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数日ぶりに見たその姿を、ひろは一瞬で見つけた。
朝の廊下はいつも通り騒がしくて、登校してきた生徒たちの声や足音があちこちで重なっている。
そんな中でも、ひろの視線は自然とひとつの背中に引き寄せられた。
少し長めの茶髪。 細い肩。 静かに歩く後ろ姿。
見間違えるはずがなかった。
hr
思わず小さく名前が漏れる。
でも、その距離は少し遠くて、声をかけるには中途半端だった。
そのまま追いかけようとした瞬間、周りの生徒たちに流されるみたいに、うりの姿は廊下の向こうへ消えていく。
hr
行けばよかったのに。
呼べばよかったのに。
そう思ったのに、結局朝は何もできないままだった。
ただ、数日ぶりにちゃんと学校へ来ていることがわかっただけで、少しだけ息がしやすくなる。
無事だった。
それだけで、昨日まで胸の奥に張りついていた重たいものが、少しだけ軽くなった気がした。
けれど同時に、見つけてしまった違和感もあった。
袖口。
今日はいつもより少し長めに、手の甲にかかるくらいまで制服の袖を引いていた。
ただの気のせいかもしれない。
でも、そう思って流せるほど、ひろはもう鈍くなれなかった。
一時間目から四時間目まで、ひろの意識はずっと落ち着かなかった。
黒板の文字を追っていても、先生の声を聞いていても、気づけば考えてしまう。
今、声をかけたら迷惑だろうか。 避けられたらどうしよう。 でも、何も言わないままなのも違う気がする。
ぐるぐると同じことばかり考えているうちに、昼休みのチャイムが鳴った。
その音を聞いた瞬間、ひろはほとんど反射みたいに立ち上がっていた。
多々(モブ
クラスメイトに呼び止められて、ひろは鞄の中から適当にパンを取り出しながら振り返る。
hr
曖昧にそう返して、教室を出る。
行く先なんて、最初から決まっていた。
昼休みに、ひとりで静かに過ごせる場所。
階段の踊り場だと思ったけど、
そこには居ない。
そんな予感がした。
あの日、うりと一緒にいたあの場所。
人気の少ない特別棟の空き教室の前まで来ると、ひろは一度だけ呼吸を整えた。
扉は閉まっている。
中にいるかは、わからない。
それでも、ここに来ずにはいられなかった。
昼です(((圧
そっと扉を開ける。
差し込む昼の光の中に、ひとり分の気配があった。
窓際の席に座って、静かにパンの袋を開いている後ろ姿。
その瞬間、ひろの胸の奥が小さく跳ねる。
hr
思わず漏れた声に、うりがゆっくり振り返る。
その表情が、ほんの一瞬だけ固まった。
驚いたのか、困ったのか、それとも別の何かなのか、ひろにはまだわからない。
でも、逃げるように目を逸らされなかっただけで、少しだけ救われる。
ur
名前を呼ばれる。
たったそれだけで、ひろの中にあった迷いが少しだけほどけた。
hr
自分でも思っていなかった言葉が、先に口から出る。
うりが小さく目を瞬かせる。
ur
hr
ここで変に誤魔化したら、たぶんまた何も言えなくなる。
ひろは無意識のうちに、パンの袋を握る手に力を込めていた。
hr
言葉を選ぶ
選びすぎて、うまくまとまらない。
でも、逃げたくなかった。
hr
静かな教室に、その一言だけが落ちる。
うりは何も言わない。
その沈黙が怖くて、でももう止まれなくて、ひろは小さく息を吸った。
hr
それはたぶん、いちばん無難で、いちばん遠回りな聞き方だった。
本当に聞きたいことは、そんなことじゃない。
でも今は、それ以上踏み込む勇気がなかった。
うりはしばらく俯いたまま、パンの袋の端を指先でいじっていた。
それから、ほんの少しだけ遅れて、小さく答える。
ur
短い返事
でも、ちゃんと返してくれたことが、ひろには思っていたよりずっと嬉しかった。
hr
ひろはそれ以上、すぐには何も言わなかった。
言えなかった、の方が近いかもしれない。
大丈夫? 何かあった? 無理してない?
喉の奥まで何度も出かかるのに、まだそのどれも、今のうりに向けていい言葉には思えなかった。
だから代わりに、ひろはできるだけ静かな声で言う。
hr
その一言に、うりの指先がぴたりと止まる。
伏せられていた睫毛が、わずかに揺れた。
教室の中が、少しだけ静かになる。
たったそれだけの沈黙なのに、ひろにはひどく長く感じられた。
やっぱり、言いすぎたかもしれない。
困らせたかもしれない。
そう思い始めたころ、うりが小さく息を吐く。
そして、ひろの方を見ないまま、ぽつりと零した。
ur
hr
思わず間の抜けた声が出る。
ひろが目を丸くすると、うりはほんの少しだけ口元を緩めた。
笑った、というほど大きくはない。
でも、たしかに少しだけ柔らかい顔だった。
それだけで、ひろの胸の奥が熱くなる。
hr
そう返すと、うりは小さく肩をすくめる。
ur
ぶっきらぼうなのに、前より少しだけ棘がない。
その変化が嬉しくて、ひろは思わず笑ってしまう。
hr
そう言いながら、ひろはうりの向かいの席を軽く指さした。
hr
うりは一瞬だけ迷うように視線を伏せてから、小さく頷いた。
ur
その返事だけで、ひろには十分だった。
まだ何も解決してない
昨日見たものの意味も、うりが抱えているものも、何ひとつちゃんとは知らないまま。
それでも。
少なくとも今この瞬間、うりはここにいて、ひろの前で小さくでも言葉を返してくれている。
それだけで、今日のひろには救いだった。
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