小切りの歪

それからわたしたちは、滞在する間お世話になる予定の一軒家に到着した。

見上げた先にあるのは、２人で生活するには大きすぎるほどの一軒家。

わたしたちが帰省することを報告した際、村の人がすごく喜んでくれて

この一軒家を無償で貸してくれることになったのだ。

家に入ったわたしたちは各々の部屋を決め、荷物を置いた。

その時、誰かが戸を叩いた。

ハキハキとした声が外から飛んできた。

戸を開けば、懐かしい姿がそこに 立っていた。

日に焼けた肌と、焦げ茶色の髪

青空のような爽やかな笑顔

幼なじみの一人、ツカサだ。

数年ぶりの再会に おもわずツカサに抱きつく。

ツカサも嬉しそうに ぎゅっと抱き締め返してくれた。

そっと耳打ちをされる。

なにが悲しくて感動の再会に はしゃぐことを禁じられなきゃならないんだと

そう思ったけど

朝飛の圧があんまりすごいから ちょっと控えることにした。

ツカサに手首を掴まれる。

朝飛がそう言うと

ツカサの雰囲気が 元の爽やかなものに戻った。

背をかがませたツカサが ぐっと顔を寄せてくる。

頬を染めてはにかんだ ツカサは

わたしの頭を 愛おしげに撫でた。

幼なじみに再開して早々

朝飛の忠告を忘れてしまいそうなほど、甘い空気があたりを包み込んでいた。

わたしを見るツカサの瞳は とても大人びていて

たしかな成長と 深い想いを感じた。

カラカラと笑うツカサ。

ツカサはわたしの手を引いて 歩きだした。

後ろに続いた朝飛は 依然、難しい顔をしていた。

わたしたちはツカサに連れられ、 村の人たちのもとへ向かった。

懐かしい顔ぶれに 自然と表情がほころんでいく。

歓迎してくれた村の人たちに お土産を渡していく。

見たこともないお菓子に皆一様に 目を丸くしていて、それがなんだか面白かった。

思い出話に花を咲かせていれば、 傍観していたツカサがつんつんと わたしの肩をつついた。

ツカサの言葉は、いまだ顔を見せていない幼なじみのことを指していた。

ツカサは小さな声で ボソリとなにかを呟いた。