どれも。何も悪くなんてない、決まっている。
Kn
言いかけたところで、名を呼ばれて気づく 叶は何を望む? 何を、何を望んで今ここにいる?
Kz
叶は安堵したまま微笑んで、俺の頬に唇を落とす。子をあやす様に、優しく。慈悲深く。
Kn
Kz
叶は何も言わなかった。 例えこいつが拒もうと俺は絶対に着いてきてたと思うし、その気持ちは変わらない。 それを見透かされていた。きっと。
罪を分け合いたかった。 増やすのではなく、分けて、二人で。 この時にそう言ってしまえば良かったんだ。 だってほら、人殺しなんてそこら中に湧いてるじゃないか。
なあ叶、何回でも言うよ、 お前は何も悪くない。何も、悪くなんてない。
Kz
Kn
逃げ場所も知らない 人殺しとあぶれ者は、線路を辿っていた。 行き先のない旅路は、教室という牢獄に閉じ込められていた俺らにとっては新鮮なもので。
Kn
そう言って俺の手を取り、満面に笑う叶に見惚れたのは内緒にしておきたい。 つか繋いで良いって言ってねえし。
Kz
Kn
先程まではぷるぷると震えていた指先も、今ではもう既に無くなっていた。 冷たかった手も体温を取り戻して、暖かくて心地がいい。
Kn
Kz
ぎゅぅ、と抱き寄せられ、何事かと戸惑った。無駄に強いこいつの力に勝てるわけが無いし、大人しく突っ立っていることしか出来なくて。
Kn
なんだよ、とか。離せ、とか。 前までならそう言って笑えたのに今はそんな余裕すらなかった。 濡れた背中と肩に触れ、抱き締め返してみる。
Kz
その時、そっと口付けを交わしたのは酷く自然すぎたことで。お互い何処か可笑しくて笑い合った。
再び指先を絡め合っては、また線路の上を歩き出す。 行き宛も無いまま、たった二人で。
いつか、夢を見た。
優しくて、老若男女誰にも好かれる主人公になれたなら。そんな主人公が目の前に現れてくれていたら。
汚れた、世間から外れた僕も見捨てずに 救っていてくれただろうか。
クラスメイト
クラスメイト
葛葉が居ない、今朝だったっけな。 一人のにやけた表情を浮かべたクラスメイトは僕の恋人を嘲笑った。
スルースキルすら持ち合わせていない、餓鬼すぎた僕は感情に任せて そいつを階段から突き落とした。
嘲笑から打って変わった、絶望と驚愕に満ちた表情で僕は我に返ったけれど、後悔をした訳では無い。
頭から落ちた彼は、鈍い音と共に生臭い血を流した。
打ち所が悪かったんだ。
Kn
Kz
主人公なら、僕たちを救ってくれて居たのかな。なんて、盗んだアイスを頬張る彼に問いかけてみる。
Kz
Kn
何がだよ、と少々不服そうに唇を尖らせる姿はまるで幼い子供のようだった。 幸せにしたかったし、なりたかった。 二人だけで、ずっと。
今更悔やんだって遅いこと。 そんなの自分が1番よくわかっていた。
わかっていたから、悔しかった。
Kn
そうとすら思えないのなら、どうやって自分を守るんだ。他愛主義も、自己愛主義も、1つのエゴイズムでしかないしそれ以下でもそれ以上にもなり得ない。
Kz
少し寂しそうに眉を下げたのを、僕は見逃さなかった。かける言葉もなかったが、握った手に力を込め。また足を進めた。
蝉はよく鳴いて、街全てを包み込んでしまうほどだった。
宛もなく彷徨う姿はまるで俺達のようで。 ペットボトル一本分程の水も無くなって視界はついに揺れ動いていて。
潮時が近付いている。 俺も、きっと叶もそう思っただろう。
警察
鬼たちの怒号が耳を劈き、数々の大人に見付かってしまったことに気付く。
Kn
Kz
そう言う自分も笑っていて。 終わりたくない、なんて逃げながら今更考える。
永遠はないのだと、神様は笑った。
命を大切にしなさいと、大人は言った。
救って欲しかった。 そんな夢を捨ててでも、そう願ってしまう自分が酷く汚く見える。
Kn
Kz
Kn
Kz
リュックサックからナイフを取り出しては、叶はそれをくるくる回して手で転がして見せた。
Kz
その時が初めてだった。 こいつに強く突き飛ばされて、地面に尻もちを着いたのは。
Kz
叶は表情を変えることなく、俺を見下ろしては口を開いた。
Kn
Kn
やめろ
Kn
やめてくれ、
Kn
警察
叶は首を切った。
持っていたナイフで、俺の前で。 その手は震えてすらいなかった。
警察に捕まった俺は、そのまま保護されて事情を聞かれたが白昼夢を見た心地になって上手く言葉にならないでいた。
お前は何処にいる?
どこにもいない、見つからない。 パトカーに乗ったのも俺一人。 事情聴取を受けたのも俺だけ。
親に抱きしめられたのも、俺だけ。
お前だけが、どこにもいないまま。
時は過ぎていった。
3度目の夏が過ぎて、冷たい風が吹いて季節は変わった。
クラスメイト
Kz
家族も、クラスの奴らもいるのに
何故かお前だけは何処にもいない。
今でもずっと、あの夏の日を覚えてる。 初夏の匂いに包まれると、またお前の声が聞こえる気がして。
最初はみんながみんな揃ってお前の名前を口にしたのに、今では誰も何も言わない。 お前が居た証も、二つ減った机も椅子も、最初の"違和感"にもう馴染んでしまっている。
何年経ってもお前を探し続けてる、お前に言いたかったこと、言えなかったことがずっとあって。
クラスメイト
クラスメイト
その聞き飽きた質問に、俺は笑って返す。
Kz
9月の終わりに、閉ざした記憶にクシャミをして。
6月の匂いで、思い出しては夏を繰り返す。
クラスメイト
Kz
お前の笑顔も、無邪気さも
俺の頭の中で飽和し続けている。
誰も何も悪くない、悪くなかった。
お前は絶対、何も悪くはないから。
投げ出していい、投げ出してしまおう。
そう言って欲しかったのだろう。
なあ?
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