テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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『幽霊相談、承ります』

第1話 - 『誰も居ない部屋』

111

2020年10月06日

#ホラー

#ミステリー

#長編

#連載

#一話完結型

黄葵黒豆

？？？

ねえ、知ってる？

？？？

夜な夜な聞こえてくる不思議な足音の話──

『誰も居ない部屋』

ひまり

ここは……これを代入して……

ひまり

あー！！　だめだ！

ひまり

まじでわかんない

ひまり

律か和紗にこの問題きこう……

ダダダダダダッ……

ひまり

っ……！

ひまり

（まただ……）

ひまり

（誰も住んでいないはずの上の階から、誰かが走り回る音がする……）

ダダダダダッ……

ひまり

（……ほっ）

ひまり

（他の部屋に移動したみたい）

ひまり

ほんと、なんだろう

ひまり

ねえ

ひまり

きいてよ！

律

ひまり

また出たの！

和紗

律

ああ

律

前言ってたやつか？

和紗

え？　大丈夫？

和紗

まだいるの？

ひまり

そう、それ

ひまり

いや

ひまり

今は居ないんだけど……

和紗

ひまり

正直、

ひまり

いろんな意味で大丈夫じゃない……

和紗

どした

律

なんかあったのか？

ひまり

まず一つ目

ひまり

今日の数学の問題がわからん

和紗

くさ

律

心配して損したわ

和紗

律

寝る

ひまり

は！？

和紗

ひまり

ちょ、寝るって……！

ひまり

まさか宿題終わってる……？

和紗

私も終わってる～

ひまり

うそ

和紗

まじまじ

ひまり

ぴえん

和紗

で？

ひまり

あ、

ひまり

そう

ひまり

また聞こえてきたの……

和紗

それ、今日はどこから？

律

和紗

上の階？

和紗

それとも

ひまり

上の階！

ひまり

和紗

ひまり

今は他のところに走っていったみたいで、近くでは聞こえてこない……

律

和紗

そっか

律

ねずみとかじゃねえんだよな？

ひまり

うん……

和紗

ひまり

ねずみがあんな大きな音立てられないと思うし……

律

和紗

不謹慎かもだけど

和紗

ちょっと気になるな

ひまり

律

和紗

聞いてみたい　笑

律

たしかにな

律

実際聞いてみねえと、解決策もわからないし……

ひまり

笑い事じゃないよー

ひまり

怖過ぎて今日も宿題に手がつかないし！

律

それは

和紗

律

おまえが数学苦手なだけだろ

ひまり

バレたか

和紗

ねえねえ

和紗

今度、このメンバーでさ、お泊り会しない？

律

は？

和紗

ひまりんとこで！

ひまり

律

いやいやいや

ひまり

それ、名案！！！

律

は？？？

律

お前ら何言ってんだ

和紗

いえーい！

律

和紗

決まりだね！

和紗

日にちいつにするー？

ひまり

そだなー

律

いやいやいや

ひまり

？

和紗

🤔？

律

つうか俺の話聞けよ！

律

俺男だぞ？

ひまり

？🤔？

和紗

🤔??

律

てめえら……

ひまり

いや

和紗

ひまり

私ら幼馴染みじゃん

和紗

だよねえ

和紗

正直

和紗

俺男だぞ！？と言われてもなあ

ひまり

律は律というか

和紗

性別:律というか

律

……

和紗

私はいつでも泊まりにいけるよー！

ひまり

おけ！

ひまり

なら早速明日とか？

ひまり

二人はどう？

律

和紗

大丈夫！

ひまり

りょ

ひまり

律もだよー？

和紗

律ー？

律

わかったよ……

ひまり

明日のお泊り会、楽しみだなあ

ひまり

お泊り会の用意もしないとね！

ひまり

……あ

ひまり

忘れてた……

ひまり

お泊り会の前に宿題なんとかしないと……

ダダダダダッ……

ひまり

（また、足音がする……）

ひまり

（何が原因なんだろう……）

次の日

ひまり

さ、入って入って！

和紗

おじゃましまーす！

和紗

うわー

和紗

全然変わんないね、ひまりの部屋！

律

……お邪魔します

ひまり

ねえねえ、二人とも何飲むー？

ひまり

コーラ？　麦茶？

ひまり

それともオレンジジュース？

律

あ、俺コーラ

和紗

はいはいはーい！

和紗

私は麦茶ー！

ひまり

おっけ

部屋の中の冷蔵庫から、コーラと麦茶、オレンジジュースを取り出し、事前に用意してあったグラスに注いでいく。

ひまり

それじゃ、かんぱーい！

律

かんぱーい

和紗

かんぱーい！

ひまり

ぷは～！

ひまり

おいしー

律

おっさんかよ

和紗

ほんと、いい飲みっぷりだね

ひまり

うるさいなあ

ひまり

あ、そーだ

ひまり

お菓子もあるよ～

和紗

わーい！

律

おまえら、太るぞ

ひまり

律

和紗

あんた今、全女子を敵に回したよ？

律

全女子て……

そんなくだらないことを話しながら、面白おかしく過ごしていると、いつの間にか時計の針が7時を指していた。

ひまり

あ、ねえ

和紗

んー？

ひまり

もう7時だよ

ひまり

そろそろご飯する？

和紗

だね！

和紗

もうお腹ぺこぺこー！

律

いや、お前らずっとお菓子食ってたじゃん

和紗

お菓子は別腹なの！

律

あ、そう

ひまり

とりま、簡単なのでいいー？

ひまり

作ってくるね！

律

おう

和紗

りょ

自分の部屋から出ると、正面に水屋、左側に台所に続く廊下──といっても5.6歩で台所につくのだが──がある。台所の向かい側はリビングで、食卓の上には母親が作ってくれたカレーが置いてあった。中抜けを使って職場から一度自宅に帰宅し、私達の為に作ってくれたものだ。カレーの他にサラダか何かを作ろうと、冷蔵庫を開ける。

ひまり

きゅうりにレタスにトマト……

ひまり

うん、十分だね

食器棚に向かい、サラダの取り分け用小皿を用意し、大きなトレーの上にのせる。ボウルの中に簡単にあしらえた野菜サラダを入れ、ドレッシングをいくつかのせ、一旦サラダを自室に運ぼうとした時だ。

ダダダダダッ……

ひまり

っ！

ひまり

（きた！）

ひまり

（少し遠いけれど、多分この足音はお隣さんからだ……）

ひまり

（お隣は空室のはず……）

ひまり

（聞こえてくるはずがない）

和紗

ひまり！

律

足音って、これか？

ダダダダダッ……

ひまり

うん……

律

隣から聞こえてくるな

和紗

お隣さん、子供でもいるの？

ひまり

ううん

ひまり

隣は空室なの

和紗

……上の階、とか？

律

でも、隣から聞こえてくるよな

ひまり

そうだよね

和紗

え、じゃあ……誰かが……隣に

ダダダダダッ……

和紗

え

ひまり

っ……！

ひまり

（うちの中に入ってきた……！）

律

お、おい……今足音って……

ダダダダッ……

「ここだよ」

律

……っ

ひまり

っ！！

和紗

い、いやあああ！！！

和紗の悲鳴を合図に、私の部屋へと早歩きで向かう。

和紗

ね、ねえ！！！

和紗

さっきの声は何！？

和紗

誰！？

律

おい、落ち着け

ひまり

こ、声が聞こえたのは初めてなの……

ひまり

というより

ひまり

私はいつも足音が聞こえてくると声を出さないようにしてるから……

和紗

そ、そうなんだ

ダダダダダッ……

律

とにかく

律がズボンのポケットからスマホを取り出す

──新着1件──

律

今からはチャットで会話しよう

律

ひまり

和紗

ねえ

律

どうした

ひまり

和紗

ひまり

二人とも、ごめん

ひまり

怖い思いをさせて

律

いや

律

別に気にすんなよ

律

俺達が興味示して泊まりに来たんだから

和紗

噂話なんだけどさ

ひまり

ありがと、律

ひまり

律

ひまり

噂って？

和紗

『幽霊相談、承ります』

ひまり

？

律

和紗

って書いてあるの

和紗

それを見つけたら、心霊現象の類が解決するって噂

律

どこにあるんだ、そのサイト

和紗

それはわからないの

和紗

突然現れるんだって

ひまり

幽霊相談、承ります……か

律

たかが噂だろ……

和紗

まあ

和紗

そうだけどさ

ひまり

でも

ひまり

もし、それが実在するなら……

ひまり

それって、見つけたらどうするの？

和紗

あー

和紗

なんか、そのまま

ひまり

そのまま？

和紗

「幽霊相談、承ります」

和紗

て、声に出せばいいらしい

ひまり

へえ……

ひまり

あ

律

どした

ひまり

これみて

スマホを二人に見せる。

和紗

あ～～～

和紗

これ絶対おいしいやつ

律

だな

律

つうか腹減ってきたな

ひまり

そいや、足音聞こえないね？

和紗

たしかに

ひまり

ちょっとご飯の用意してくるね

和紗

わーい

律

手伝おうか？

ひまり

ありがと～

ひまり

でも、距離も近いし大丈夫だよ

律

そうか

和紗

気をつけてね

ひまり

うん！

ダダダダダッ……

ひまり

（足音はやや遠い……）

ひまり

（今のうちにはやく持ってこよう）

そんなことを考えながら扉をあける。

ひまり

（うん、誰も居ない）

ひまり

（まあ、いる訳がないんだけど）

ひまり

（まずはこのトレーにのったサラダから運んで……）

律

おい

ひまり

うわ！？

ひまり

び、びっくりした……

律

わりい、驚かせたか？

ひまり

ううん……

ひまり

どうしたの？

律

いや、運ぶのやっぱ手伝おうと思って

ひまり

ありがと

ひまり

なら先にこれ、サラダ運んでくれる？

律

おう

ひまり

（サラダはこれでおっけー）

ひまり

（次はカレーだな）

カレー皿を3つ取り出し、カレーのルーを温めはじめる。

ひまり

（事前に温めておけばよかったな）

ひまり

（まだまだ時間がかかりそう）

ひまり

（そうだ、あの伝説のカレーについての記事でも暇つぶしに読もうかな）

制服のスカートのポケットに入れていたスマホを取り出す。

ひまり

（伝説のカレーの記事はっと……）

ひまり

あれ？

ひまり

（見当たらない？）

ひまり

（たしかにさっきまであったのに）

？？？

どうしたの？

ひまり

ん？

ひまり

いや、さっきまであった伝説のカレーの記事が……

ひまり

（あれ）

？？？

ふーん

？？？

そうなんだ

ひまり

（待って……この声って……）

？？？

ねえ

？？？

ねえ

ひまり

（やばいやばいやばい）

ひまり

（和紗の声じゃない……！）

ぎゅっと強く目を閉じる。

ひまり

（どうしようどうしようどうしよう）

？？？

ねえ

？？？

ねえ

？？？

ねえ

どれだけの間、目を閉じていたのかわからない。カレーが煮立ち、香辛料のいいにおいが鼻をくすぐる。

ひまり

（もう、声は聞こえない……？）

ほっと胸をなでおろし、目を開ける。

「ねえ」

「無視しないで」

ひまり

……っ！！！

ひまり

（だ、駄目……）

ひまり

（腰抜けて動けない……）

白い顔がこちらにだんだんと近付いてくる。

ひまり

（いやっ……！）

和紗

ひまり？

律

どうかしたのか？

律

床にへたり込んで

ひまり

か、和紗

ひまり

律も……

ひまり

だ、大丈夫

ひまり

（いなくなった……）

ひまり

（アレが……足音の正体？）

和紗

あ、カレーじゃん！

律

つうかおいおい焦げるぞ！

律

しっかりしろよ、ひまり

ひまり

え？　あ、うん

ひまり

ごめんごめん……

和紗

ん～～最高！

律

ほんと、うめえ

ひまり

あはは

ひまり

（二人にはアレが見えていなかったのかな……）

ダダダダダッ……

ひまり

（遠いけれど足音は聞こえる）

ひまり

（なのに二人とも関係なしに喋ってる……）

ひまり

（私が神経質なだけ？）

律

ひまり？

和紗

どうかした？

ひまり

え？

ひまり

な、なんで？

律

いや

和紗

さっきから元気ないし

ひまり

そ、そっかな

和紗

ん～～～まじうまー！

ひまり

ねえ

ひまり

二人はさ……

律

ん？

律

どうかしたのか？

和紗

ひまり？

ひまり

……聞こえないの？

ダダダダダッ……

和紗

聞こえないって？

和紗

何が？

律

変なやつだな

和紗

だねー

ひまり

（おかしい）

ダダダダダッ……

ひまり

（近くにいる）

ひまり

（それなのに聞こえないわけがない）

和紗

でも、たまにはいいよねー！

和紗

こういうお泊り会も！

律

だな

和紗

ねえねえ今日はなにするー？

ひまり

え？

律

トランプとか？

和紗

トランプかー！

和紗

ま、無難だけどそんなもんか！

和紗

ねえ、ひまり

和紗

トランプしよーよ

ひまり

え、あ、うん

ひまり

（やっぱり、変だ）

ダダダダダダッ……

ひまり

（正式に約束したわけじゃない）

ひまり

（そうじゃないけど、少し前までと違い過ぎる……）

ひまり

（どういうこと？）

ひまり

ねえ

和紗

ひまり！！！

和紗

あんたいまどこ！？

ひまり

え？

和紗

律も帰ってこなくて

ひまり

え？

律

ひまり

今、一緒にいる……よね？

ひまり

一緒に……

律

やばい

ひまり

律？

和紗

律！！

和紗

あんた何処いってんの！！

律

いや

律

ひまりを手伝おうとして部屋から出たら……

律

帰れなくなったんだ

和紗

は？

ひまり

え？

ひまり

どういうこと？

和紗

帰れなくって……

律

真っ暗なんだ

律

辺りに何もない

律

つうか悪い

律

充電残り20%

ひまり

……

和紗

そんな

和紗

ひまり

和紗

あんたはいまどこにいるの？

ひまり

わ、私は……

ひまり

律と和紗と一緒に……いるよ？

和紗

は？

和紗

え？

和紗

いや、いないって……

ひまり

……うそ

ひまり

じゃあ、私が今一緒にいるのは……誰？

ひまり

（心臓がうるさい……）

ひまり

（顔が上げられない）

和紗

ひまり？

和紗

どうした？

律

さっきから食ってねえじゃん

ひまり

あ、うん……

ひまり

（やばい、どうしよう）

ダダダダダダッ……

ひまり

（どうしよう……！）

ひまり

（あれ、この通知またきた）

ひまり

（詳細はこちら？）

ひまり

（URLが貼ってある）

ひまり

（ちょっと覗いてみよう）

『幽霊相談、承ります』

ひまり

！！！！

律

ひまり？

和紗

ひまり？

律

ねえ

和紗

ねえ

ひまり

（みつけた！！）

ひまり

（これだ！）

ひまり

（あとはこれを口にするだけ）

「ねえ」

ダダダダダダッ……

ひまり

！！！

自室で何かが走り回る音がする。

ひまり

（やだ、やだ）

耳をふさぎ、目を瞑り、大きな声で叫んだ。

ひまり

ゆ、『幽霊相談、承ります！！』

『幽霊相談、承ります』

ひまり

！！

女の人のようで男の人でもあるような声が聞こえてきた。〝何か〟が落ちる音が聞こえ、好奇心から閉じていた目をうっすら開く。

ひまり

（あれは……壺？）

？？？

いや、いやいや

？？？

……

壺の中にあの女の子が吸い込まれていく

？？？

いや

？？？

いや

？？？

ねえ

？？？

ねえ

？？？

ねえ

？？？

……！

？？？

……

？？？

任務、完了

目の前の黒い影が、壺の蓋をして、御札のようなものを貼り付けた。

ひまり

あ、あの！

？？？

……

ひまり

女の子って……

？？？

20年前、この場所、かくれんぼ、女の子、人形

ひまり

人形？

ひまり

あ！

ひまり

居なくなっちゃった

バタバタバタ……

ひまり

っ！

ひまり

（うそ、足音！？）

和紗

ひまり！！

律

無事か！！

ひまり

あ

ひまり

な、なんだ、二人か……

ひまり

無事、無事だよ

あれから、何があったかを二人に話した。

和紗

そっか

律

本当にあったんだな

和紗

ね

律

幽霊相談、承ります、か……

律

つうかさっきの……

律

その黒い影が言ってた20年前とか人形とかって？

ひまり

わかんない

和紗

ねえ、これ

昔起きた痛ましい事故。あれから20年が経つ。新しくマンションを建てるために解体工事を行っていた敷地内（当時、立ち入り禁止の看板が立て掛けてあった）に小学生5人が入り込み、かくれんぼを行っていた。その最中に上から落下してきた鉄骨材の下敷きとなり、一人の女の子が死亡した。即死だった。この子が事故当日持っていたというお人形は未だに見つからないままである。

ひまり

これ……

和紗

この女の子だったのかな？

律

さあな

ひまり

違うかも

ひまり

（この子じゃなくて多分……）

あのとき見えた顔は──女の子というよりはお人形そのもので。

ひまり