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ガチャ、と玄関の扉を開けて中に入る。
雨零 涼
そう呟いた言葉に返事は無かった。あの日以来、この家は随分と静かになってしまった。 しかし、一人暮らしというわけでもない。
おかしいな、いつもなら「おかえり。」なんて返してくれるはずなのに。
雨零 涼
最悪の事態を考えて、靴を脱ぎ捨ててリビングへと走った。 そんなことないと頭はわかっているなのに、人は一度失ってしまうと臆病になるらしい。
乱暴にリビングの扉を開けると、"彼女"はそこにいた。
???
???
雨零 涼
雨零 涼
自分の姉であり同居人の、雨零 誠(うれい まこと)が顔を上げた。
雨零 誠
雨零 涼
雨零 誠
雨零 誠
雨零 誠
雨零 涼
雨零 涼
姉さんは俺が傍にいてやらないと普通の生活ができない。 ……あの日から、ずっと_
あの日は姉さんの卒業祝いで家族で外食に出かけていた。
父さんが張り切って高いお店の予約を取ってくれたみたいで、皆で食事を楽しんだ。 幸せで幸せで仕方ない時間を過ごした。…その、帰り道だった。
運転中、大きなトラックが突如として自分たち家族の車に 横から勢いよく追突した。
飛び交う悲鳴、飛び散る破片、軋む身体、焼け付くような痛み。
_冷たくなった、両親。
俺と姉さんは命だけは助かったが、失ったものはあまりにも多かった。
あの日、事故のせいで姉さんは両目を失明した。
不思議なことに、身体の怪我は完治するもので後遺症もほとんど残らなかった。 俺も似たようなもので、今は怪我も治っている。
医者が「こんな事は普通あり得ない」と、とても驚いていたのをよく覚えている。
でも両目だけは無傷で済まず、この結果になってしまった。
俺も怪我は治っているが、あの日から左目がおかしくなった。
左目から色が抜け落ち真っ白になってしまった。 視界もぼんやりとして、色も褪せて見える。
そんな状態で2人きりで今まで生活してきていた。
姉さんはあの日から少し暗く、どことなく寂しい雰囲気を纏うようになった。
傍にいると安心感を感じるのは昔から変わっていないが、今は少し…。 ただ漠然とした喪失感を感じることも、ある。
雨零 誠
雨零 涼
雨零 涼
雨零 誠
姉さんはそう頷いてふわりと笑った。
昔の事を考えるのは止めよう、そう自分に言い聞かせてからキッチンへと向かった。 とりあえず今はこの平和な日々を噛み締めなければ。
そうして、長い長い1日をまた一つ終わらせた。
今日も"いつもどうり"の1日が始まった。
朝から恋鞠と奏音と共に登校して、学校で小鳥遊兄妹と泉樹に挨拶する。 そうしていつもどうり1時間目の授業を受けていた。
先生
先生
雨零 涼
雨零 涼
雨零 涼
歴史の教科書をペラリとめくれば、目に入るのは大きく記された「悪魔」の文字。
この世界は人間と獣人や、混血の人外が共存できるほどには平和ボケした世界であるが、
そんなこの世界にも、禁忌は存在する。
雨零 涼
昔から歴史は苦手だった。特に、悪魔と天華家についての話は。 長い話を聞くのは流石に厳しいので、隠れて寝てしまおうかと思ったとき。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
後ろの席に座っていた結翔にペンで背中を小突かれ、小声で釘を刺された。
これでは眠れない。……朝から嫌いな単元の授業をフルで聞くことになった。 それも、小学生の頃からずっと教わってきた内容を。
この世界で長く語り継がれるこの歴史を簡単にまとめてしまえばこんなものだ。
遠い遠い過去、存在していたとされる悪魔という種族。
そんな悪魔たちは突如として現世に現れ、世界各地にて戦争を引き起こしたとされた禁忌の存在。
なぜそんな行動に移ったのかは謎。ただただ他の種族を全滅させたいという破壊衝動からか、他に理由があったのか。分からない。
そんな風に世界に混乱を巻き起こした悪魔は、天華という名を持つ一族によって滅ぼされた。
天華家はこの世界でも珍しい天使との混血の人間の血筋で、生まれた人間には何かと才が宿っている。
そしてその血筋は未だ絶えず、この世に残っている。
これが、長く世界で語り継がれる歴史。 童話のようなお話。
小学生の頃からずっと大人たちに教わってくる、知らない人は居ない物語。
雨零 涼
正直言って聞き飽きたこの歴史をまた聞いて、一つあくびをした。
キンコンカンコーンと古びたチャイムが鳴ると、一斉に席から立ち上がる音がした。
喜唱 奏音
喜唱 奏音
生徒A
そんな無駄口を叩きながら廊下に出る。オレ達の1時間目の授業は移動教室だった。 眠いけど担当の先生が厳しい人だからまともに眠れなかったし、最悪の気分だ。 やっと教室に帰れる…。そう思いながらクラスメイトと会話していた。
生徒B
喜唱 奏音
喜唱 奏音
生徒B
喜唱 奏音
喜唱 奏音
生徒A
喜唱 奏音
オレは見慣れた影を見つけて、彼の方に駆け寄った。 クラスメイト達がなんとか言っていた気もするが、今はこっちの方が大事!
喜唱 奏音
真宵 泉樹
廊下の端の方に突っ立っていた無防備な背中にタックルをかます。 間抜けな声を上げた泉樹は背中を擦りながら振り向いた。
真宵 泉樹
喜唱 奏音
喜唱 奏音
いつもなら泉樹と移動教室は行動を共にしているのだが、今日は授業が終わった瞬間に 声を掛けるまもなく教室を出ていった。流石陸上部…はえー…とは思っていたが、その理由は よく分かっていない。また何かあったんだろうか。
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
泉樹か吶りながら隠そうとした手紙を数枚奪って中身を確認する。その内容は…
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
少女漫画でしか見ないようなラブレターがざっと3枚、1つはいつもどうり麗菜のだった。 イケメンでモテるオレでもラブレターなんて貰う経験は無かったためびっくりする。 真のモテ男とは泉樹の事を言うのだろう…。
内容はほぼ泉樹への恋心の殴り書きの様なもので、麗菜のは特に酷かった。 流石に毎日これを受け取っているのはどうなんだ。
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
なんとまあ生温い振り方だろう。そりゃあまあ少数の人間は諦めるかもしれないが…… 元々告白する度胸のある女子達だ、そんな振り方では諦めるどころか逆に燃えるだろう。 これだから優男イケメンは……!!!
よく分かっていません、という泉樹の顔を横目にため息をついた。 こんなんだから麗菜筆頭の女子達にいつも狙われてるんだろうなあ、なんて考えながら教室に2人で戻った。
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
そんな他愛もない会話をしながら席につく。やることも無いので涼にでも連絡しようかなーなんてぼんやり考えて、メッセージアプリを開いた。
「相棒いる?」と送ればすぐさま「どうした。」と返事が返ってくる。 なんとなく気になり、「歴史の単元ってどこまで進んだ?」なんて聞いてみた。
「悪魔と天華家のところ。」なんて簡素な返事が返ってきて、うげぇと声を出す。 「うわ、やだね」なんて送る。小学生の頃からお馴染みのお話過ぎて飽き飽きだ。
そんなやり取りをしていたら、急に教室の扉がバン、と開いた。
先生
生徒A
生徒B
先生
先生
先生
喜唱 奏音
一体どんな人間が転校してきたのだろうか、そんな事を呑気に考えていた時だった。 教室に入ってきた"転校生"を見て、クラス中が目を見開く。
???
???
天華 憂
その"転校生"の少女は、天華 憂(てんか ゆう)と名乗った。
そう、名乗ったのだ。歴史で語り継がれる天華家の血筋であると。 その事実を後押しするように、天使の翼がふわりと震えた。
喜唱 奏音
今思えば、彼女がいつもどうりの日々に入り込んだ最初の"変数"だったのかもしれない。