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土曜日のキャンプ場は、大勢の人がいた。
いつもは管理事務所にいる木谷さんも、キャンプ客の対応に追われて、広いキャンプ上の中を右往左往していた。
仕事の邪魔になるだろうし、今のぼくの状況を説明するのも難しいので、木谷さんに会わないようにバーベキュー広場に向かった。
バーベキュー広場の後ろに広い山林があり、5年前に幼い子供が野生の獣に襲われる事件があった。
現在では同じ事件が起こらないように立入禁止になっていて、獣よけの電気柵もあるので、人が寄り付かないようになっている。
その5年前に襲われた子供がぼくで、襲った獣は魔物だった。
その時に負った傷は魔力痕と言い、ぼくの体に魔力が宿ったきっかけとなった。
ユウゴ
背中にキャンプ場の喧騒を感じながら、電気柵をこえて静寂に包まれた山林に足を踏み入れた。
山林に入って5分も歩かないうちに、音が消えた。
キャンプ場からの喧騒が木々に生い茂る枝葉に吸い込まれているかのように、耳に入らなくなった。
聞こえないのは人の声だけではない。
鳥のさえずりや風で揺れてこすれる枝の音、自分の足音すらも感じない。
音がなく同じ景色が続く中、思考だけがクリアになっていく。
自分は何のために、ここに来たのか。
学校で友達といる時、家で家族といる時、部屋でひとりでいる時、いつも感じていた。
孤独感、焦燥感、喪失感……いろいろな感情がまぜこぜになった、わけの分からない感覚。
元の生活に戻れて、普通の生活に戻れた。
ぼくは何も失っていない。
ぼくは何をしたいと思っているんだ。
ただただ足を動かして、山林の奥へ奥へと歩いていく。
30分は歩いたか。
ふっと開けた場所に出て、目の前に幹の太い大きな木があらわれた。
ユウゴ
太い幹の根元近くにえぐったような傷がある。
その傷を中心に、茶色と黒を混ぜたようなシミが、木の幹から根っこ、地面の土にまで広がっていた。
ユウゴ
突然、左肩が痛みだした。
外側からの刺激ではなく、体内から刺されているような痛みが沸き起こって来た。
位置的には、魔力痕のある箇所。
ユウゴ
魔力痕をつけた魔物が近くにいると感じる痛み。
以前、海で魔物鮫に襲われた時に、ユトリが感じていた痛みだ。
近くに魔物がいる。
あの時はアルク達がいたおかげで何とかなったけど、今はぼくひとりだけしかいない。
強い風が吹き、木々がガサガサと遠吠えをするように音を立てる。
左肩の痛みはさらに大きくなり……意識が途絶えた。