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その日から敦は芥川に懸命に話しかけた。

中島敦

あ、あの、芥川、くん……

中島敦

芥川くんの、好きなものって、何……?

芥川龍之介

……僕は無花果が好きが……

中島敦

無花果? 無花果が好きなの?

中島敦

なら、ま、また今度、先生と一緒に無花果、食べない……?

芥川龍之介

……構わぬが……

そう言ってもらえた時、敦は胸が焼けてしまうほど嬉しかった。

こうした、マフィアらしくないほんわかとした話を芥川と共にするのが、

マフィアらしくない敦にとって幸福なことだった。

敦の師

最近、敦、楽しそうだな

敦の師

何かいいことでもあったのか?

夕飯の支度をし始める先生の手伝いをする敦は

思わず洗っていた皿を落っことしそうになった。

中島敦

あ、えーっと……

中島敦

芥川くんと、たくさん話ができるから……

中島敦

えへへ

敦の師

……ふーん

敦の師

そうか

敦の師

つまり、芥川のことが気になってる、

敦の師

そういうことであってるか?

敦の顔はボンと真っ赤に染まり上がる。

中島敦

え、いや! そ、そういうわけじゃ……

中島敦

いや、そういう、わけかも……

初めて芥川への恋心を自覚した。

初々しい反応を見せる敦に、先生は笑いを隠せなかった。

中島敦

そ、そういう、先生こそ、誰かを好きに、なったこと、ありますか?

敦の師

……気になる?

中島敦

はい! 気になります!

敦の師

そうかあ、なら教えてあげよう。

敦の師

実はなあ、先生の好きな人……いや、恋人だった人は

敦の師

自殺して、もうこの世にはいないんだよ

中島敦

え……

敦は驚きのあまり皿を落としてしまった。

敦の師

おーい、これ高いんだぞー

敦の師

千円だけど。まあいっか

敦の師

……それで、そいつは先生のことをね、好きだ好きだって言っておいて、

敦の師

肝心な本人は好きな相手を置いて死んでしまったんだぞ

敦の師

笑えるだろ?

敦の師

だけど、いい気はしなかったな

敦の師

目の前で死なれて、いくらマフィアの者だとしても、

敦の師

情ができると、苦しくなるもんだね

仮面越しでも、先生は切なそうだった。

敦はよからぬことを聞いてしまったと、どぎまぎしていた。

敦の師

でも、もういいんだ。

敦の師

もうすっかり、諦めがついた。

敦の師

それに、こんな僕を好きだと言ってくれる人もいて……

敦の師

だから、今はもう辛くない。

先生は敦に目配せをした。

敦の師

だから、付き合うなら今のうちだぞー?

敦の師

マフィアに、命の保証はないからな

仮面だが、先生の顔が切なそうに歪むのを感じた。

中島敦

……大丈夫です

中島敦

きっと、思いを伝えるなんて、できませんから……

すると、先生は敦の額をたたいた。

敦の師

またそうやって己を閉ざす。

敦の師

もう少し君は欲に忠実になろうよ

敦の師

つまらん

中島敦

え、ええ……そ、そんなあ……

敦は先生の背中をポカポカたたいた。

中島敦

……芥川くんって、すごいね

芥川龍之介

……何がだ?

共同任務の帰り。

敦は芥川の背格好に見惚れ、ついそんなことをこぼしてしまった。

中島敦

あ、えっと! ぼ、僕より異能、使い慣れてるから……

しどろもどろと恥ずかしそうに言うと、

芥川はふんと笑い、

芥川龍之介

異能を使わねば、生きてはいけなかった

芥川龍之介

ただ、それだけのことだ

芥川龍之介

異能を使い慣れているからではない。

芥川龍之介

使わざるを得なかったのだ

そんなことを言ってしまう芥川でさえ

胸をときめかせて、たまらない。

敦は言わんとしていたのに、つい口からまたこぼれ落ちてしまった。

中島敦

……芥川くんが、好き……

芥川龍之介

……は

驚いた表情で芥川は敦を見る。

やってしまった、とは思うが、ここまできたのなら、と手を強く握りしめる。

中島敦

ぼ、僕、芥川くんのことが、好き

中島敦

よ、よかったら、僕と、付き合ってくれませんか……?

まるで顔に熱湯をかけられているみたいに熱い。

心臓が必要以上に鼓動を打つ。

芥川龍之介

……別に、構わぬが……

中島敦

……え、い、いいの?

芥川龍之介

貴様から言っておいて、なんだその反応は

そんな控えめな返答でさえ、敦は飛び上がるくらいには嬉しかった。

中島敦

え、あ……う、嬉しい……!

中島敦

あ、ねえ! 芥川くんのこと、龍って、呼んでも、いい?

芥川龍之介

いいが……

こうして、二人は恋仲の関係になった。

だが、芥川と敦の愛の大きさには大きな差があり、

その差があのような大きな亀裂を産んだのだった。

優しいあなたの殺し方

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