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恋系好きだからまじ好き
これ好き
ハル
縛り付けられたような不快感と、息苦しさで私は目を覚ます。
ハル
いつの間に眠ってしまったのだろうか。
泣きはらしたせいで瞼が重たい。
ハル
ハル
”将太”
そう口にした途端、憂鬱な気分になる。
付き合っているときは、いつも姿を探していた。
けれど今は、どんな顔をして向き合えばいいのか分からない。
ハル
私は母の顔を思い浮かべながら、説得する方法を考える。
ハル
ハル
ハル
お母さん
と弱弱しく母を呼んでみる。
しばらく待ったが返事はない。
聞こえなかったのだろうか?
もう一度、病人らしく、それでも声を張って母を呼ぶ。
しかし、返事はない。
ハル
私は母がいる1階へと向かうため、身体を起こす。
いつもより体が重い。
本当に熱があるのではないだろうか?
そう思ったとき、身体から何かがずるりと落ちる感覚があった。
私はゆっくりと視線を左に向けてみる。
ハル
思わず大声を上げる。
…人がいた。
視線の先では、見知らぬ半裸の男性が眠っている。
ハル
ハル
こちらの声に反応を示しはするものの、男性に起きる気配はない。
心臓の鼓動が耳の奥で響く。
呼吸は早くなり、額には汗がにじむ。
起きたばかりの頭はまだうまく働かず、状況が理解できない。
私は素早く、それでも静かにベッドから離れる。
ハル
鼓動に合わせて、呼吸が浅く、早くなっていく。
ハル
ハル
ハル
ハル
途端に頭の中が真っ白になる。
心臓だけがバクバク音を立て、目の前の状況を把握できないまま時間だけが過ぎていく。
すると突然甲高い音が部屋中に響き渡った。
ハル
ハル
2,3度アラームが鳴ったところでスマートフォンを見つけ、アラームをオフにする。
とっさに隠れることができず、私はその場に頭を抱えてしゃがみこんだ。
ちらっと男性に視線を向けるが、起きる気配はない。
音をたてないようにゆっくりと立ち上がり、スマートフォンをそっともとの場所へと戻す。
そして私は部屋を見渡した。
ハル
混乱する頭を必死に働かせようとするも、焦りと不安からか思考はまとまらない。
ハル
ハル
ハル
10畳ほどの部屋だろうか、白を基調とした、落ち着いた部屋だ。
部屋を眺めていると、テレビの隣の写真に目が行った。
ゆっくりと近づき、手に取ってみる。
ハル
写真には浴衣を着て手をつなぐカップルが写っていた。
どことなく自分に似ている。
けれど、今の自分とは少し雰囲気が違う。
ハル
ハル
私はじっと写真を眺める。
確かに雰囲気は違うのだが、見れば見るほどその女性は自分だとしか思えなかった。
ハル
ハル
ハル
ふいに不安に襲われる。
どこか遠く、知らない場所へ1人で来てしまったような気分だ。
不安と焦りからか、のどが渇く。
ハル
私はもう一度ゆっくりと男性のもとへ向かう。
写真に写っている男性が、今ここで眠っている男性かどうかを確認するためだ。
ハル
ハル
しゃがみ込み、男性の顔を見つめる。
もちろん見覚えのない顔だった。
長く黒いまつげが影を落とし、目元を引き立たたせている。
汗をかいたのか、丸みを帯びつつも、筋の通った鼻先はすこしだけ湿っていた。
子供のような滑らかな肌に、赤く色づいた形のいい唇が映えて、妖艶な雰囲気を放っている。
ハル
ハル
思わず見とれてしまう。
美しく、彫刻のように整った顔立ちだ。
手元の写真へと視線を落とす。
私に似た女性の隣で、幸せそうに笑う男性。
今目の前にいる男性の笑った顔など見たこともないが、なぜだが確信が持てた。
ハル
呟いた瞬間、男性が目を覚まし口を開く。
???
ハル
私は驚き叫ぶ。
???
それに呼応するように、男性も驚きの反応を示す。
???
本当に驚いたのだろう、大きな目を真ん丸にして、口を開いたまま固まっている。
ハル
ハル
ハル
ハル
とにかくこの場を去らなくては。
そのことで頭がいっぱいだった。
急いで立ち上がった私の足はもつれ、バランスを崩し倒れそうになる。
???
男性が手を伸ばし、私の体を自身へと引き寄せる。
男性はそのまま私を抱きしめ、安堵の声を漏らした。
???
???
男性の低い声が耳元で響く。
ハル
フッと息が当たり、私は思わず男性を突き飛ばす。
ハル
男性は怪訝そうに私を見つめる。
???
???
と男性が私を見つめ問いかける。
ハル…それは私の愛称だ。
親しい人は私を春歌ではなく、ハルと呼ぶ。
ハル
恐る恐る、聞いてみる。
彼は一瞬表情を曇らせたが、すぐに何かを察したかのような明るい表情を浮かべた。
???
???
???
???
ふはっと男性が笑う。
それで合点がいったのだろうか、彼は満足そうに私を見つめ、わしゃわしゃっと頭を撫でる。
???
???
彼は照れたように微笑む。
ハル
私はあなたの知っている春歌ではない。
だって私はあなたを知らないのだから。
そう伝えようとした瞬間、私の言葉は彼に遮られる。
???
???
???
???
そう言って彼は私の背中を洗面所へと押す。
彼の中で、私の態度はテレビを見て受けた影響ということで腑に落ちているのだろう。
それほど私は、彼の言う“ハル”に見えているということだ。
ハル
ハル
ハル
それとも、と私は心の中で呟く。
私は鏡に映る自分へと視線を向けた。
短かった髪は、腰近くまでのび、軽くウェーブがかかっている。
体つきも丸みを帯び、より女性らしく変わっている。
けれど、その姿はまるで自分が成長した姿のようだった。
他人ではない、成長した自分自身が、鏡の向こうにはいる。
ハル