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コメント
1件
私も抱かれたい男1位に脅されています。好きなので凄く共感します! 内容も凄く好きなので、頑張ってください
主
主
神崎 玲央
荻野 颯
主
主
楽屋。 撮影の合間、机の上に無造作に置かれた一冊の雑誌。 玲央は、特に意識せずそれを手に取った。 毎年この時期になると、だいたい同じ特集が組まれる。 見慣れた構図。見慣れた文字。 ——「抱かれたい男ランキング」 ページをめくる手は、止まらなかった。 止まる必要がないと思っていたから。 2位。 神崎玲央 一瞬、視線がその文字の上で止まる。 それだけだった。 その上にある名前を、意識しないようにするみたいに、 もう一度、ゆっくり読み直す。
1位 荻野 颯 写真。 少し挑発的な笑い方。 若さと勢いをそのまま形にしたような顔。 ……ふ、と小さく息を吐く。
神崎 玲央
誰に聞かせるでもなく、低く呟いた。 20年。 この世界にいる時間の重さを、 順位なんかで測られる気はない。
神崎 玲央
心の中で、言葉を続ける。
神崎 玲央
ページを閉じる。 雑誌を机に戻す手つきは、乱れていない。 けれど、その日一日、 玲央は無意識に「荻野 颯」という名前を覚えてしまっていた。 覚えようとしたわけじゃないのに。
数日後。 事務所の会議室。 台本の束をめくりながら、 マネージャーが淡々と説明を続けている。
玲央のマネージャー
神崎 玲央
玲央は顔を上げない。 仕事の話に感情を挟む癖はない。
玲央のマネージャー
一拍。
玲央のマネージャー
……ページをめくる手が、止まった。 ほんの一瞬。 自分でも気づかない程度の間。
神崎 玲央
声は平坦だった。
神崎 玲央
マネージャーが少し笑う。
玲央のマネージャー
玲央は何も返さず、台本に目を落とす。
玲央のマネージャー
神崎 玲央
興味なさそうに答えながら、 胸の奥で、微かな違和感が動いた。 ——“かなり気合が入ってる”。 それは、別に珍しいことじゃない。 新人なら、誰だってそうだ。
神崎 玲央
玲央は小さく付け足す。
神崎 玲央
顔合わせ当日。 会議室の扉が開く。
荻野 颯
明るく、よく通る声。 先に立っていた若い男が、 まっすぐこちらを見る。 金髪。 背が高い。 目が、やけに真っ直ぐ。
荻野 颯
その視線が、 まっすぐ、玲央だけを捉えていることに、 玲央はすぐ気づいた。 でも、気付かないふりをした
神崎 玲央
軽く会釈する。 それだけのはずだった。 ただの顔合わせ。 なのに。 颯は、にこっと笑って言った。
荻野 颯
その一言に、 玲央はほんの少しだけ—— 理由の分からない違和感を覚えた。
神崎 玲央
でも、不思議と嫌じゃない。 その感覚に、 玲央自身がいちばん戸惑っていた。
顔合わせが終わり、 スタッフたちがそれぞれ散っていく。 玲央は資料をまとめながら、 早めにこの場を離れようとしていた。 ——その時。
荻野 颯
すぐ後ろから声がする。 距離が、思ったより近い。 振り返ると、 そこに荻野 颯が立っていた。
神崎 玲央
少し低めの声。 壁を作る癖が出る。 颯は気にした様子もなく、 むしろ少しだけ嬉しそうに笑った。
荻野 颯
神崎 玲央
荻野 颯
即答。 その潔さに、 一瞬、言葉が詰まる。
荻野 颯
颯は一度言いかけて、 言葉を止めた。
荻野 颯
近い。 物理的にも、距離感としても。 玲央は一歩引こうとして、 なぜか動かなかった。
神崎 玲央
そう言いかけた時。 颯が、まっすぐ言った。
荻野 颯
駆け引きも、探りもない声。
神崎 玲央
素っ気なく返しながら、 なぜかその言葉が 胸の奥に残る。 颯は満足したように、 軽く頭を下げた。
荻野 颯
その背中を見送りながら、 玲央は思う。
神崎 玲央
そして、 嫌悪感がないことに、 自分で小さく引っかかった。
屋外セット。 雨のシーンのリハーサル。 人工の雨音が、 周囲を埋め尽くしている。
スタッフ
その声と同時に、 機材の調整をしていたスタッフの一人が 足を滑らせた。 ——ガシャン。
次の瞬間、 水を噴射する装置が大きく傾く。
荻野 颯
反射的だった。 玲央が視線を向けた時には、 すでに—— 颯の顔が、近くに来ていた。 その顔は、いつもの人懐っこい顔とは違う、 安堵したような、冷静な顔だった。
視界が暗くなる。 壁。 颯の腕。 水が、ばちゃりと床に弾ける音。 一瞬、世界が止まった。
颯が、 玲央を壁際に押し込むようにして、 自分の体で庇っていた。 すぐ近くで、 濡れた髪から水滴が落ちる。
神崎 玲央
声を出そうとして、 言葉が出ない。 距離が近すぎる。 呼吸の気配が、分かる。 颯が、はっとして身を引いた。
荻野 颯
慌てたように距離を取る。
荻野 颯
その声は、 さっきまでの余裕が消えていた。 玲央は一瞬、 自分が何を感じているのか分からなかった。 怒りでも、 驚きでもない。
神崎 玲央
少し遅れて、そう答える。 颯はほっと息を吐いた。
荻野 颯
無意識に出た言葉みたいだった。 周囲でスタッフが謝罪し、 現場が再び動き出す。 けれど玲央は、 しばらくその場から動けなかった。
神崎 玲央
守られた、という事実よりも。 咄嗟に迷いなく庇われたことが、 胸の奥に、妙な感触を残していた。 颯はもう、 いつもの人懐っこい表情に戻っている。 けれど。 玲央の視線は、 無意識のうちに—— さっき自分を庇った背中を追っていた。
主
荻野 颯
神崎 玲央
主