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『かつて、世界は魔王の手によって脅かされていた。』
『しかし、数年前に勇者リヒトとその相棒である白魔道士フェイが魔王を討伐し、世界を平和へと導いた。』
『人々は笑顔を取り戻し、魔王の侵略によって荒廃していた街も、今ではすっかり活気に満ち溢れている。』
『そして、役目を終えた二人の英雄は——復興した故郷の街の片隅で、小さな治療院を営み、違う形で人々を救っているという。……(後略)』
《世界魔法新聞 魔法歴565年22月56日 朝刊より引用》
ここは、リヒトとフェイの営む治療院。
元は廃教会だったこの建物も、修繕や掃除を重ねて、人々が落ち着いて治療を受けられる場所へと生まれ変わった。
今日は、幼い少年がフェイの治療を求めてここに訪れたようだ。
少年
フェイ
フェイ
フェイは少年の膝の擦り傷に手をかざしながら、小さな声で呪文を唱えた。
すると、フェイの手からは淡い光が溢れ出し、それが少年の膝を包み込む。
少し経ち、光が消えると、少年の膝の傷は跡形もなく消え去っていた。
フェイ
少年
少年
笑顔で手を振りながら去っていく少年に、フェイは小さく微笑んで手を振り返した。
フェイは治癒魔法を得意とする白魔道士。
魔王討伐の旅では、その優れた治癒能力で相棒である勇者リヒトを支えていた。
リヒト
リヒト
リヒト
旅を終えて街に戻り、フェイと暮らし始めたリヒトは、自分の相棒を自慢するようにそう言って回った。
勇者も絶賛する優秀な白魔道士。
そんな彼が治療院を開くとなれば、自然と多くの人が集まってくる——。
青年
青年
老人
老人
老人
女性
女性
治療院を開いてからというもの、フェイの存在はさらに広く知れ渡っていく。
リヒトは街で自慢の相棒の噂を聞くたび、誇らしい気持ちになっていた。
リヒト
リヒト
リヒト
フェイが声の主の方に出ていくと、そこには足に傷を負った少女を抱き抱えたリヒトが立っている。
その足元では、彼女の妹らしき少女が、リヒトのズボンを指でつまみながら、涙目でフェイを見上げていた。
リヒト
少女
妹
フェイ
フェイは不安そうにしている二人の頭を撫でると、リヒトに少女を診察台に寝かせるように指示した。
フェイ
フェイ
リヒト
リヒトのその言葉を聞いた二人の少女は、怯えるように体を震わせる。
フェイ
リヒト
少女
妹
二人の目にじわりと涙が浮かんだ。
フェイは魔法で治療をする間、診察台に横たわった少女を安心させるよう、努めて微笑みかけた。
リヒトはその様子を見ながら、怯え切っていた少女の妹を抱き寄せて、優しく頭を撫でている。
妹
妹
リヒト
妹
リヒト
妹
リヒト
リヒト
リヒトが微笑みかけると、少女の妹は少しだけ安心したように微笑みを返した。
しばらく経ち、フェイの治療が済むと、二人はリヒトに連れられて家に帰って行った。
少女たちを送り届けたリヒトは、手に新聞を持って治療院へと戻ってきた。
フェイが休憩に使っている小部屋に入ると、椅子に座って本を読んでいた彼が顔を上げる。
フェイ
リヒト
フェイは本を閉じると、それを机の上に置く。
その隣にリヒトが新聞を置くと、その記事を見たフェイはふっと微笑んだ。
フェイ
フェイ
リヒト
リヒト
いつものリヒトらしからぬ、粗暴な口調。
フェイはそれを耳にすると蕩けるような微笑みを浮かべる。
フェイ
リヒト
リヒト
リヒト
そう言ったリヒトの周りに、黒いオーラが纏わりついていく。
フェイ
彼が何をしようとしているか理解したフェイが止めると、リヒトはつまらなそうにそれを中断した。
フェイ
リヒト
フェイ
フェイ
リヒト
フェイ
フェイ
フェイがリヒトの手を取って、その甲に唇を落とす。
リヒト
フェイ
フェイはおもむろに立ち上がると、部屋の本棚に手をかける。
すると本棚はガラガラと音を立てて横に移動し、その奥に小さな扉が現れた。
フェイ
リヒトの方を振り返ったフェイは、どこか期待するような目で彼を見つめている。
リヒト
二人は扉を開けて中へ入り、外から分からないよう本棚を元の位置に戻すと、地下室へと続く階段を下っていった。
地下室に着くと、フェイは自分に続いて階段を降りてきた者の方を振り返る。
フェイ
フェイ
フェイの目の前にいるのは、勇者リヒトではなく——二人の英雄が倒したはずの、魔王、ヴィルだった。
ヴィル
ヴィル
フェイ
フェイ
フェイはヴィルに歩み寄ると、彼の頬に手のひらを滑らせてにこりと微笑んだ。
ヴィルはそんなフェイの腰に腕を回して彼を強く引き寄せる。
そして、そのまま強引に唇を奪った。
フェイ
フェイが甘い声を漏らすのを聴きながら、ヴィルは彼の耳殻に指先で触れる。
それは丸みを帯びた人間のものではなく、尖った形に変化していた。
——悪魔の王である自分と、同じ形に。