土曜日。
バスを乗り継いで、ある場所をたずねて来た。
最寄り駅から20分以上の道のりに、瓦屋根のある立派な塀が続いているお屋敷。
表札に書いてある名前は、十二月三十一日《ひづめ》。
アルクの生家にして、ぼくが唯一知っているアミキティア魔法学校とのつながりがある場所だ。
退学し日常に戻ってから、ずっと心の中でくすぶっている気持ちがあった。
その正体を探るために、助言をしてくれる人と話がしたかった。
その心当たりが、この家しかなかったからだ。
正面の門だけでも、ぼくの家より立派なんじゃないかという大豪邸。
門は閉ざされているが、右柱にカメラ付きのインターホンがある。
アルクのおばあさんは、やさしいけど厳しい人でもあった。
ぼくがたずねて来たところで、話してくれるだろうか。
たっぷり20分くらい、あーでもないこーでもないと考えに考えてから、意を決してインターホンのボタンを押した。
闊歩
インターホン越しに、アルクのおばあさんの声が聞こえた。
ユウゴ
覚悟していたはずなのに、出だしからドモって噛んでしまった。
深呼吸して、もう一度あいさつし直す。
ユウゴ
闊歩
ユウゴ
よかった、ぼくのことを覚えていてくれた。
闊歩
ユウゴ
ユウゴ
闊歩
ユウゴ
闊歩
闊歩
おばあさんに冷たく言い放たれた。
この一言でやっと実感できた。
もう魔法使いにはなれないという事実を。
魔法使いにならないのだから、アミキティア魔法学校との関係も無くなった。
それをはっきりと自覚して、目の前が暗くなったのを感じた。
闊歩
ユウゴ
そうだ。
ぼくはもうアルク達とも関係ないし、この家に来る理由もない。
ここにいても、ただの迷惑な子供でしか無い。
ユウゴ
闊歩
ぼくが帰ろうとしたところで、おばあさんに最後に声をかけられた。
闊歩
闊歩
どういう意味だろう。
何かの謎かけみたいな言葉だ。
闊歩
インターホンからブツッと切断音がして、通話が途切れた。
多分、この2つの間違いというのは、ぼくと魔法使いをつなぐ最後の手がかりだ。
この2つの意味がわかれば、まだ何かわかることがあるかもしれない。
はじまりの場所。
これは、ぼくの魔法使いとしてのはじまりの場所ということだろう。
右手を左肩の上に置く。
服の上からでもりんかくがわかるほどの大きい傷痕がここにある。
魔力痕。
幼い頃に魔物に襲われてできた傷で、この傷から入った魔力が体の中で大きくなることで、魔法使いになれる体質に変化する。
この傷を負ったのは、市の外れのキャンプ場だ。
ユウゴ
ぼくは門に向かって頭を下げると、キャンプ場に向かい出発した。
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