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3-Dに転校生が現れた日の放課後。
彼女の存在が僕らに影響を与えたのかは分からない。 彼女がいなくともこうなる運命だったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 _…でも、僕らのいつもどおりがぼろぼろと崩れ始めたのはこの日だった。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
雨零 涼
小鳥遊 結翔
雨零 涼
小鳥遊 結翔
何やらグチグチと小言を言っている彼を横目に、小さい子供を送り出す母親みたいだなんてぼーっと考えながら靴の紐を結び直す。
雨零 涼
立ち上がってそう言うと、結翔は「…はぁ」なんて大きなため息をついていた。 その後苦笑しながらも俺にこう言った。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
雨零 涼
俺の返事を聞いてから、結翔はちょっぴり満足げに家庭科室へと向かった。
雨零 涼
一人でこうして帰るのは随分と久しぶりの事だった。 この1年、帰り道を歩く自分の隣にはいつも5人の友人の内誰か1人がいたから。
雨零 涼
雨零 涼
俺以外の皆は部活に所属している。こんな風に日程がかぶるのは久しぶりだが。 それぞれ運動部に泉樹と奏音と麗菜、文化部に結翔と恋鞠がいる。予想通りの部活だ。
自分は部活に入る気はなかった。 もちろん、事故のせいもあるけれど…怪我をしたら姉さんの世話もしてやれなくなる。 それに学校はあまり好きではないから、長居したくなかったのもある。
でも1人で帰るこの時間を思うと、やっぱり部活もいいなと少し考えてしまう。 我ながら女々しいな。なんて考えていると、校門に人影が見えた。
???
天華 憂
校門あった人影である人物は、なぜかこちらに話しかけてきた。 白い髪に白い翼、美しい瞳。記憶の何処を探っても彼女と知り合った記憶はない。 何か自分に用があるのだろうか…
雨零 涼
天華 憂
天華 憂
テンコウセイ。そういえば奏音が言っていた気がする。 特に興味もなかったから詳しくは知らないが、多分彼女のことだろう。 そのとき、とある点が自分の中で引っかかった。
雨零 涼
天華 憂
転校生、3-D、"天華"…………天華 憂。 歴史上で悪魔を落としたとされる「天使」の混血者達の血筋。才を持つ者が生まれる家柄。 普通の人間ならば話すことすら無い高貴な存在。
歴史に残る天華家の娘。そんな彼女が自分に何の用があるのだろうか。 そう考えている時、彼女の翼が急にふわふわと揺れ始めた。
雨零 涼
天華 憂
彼女ほどの家柄を持つ人物が自分相手にどう緊張するのだろう。 しかし、緊張しているのは本当らしく、彼女とはまだ目が合わない。
雨零 涼
緊張する彼女を落ち着かせる為に、社交辞令に似たような言葉を呟いた。 そのとき、だった。
天華 憂
その瞬間、不意に背筋がびくりと震えた。
雨零 涼
思わぬ身体の反応に声が少し口から漏れ出した。 今まで合わなかった彼女の瞳がやっと自分の瞳と合うと、射抜かれたように身体が固まる。 なぜか彼女に途轍も無い恐怖を感じる。時々身体がぶるりと震えるのなんなんだ。
なぜ自分が目の前にいる彼女にここまでの恐怖を覚えているのか自分ですら理解できない。過去に天華家と何かあったわけでもないし、彼女と関わりがあった訳でも無い。 でもその瞳が、全てを惹き込む様な紋様が恐ろしくて仕方がない。
ずっと心の奥底で警報が鳴り続けている。逃げろ逃げろと内側で恐れが暴れ出す。 彼女の細めたその瞳の奥の奥の黄金が自分の全てを見通しているかのように感じて身体が 軽くなったような錯覚を引き起こす。冷や汗が止まらない。
どうして?なんでこんな気持ちになった。自分は、自分はなんで。 違和感違和感違和感違和感違和感違和感それだけが頭を支配して思考が使い物にならない。逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げろ!
心の底に根付く「ナニカ」がドロリと溶け出して気持ち悪い。 目の前にいる"天使"が恐ろしい化け物に見えてどうしようもない。きもちわるい。
彼女の黄金の瞳は、まるで
天華 憂
天華 憂
彼女が要件を話しているはずなのに、ぐちゃぐちゃの思考にはノイズが鳴り続けている。 今はこの場から逃げ出したくてしょうがなかった。
天華 憂
雨零 涼
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
後半はほとんど突き放すような言い方をして校門から走り出した。
どくんどくんと鳴り響く鼓動を無視して足を突き動かす。 吐き気がしてもお構い無しに。
今は彼女から逃げたい。 それだけだった。
涼が憂と遭遇してから、数時間後。 グラウンドにて。
小鳥遊 麗菜
グラウンドにある水場で顔をゴシゴシと洗う。 私がこんなに苛立っている理由は、数十分前に遡る。
バレー部の活動が終わってから、同学年の女子に呼び出されてグラウンドに来ていた。 流石に運動部も活動を終わらせたようで、グラウンドガラガラだった。
で、呼び出された女子の方に行けば「彼氏にフラれた」だとか「お前のせい」だとか くだらないことで難癖をつけられ、言い返せば取っ組み合いの喧嘩だ。
正直言ってどうでもよすぎる。つうかお前がフラレたとか知らんし。
小鳥遊 麗菜
そもそもそんな男に惚れてる方が悪い。好きなら目移りさせるな。 目移りした男も悪いが八つ当たりするあの女子も女子だ。腹立つ。次ははっ倒す!!
好きな男を手放したくないなら己を磨け。これが私のモットーだ。 八つ当たりする前に己を磨いてからこい、フラレた女。話はそれから!
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
私が自分を磨くのは真宵先輩に振り向いて欲しいだけ。 お兄ちゃんに"見直して欲しい"のもあるけれど、他はどうだっていい。
それなのに、八つ当たり女は私の顔を引っ掻きやがった。
女の子の顔に傷をつけるとか最低だ。あっちも女の子だけど!! 少なくとも周りの男に振り向いて欲しくて愛嬌を振りまいている訳では無い。 私が欲しいのは5人の大切な人からの承認だけ。
他はどうだっていい。どう思われたって私は知らない。
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
そう言って私は校門に向かった。
1時間前、廊下にて。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
家庭科部の活動時間が終わり、皆が続々と帰っていく時。 後輩であり同じ部活の恋鞠に声を掛けた。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
そういって、提出用のプリントを恋鞠に手渡した。 恋鞠は綺麗にそれを畳んで鞄に入れていく。彼女が届けてくれるなら安心だ。
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
そう2人で交わして、昇降口へと向かう後輩の後ろ姿を見送った。 こう見ると涼と恋鞠は少し似ているな、なんて考えながら泉樹を待った。
結翔が恋鞠を見送ってから、1時間後。 3-A前の廊下にて。
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
陸上部の活動が終わり、急いで着替えてから結翔くんと合流した。 「帰りが一人だと少し寂しいね」なんて言った僕のわがままに「3-Aで待っててやる」と 結翔くんは返した。…ほんとに終わるまで待ってるとは。冗談だったのに。
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
結翔くんと僕は昔からの幼馴染で親友だ。小さい時からずっと、ずうっと一緒だった。 結翔くんちは4人兄弟で、彼はその長男。面倒見が良くて、頼りがいのある彼。 僕もその弟の1人みたいに彼は気に掛けてくれていた。
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
彼は昔からこういう人だった。周りに対して世話焼きで甘いのだ。 変わらない。昔からずっと自分より他を優先してしまう、献身的な人。 …優先しすぎて、自分の身を削り過ぎてしまうところは考えものだが。
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
目の前でヘラヘラと笑っている彼のほっぺを両手でむぎゅりと掴む。 ぐいっと顔を近づけると、彼は驚いて目を丸くしていた。
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
顔を近づけると目の下には隠された隈の跡があった。 きっとバイトや兄弟の世話のせいだろう。…本当に放っておけない幼馴染だ。
幼い頃から貧乏で毎日夜勤詰めの両親に代わって弟妹の世話してきたからか、昔から人よりずっと無理する人だった。そんな中勉強もしなければいけないから徹夜したんだろう。 こんなので身体を壊してしまったらどうする気だったんだろうか、じっくり問い詰めたい。
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
そう彼は笑ってぐしゃぐしゃと僕の頭を撫で回した。 昔と変わらない、君の手。君の温度。身長差は逆転してしまったけれどね。
身体は成長と共に変わっていくけれど、心の温かさは変わらない。 そう思っていた。そう思っていたかった。でも君は「あの日」から随分と変わったんだね。 きっと根本的な所は変わってない。でも、何かが違うんだ。
今の君は不安定で、すぐ壊れてしまいそうな危うい存在。 守りたいものの為に自分を簡単に擦り減らせてしまう人。
僕ね、ずっと前からおかしいんだ。君は傍にいるはずなのに、遠くにいるみたいに感じる。いつか君が見えない所でぱっと消えてしまいそうで怖いよ。
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
そう言って昇降口に向かった彼の背中に、少し手を伸ばす。
君がいなくちゃ寂しくて仕方ない僕の手を繋いで。一人ぼっちにしないで。 いなくならないで。
あの日、約束したでしょ。君は覚えてるかな
同時刻、涼の家の前。
久しぶりに彼の家のチャイムを鳴らす。ピンポーンなんて聞き慣れた音が響いてから、 玄関の扉が開くのを待った。
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
インターホンからも声は聞こえないし、家にいないんじゃないかと考えていると 不意にキンコーンとメッセージアプリの通知が自分のスマホからなった。
白蜜 恋鞠
送信者の名前には「雨零 涼」と彼の名前が表示されていた。 『すまない。体調が優れないから出れそうにない。』と簡素なメッセージが届いていた。 『プリントを届けに来たから、郵便受けに入れておくね。』と送り返せば、彼からは 『ありがとう。』とだけメッセージが送られてきた。
プリントを郵便受けに滑り込ませる。 とりあえず要件は済ませたから早くこの家から離れようと玄関から離れた。
白蜜 恋鞠
1人では少し寂しいと感じるこの道を歩く。 昔から1人ぼっちの帰り道は嫌いだった。なんだか心がざわざわして気持ち悪い。
この時間帯は特に1人では帰りたくなかった。近所の人が外にいるから。 やっぱり、どこか寄り道しようかな。なんて考える。
涼くんにお見舞いとして何か買って行こうかなと思って、コンビニに寄ろうなんて思ったけれど。でもやっぱり、もう一度涼くんの家に行くのは止めておいたほうが良いかなと思って 寄り道をするのはやめることにした。
きっと弟はもう帰ってきている時間帯だろうし、1人にするのは不安だ。 それに帰りが遅いと家族を心配させてしまうから。
白蜜 恋鞠
そう思って早歩きで家に向かった時だった。
近所の人
近所の人
近所の人
白蜜 恋鞠
近所の人
近所の人
近所の人
白蜜 恋鞠
生徒B
生徒A
生徒B
これだからこの時間帯に1人で帰るのは嫌だった。 いやでも人の目に晒されるから。
目、目、目。どこに行っても私に付き纏うのは誰かの視線。 何にも知らずに、外から見た目線から全てを理解したように話す人々。 獣人の聴覚では聞こえるにも関わらずぼとぼとと落とされる悪意。
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
私の全てを突き刺す様な視線から逃げる様に歩くスピードをあげる。 まだ家は遠い。向けられる悪意に耐えるように下唇を噛む。
これだから、一人の帰り道は。
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
急にひょっこりと横に現れた喜唱先輩はおどけながらも私に合わせて隣を歩き始めた。 車道側を歩いてくれたのは、きっと私に向けられる視線を少しでも減らそうとしてくれた 彼の不器用な優しさなのだろう。
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
家言ったけど顔見れなかったんだよねー、なんて不満げにする顔の横目に この人はほんとに思い切りの行動力がすごいなあと思う。
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
そんな先輩の不器用な優しさに触れながら、結局は私の家まで送ってもらった。 申し訳なかったけれど、全然大丈夫!なんて言われてしまったので、素直に感謝した。
明日は元気な涼が見れるといいねなんて交わしながら、その場で解散した。
恋鞠ちゃんを家に送ってから、オレは町をぶらぶらと歩き回っていた。 一人で歩く暗い夜の町は無音で寂しさが蔓延っている。
喜唱 奏音
そんな独り言をぽつりと溢して、空を見上げる。 空は雲が支配していて、星はもちろん月さえも見当たらなかった。
喜唱 奏音
喜唱 奏音
それでも行く宛もない。財布も持ってないからどこか店に寄ることもできないし、 公園に行っても星は見えないしやることもない。
仕方なく、今日は早めに家に帰ることにした。 きっとあの人もまだ家には帰ってないはずだから、寂しいのには変わらないけれど。 引っ掻き傷が増えないだけマシだ。
そう思い、重い足を動かして家に向かった。
喜唱 奏音
玄関を開けて中に入る。家の中の雰囲気は重々しくて苦手だった。
喜唱 奏音
喜唱 奏音
予想通りだったなあなんて思いながら、重たい空気の漂う廊下を歩いてリビングに向かう。 所々にほこりが落ちていたのでそろそろ掃除時だなと考える。
ガチャ、とリビングの扉を開くと目に入るのは大量のゴミ。
ビールの空き缶と惣菜のトレー、丸まったティッシュにたばこのゴミ。
喜唱 奏音
喜唱 奏音
母は酒癖こそ悪かったが、タバコを吸うような人ではなかった。 きっと昨日の夜にまた誰か家に入れたのだろうか。 父ではない、他の誰かを。俺の知らない、家族ではない人間を。
喜唱 奏音
そう呟いて、スマホを開く。お気に入りのプレイリストを再生する。 こうすれば目の前の現実から意識が離れるから。
喜唱 奏音
好きな音楽を聴いているはずなのに、音が籠もって聞こえにくくかった。
喜唱 奏音
スマホの音量少し上げて、ヘッドホンを深く付けた。 さぁ、早く片付けを終わらせてしまおう