主
主
主
結局今日も公式なんて全く頭に入ってこないまま、授業が終わってしまった。
ころん
莉犬
いつものように荷物を莉犬に任せて、さとみ君から受け取ったルーズリーフをポケットの中に忍ばせて席を立った。
授業そっちのけで何か書こうかと迷ったけれど、一文字も浮かばなかった。
仕方がない。放送室でゆっくりと考えることにしよう。
今日も返事がないことにさとみくんは落ち込むのだろうか。
とりあえずさとみくんが帰ってくる前にそそくさと教室を後にした。
放送室に入り、放送を始める。
今日の一曲目は最近人気のある女性歌手が片思いの切なさを歌った曲だ。
お弁当を取り出して、おかずをつまみながらさとみくんの手紙を眺める。
お礼の言葉にその意味を聞いて来るなんて、 とさっきまで彼の気持ちがみじんも理解できなかった。
放送室で一人きりになると、彼はとにかく必死なのかもしれない、 と思えてくる。
それほど僕のことが好き、なのだろうか。
さとみ君だったら僕よりもいい人を選ぶことが可能なはずだ。
待っていればいろんな女の子に告白されるだろう。
今までだって何度か告白されたのを知っている
いもかかわらず、僕のことが好きだなんて。 不思議すぎる。
いや、そんなことよりも、とりあえず、とりあえずだ。 今は返事を書かなくちゃいけない。
“ありがとう”に感謝以外の意味なんて含まれてない。
それでも、“どういう意味?”と聞いてきたということはその返事に納得できないということだろう。
と、いうことは、思っていることをちゃんと文字にして伝えなくてはならない
“それ以外に言葉が思いつかなくて。”
“他になんて言ったら良かったですか”
どれも感じが悪い
かといって、素直に“気持ちがうれしかったので”
と書いても、彼の求める内容ではなさそうだ。
むしろ、変に期待させてしまうかもしれない。
うーん、どうしよう。
考えれば考えるほど、わからなくなってくる。
……いや、待て待て。
しばらく返事に気を取られていたけど、はたと気づく。
僕の場合は前回と同じ方法でさとみ君に渡せばいいだろう。
でもその後は?
もしもまた僕に返事を書いたら?
僕はどう受け取ればいいのだろう。
今回のように一週間の移動教室まで待ってくれたらいいけど、そうじゃない可能性もある。
また一週間びくびくして過ごすのは勘弁してほしい。
できれば次の返事で終わりたいけど、もしものことを考えると、、 返事にさとみ君からの手紙の受け取り方も指定させてもらった方がいいだろう。
とはいえ、それもそう簡単に思いつかない。
“一週間後の水曜日、いつものように返事ください”
と書いておこうか。
でも、待ちきれなくて突撃してくる可能性もなくはない。
“話しかけないでください” ではさすがに傷つけてしまいそうだ。
さとみ君がどんな行動を起こすか、予測ができない。
返事に加えて受け取り方法も苦慮している間に、お昼の放送が終わってしまった。
肩をがっくり落としながら放送室のドアを開けると、ふと入り口の隣にある小さな箱に気が付いた。
生徒からのメッセージやリクエストを受け取るための、ダンボールでできたリクエストボックス。
前に僕が確認した時、2ヶ月以上前のリクエスト曲が一曲入っていただけだ
他の放送委員は誰も確認していないだろう。
カギはつけていないので見ようと思えばだれでも見ることができる。
だけど、ここはほとんどの生徒が存在を知らないであろう小さな部屋だ。
隣は先生が倉庫として使ってる空き部屋で、その奥の階段も人通りが少ない
渡り廊下から一番遠いうえに、この階段の近くの教室は生徒数が減ったことで、すべての部屋が空き部屋になっている。
階段を使うなら、校舎の真ん中と、反対側を使うのが便利なのだ。
ひさしぶりにリクエストボックスを手にして、 マジックテープで止められているだけの背後のふたを開けた。 もちろん中は空っぽだ。
……これで受け取ればいいんじゃないの?
___________________________________________________________________________________________________________________________さとみ君のことあまり知らなくて....____________________どうして僕なんですか?______________________________________________p.s.返事は、放送室前のリクエストボックスに入れてもらえますか? ______________________________________________________________________
次の日、また早起きして、さとみ君の靴箱に返事を入れた。
場所は何となく覚えていたので、彼の靴箱を見つけるまではスムーズだったけれど、手紙を入れるときは緊張してしまった。
靴箱に手紙を置いて、急いで教室に入る。
中に入りドアをしっかりと閉めてやっと息を吸い込むことができた。
前より迅速に成し遂げることができたとはいえ、こんなこと何度も繰り返していると神経が擦り減ってしまいそうだ。
おまけに寝不足続きになってしまう。
乱れた息を整えながら、ゆっくりと自分の席へ向かい、腰を下ろす。
そして前回と同じように書いた文章を思い返した。
今回も返答になっていないような気はするけど、あれは僕の精一杯だ。
あの内容に、さとみ君はなんて返してくるのだろう。
僕の返事に、さとみ君の文字。
そしてまた僕に戻ってきて__
同じ紙に、二人でコメントを残していく。
まるで文通しているみたいだ。
いや、この場合は交換日記だっけ。
主
主
コメント
2件
今回も最高ですっ!!✨交換日記って表現が…好き!!