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第五話 笑顔と言う名が見合う存在の話
目覚めた時――
彼はある程度の事柄を
既に理解していた
それまで意思という 意思を持たず
ただただ漂っていただけの 存在だった自分が
そこにいたということも
理解していた
しかし意識を持ったからと言って
彼が今何をすべきか
何がしたいのかという 欲はなかった
彼の存在を発見した者がいた
人間が彼を感知し
その存在の確立を手助けした
人間は彼に様々な事を教えた
その結果
彼は人間の器を魔力で作成し
人間に近い存在になった
?
魔法使い
魔法使い
?
?
魔法使い
魔法使い
魔法使い
?
魔法使い
魔力の塊である魔族には
寿命など存在しない
彼が年老い――
去り逝く間際まで
魔族は彼の元で
彼の総てを学び続けた
魔法使い
魔法使い
?
魔法使い
魔法使い
?
魔法使い
魔法使い
?
ベッドに横たわる老人は
ゆっくりと瞬きを繰り返し
優しい目をして
若い頃の老人と同じ顔をした
魔族を見つめる
魔法使い
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魔法使い
魔法使い
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魔法使い
魔法使い
魔法使い
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魔法使い
魔法使い
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魔族は首を傾げた
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魔法使い
魔法使い
魔法使い
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魔法使い
魔法使い
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魔族――スマイルは口を閉ざした
もう魔法使いは永遠に喋る事はない
彼は最期にスマイルに名を贈り
この世を去った
それから孤独になったスマイルは
悠久の時を過ごした
彼の言葉に従う必要はない
しかしスマイルは
無目的に存在し続ける
ただの意思を持った無生物だ
彼の意思を汲み取るかどうかは
スマイル次第だった
スマイルは迷うことなく
彼の言葉に従い
笑顔が見合う存在になろうと
旅を始めた
理由などない
スマイルと言う名の魔族は
その道を選んだ
感情を持つには
感情を持つ物の傍にいるのが
一番効率的だろう
スマイルは人間社会に溶け込んだ
魔法を扱える人間に近付くのが
一番簡単で効率が良かった
魔力の塊であるスマイルは
魔法の事なら なんでも理解できた
そのため魔族である スマイルのおかげで
人間社会では 魔法使いの時代が発達した
人間社会に貢献する中
スマイルは同族の繁栄も志した
自らと同じ魔族を増やそうと
そこらじゅうに漂う魔力たちを
魔族として確立した
その方法は実に簡単だ
器を用意し
そこに一定の魔力を注ぎ込めば
魔族は覚醒する
スマイルはこうして
魔族を増やしながら
自らも魔力が 一点に集中した事によって
発生したのだろうと
なんとなく推測ができた
そうして魔族 魔法使いが繁栄した結果
スマイルは 世界で一番強い魔法使いとして 歴史にその名を刻む事となった
悪い気分にはならなかった
スマイルを称え
賞賛する魔法使いたちは
皆笑顔だった
スマイル
スマイルには――
ただの魔力の塊である魔族には
感情がない
感情とは生まれながらに 生き物が持っている至高品だ
生き物の真似事はできても
無生物であるスマイルは
どう足掻いても
感情を持つ生き物にはなれない
自らが笑顔に なれないならば――
周囲を笑顔にする 存在になれば――
きっと この名に見合う存在として 認められるだろう――
スマイル
本当のスマイルだ
魔法使いたちは
スマイルに微笑みかける
スマイルを敬い称え
最高の魔法使いだと
笑顔を見せる
きっとこれが
スマイルの存在意義だと
スマイルは確信した
スマイルは人間の繁栄に
多く手を貸してきた
それは魔法使いだけでなく
魔力を持たない人間にも
手を貸してきた
魔力を持たない人間たちは
広くスマイルを理解していた
スマイルは 魔力を持たない人間を 差別しない
しかし傲慢な魔法使い達は
そうではなかった
魔力を持たない人間を差別し
自分たちこそ
至高の存在であると力を示し
人間たちを魔法で蹂躙した
戦が起こるのは
時間の問題だった
激化した二つの勢力は 衝突し――
人間達は争い合った
――これが最も古くに 残されている
魔法使いが滅亡を辿った戦
"魔法使いの終戦"
――と呼ばれる古の戦争である
過ぎた力は身を滅ぼす
魔法使いの終戦は
魔法使い達の敗戦だった
スマイルが――
力を持たない人間たちに
味方した結果だった
笑っていた――
笑顔だった――
魔法使いたちの末路は――
自分たちをはぐくみ育てくれた
母であり父である
魔族(スマイル)からの 裏切りだった
スマイル
スマイル
魔法だけでは
笑顔にできる 存在にはなれない
魔法があったとて
それはきっと過ぎた力だ
戦は笑顔とは
程遠いものだった
笑顔の先にあるものが 戦ならば――
こんな魔力になど
意味はない
スマイルは――
――自らを否定した
大戦の原因は魔力だ
魔法による人間の驕りだ
終戦に伴いスマイルは
自らが確立した魔族たちを
淘汰した
感情を持たない彼らは
ただの意思を持たぬ
魔力へと霧散し
霧散した魔力は
全てスマイルへと吸収された
大気中の魔力をすべて奪い
大気中に発生する魔力すら
スマイルは奪い尽くした
魔力をこの世界から 根絶しなければ
また魔法使いが誕生する
スマイルは一心不乱に
魔力を自身に集め
世界から魔力を根絶していった
そうしたスマイルは
魔法使いたちから 恐れられる存在になった
魔力をすべて
奪われた魔法使いは
ただの人間でしかない
スマイルは魔力をすべて奪い
世界を征服しようとする 魔王として 恐れられるようになった
果てには討伐隊が組まれ
スマイルは人間から
追われる身となった
魔力の塊である
魔族を殺す方法は 一つしかない
器に保有されている魔力を
分散させる事だ
器を壊せば必然的に
魔力は分散し
魔族は意思を失い
消滅する事になる
しかし――
スマイルの殺し方を知る者は
誰一人として存在しなかった
スマイルは器の中に
発生した魔族ではない
器もない状態から発生した
純粋な魔力の塊が
意思を持った存在なのだ
いくら魔力で創られた
人間を模した器を攻撃して
形を崩せても
それはただスマイルが
人間と交流するための 器であり
彼を存在させる為の
機能を持ってはいないため
スマイルという存在を
消す事はできない
誰もそんな事に気付かず
スマイルの器を攻撃する
敵意を向けられ――
鉄の刃で刺され――
切り裂かれた
――それでもスマイルは
反撃しなかった
スマイル
スマイル
スマイル
彼は追われ傷付きながらも
魔力の根絶の為に
世界中から魔力を
奪い尽くした
そうして目的を達成した後――
スマイルはその強大な魔力で
人間たちの記憶から
魔力の存在を消し去った
それは――
魔族と魔法使いの存在の 消滅を意味していた
そうしてスマイルも
人間たちの記憶から 消え去った――
スマイルは スマイルと言う名の魔族である
その名には 意味が込められている
多くの人間たちと
接触してきたスマイルは
様々な経験から
疑似的な感情を 造る事に成功した
スマイルは魔族を棄てる為
その疑似的な感情を 魔法で自らに与えた
それは決して
人間のように
感情豊かなものではないが
生き物として持つべき
喜怒哀楽を僅かながらに 備えている
それを最後に
スマイルは魔法を封印した
スマイルはそれから
数多の知識から
人々の傷や病を癒すために
薬剤師となった
彼が病人や怪我人の元に赴き
薬を与えれば
彼らは笑顔になる
それはきっと――
魔法使いの頂点に 立っていた時ほどの
満面の笑顔ではないだろう
だが――
子供
スマイル
きっとこれだけの笑顔で良い
魔法使い
彼の言葉は
今もスマイルの記憶に 深く刻まれている