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扉を開けると、ふわりと湯気が漂った
浴室は広く、白を基調としたタイルに、銀色の蛇口が整然と並んでいる
浴槽には既に湯が張られ、ゆるやかに湯面が揺れていた
柊 朔弥
朔弥は、足先だけをそっと浴室の中に入れる
外とは比べ物にならないほど、あたたかい空気が肌を撫でる
着ていた服を脱ぐのも、どこに置いていいか分からず戸惑いながら
恐る恐る服を畳んで、浴室の隅に置く
鏡に映った自分の体は、あまりに細く、青白く、肋骨の影がくっきりと浮いていた
柊 朔弥
そう思いながら、蛇口をひねる
柊 朔弥
勢いよく水が出てきた。びっくりして手を引っ込める
ぬるま湯に触れるだけで、体が跳ねた
もう一度、そっと手を差し出す
柊 朔弥
柊 朔弥
ぽた、ぽたと、髪から落ちる水滴が、白いタイルに落ちる音が小さく響く
手に取ったボトルをひとつ、開ける
柊 朔弥
言われた通りにこすってみると、ふわっと泡が立った
指の間からあふれる泡
思わず鼻を近づける
柊 朔弥
こんな香り、嗅いだこともなかった
髪に泡を乗せて、やさしく洗っていく
柊 朔弥
泡が目に入って、痛みに顔をしかめる
体も同じようにボディソープで洗っていく
最後に、浴槽の湯にそっと足を入れる
柊 朔弥
初めて触れた“湯”は、体の奥まで温もりを届けてきた
傷ついて、冷えて、麻痺していたはずの体が、ようやく思い出すように――
「生きている」と訴えかけてくる
湯の中に沈んでいく体を抱くように、やさしい静けさが広がっていった
誰もいない、誰も怒鳴らない、誰も命令しない静かな場所
柊 朔弥
頬にふれるのは湯か、それとも――涙だったのか、自分でも分からなかった。