実家からの帰り道、私は将太のことを考えていた。
深いため息がでる。
確かに私は過去に戻りたいと思った。
将太と別れる前に、戻りたいと願った。
だけど、あの後将太とよく話をしていたら、やり直せていたのではないだろうか。
そんな思いが頭をよぎる。
けれど今は、もう一度将太に会って話をすることさえできないのだ。
将太がどこにいるのかさえ分からない。
もし分かったとしても、今の私には付き合っている人がいる。
私の気持ちなんて、どこにも行き場所がないのだ。
ぽつり、と冷たい雫が腕へ落ちた。
私は空を見上げる。
重たく暗い雲が空を覆っていた。
ハル
ハル
私は駆け足で家路を急ぐも、慣れない土地のせいでなかなかたどり着けない。
その間に雨は勢いを増していく。
ハル
公園を見つけた私は、しばらくそこで雨をしのぐことにした。
屋根付きのベンチへ、私は腰を下ろす。
すると着信があった。
柳太郎だ。
しばらく悩んだ後に、私は電話をとる。
ハル
電話越しに、柔らかく温かい柳太郎の声が響く。
柳太郎
柳太郎
柳太郎
ハル
ハル
戸惑いながら答える私に、柳太郎は優しく笑う。
柳太郎
柳太郎
柳太郎
私は地図に出ている住所を伝え、電話を切る。
これからこの人と暮らさなければいけないなんて。
私が過去から来ていることは隠していたほうがいいのだろうか?
たとえ伝えたとして、信じてくれるだろうか?
ハル
また、深いため息が出た。
きっと兄がすぐに過去へ戻してくれる。
そうしたらまた、将太にも会えるから。
だからしばらくの間だけ、私は未来のハルとして生きよう。
きっとそれが、誰にも迷惑をかけない、一番の方法だから。
そう、自分に言い聞かせる。
しばらく待っていると、目の前の道路に1台のタクシーが止まった。
柳太郎
雨の中、傘を差した柳太郎がこちらへと駆け寄ってくる。
ハル
ハル
落ち着いて話せただろうか。
口調は変ではないだろうか、そんな不安がよぎる。
柳太郎の顔色を見るが、こちらを疑っている様子はなかった。
柳太郎
柳太郎
柳太郎
そういえば私、朝から何も食べていない。
そう気が付くと、途端にお腹がすいてくる。
ハル
柳太郎
柳太郎
柳太郎は笑顔で、私に手を差し伸べる。
一瞬戸惑うも、私はその手を取り立ち上がる。
当然のように傘はひとつのようだ。 こちらへ傘を傾けているせいで、柳太郎の肩は濡れていた。
ハル
私がそう言うと、柳太郎は驚く。
柳太郎
柳太郎
そう言って柳太郎は私の腰に腕を回し、グイっと引き寄せる。
ハル
ハル
ハル
リュウ、と口にした途端顔が赤らむのが分かった。
兄は別れ際、未来の私がどんな風に柳太郎に接していたか、分かる限りのことを教えてくれた。
柳太郎の前ではいつも笑顔だったこと。
柳太郎の意見を尊重して、人前では柳太郎を立てていたこと。
それから、柳太郎が私をハルと呼ぶように、私も柳太郎を愛称で呼んでいたこと。
だから自然に、そう呼ばなくてはいけないのに。
どうしてもぎこちなくなってしまう。
柳太郎
柳太郎
柳太郎は笑い、私を抱き寄せる腕に力が入った。
そのままタクシーへと乗り込んだ私たちは、行きつけだというお店へと向かった。
店内はおしゃれなアンティーク調のテーブルがいくつかあり、数組の客がお酒を手に歓談していた。
ハル
私は呟く。
柳太郎
はは、と私は笑って見せる。
こんなお店、入ってもいいのだろうか?
柳太郎がそんな私の戸惑いに気が付くはずもなく、迷いなく店内へと進んでいく。
席に着いた私に、柳太郎が問いかける。
柳太郎
ハル
お酒を頼むべきなのだろうか?
当然のようにお酒を進めてくるということは、私は普段から飲んでいるということなのだろう。
ハル
アルコールは過熱するとなくなるという話を聞いたことがある。
確か、料理用のみりんや酒にもアルコールが含まれていて、加熱することによってアルコール分を飛ばすことができるのだと。
柳太郎
柳太郎が戸惑ったような表情を見せる。
ハル
嫌な汗が額を伝う。
柳太郎
柳太郎
ハル
ハル
柳太郎
柳太郎
ハル
柳太郎
ハル
こんなに若くてかっこいい人が飲むなんて。
お父さんがテレビ見ながらゲラゲラ笑って飲むイメージしか浮かばないよ。
私は心の中で呟く。
柳太郎
柳太郎
柳太郎が眉をひそめ下唇を噛む。
ハル
ハル
柳太郎
柳太郎が疑うようにこちらを覗き込む。
その視線に耐え切れず、私は目を逸らし言う。
ハル
柳太郎
ハル
自分の声が、数秒遅れで耳に届く。
視界はゆらゆらと揺らめき、柳太郎の顔がぼやける。
柳太郎
柳太郎は心配そうな表情で、こちらを覗き込むように見つめる。
ハル
ハル
柳太郎
柳太郎
気分がよく、私は声をあげて笑う。
そんな私の様子に驚いたのか、柳太郎は大きな瞳を真ん丸にして瞬きを何度もする。
柳太郎
柳太郎
柳太郎
ハル
ハル
柳太郎
ハル
ハル
柳太郎
柳太郎
ハル
柳太郎
ふはっと笑った後で柳太郎が言う。
ハル
柳太郎
ハル
柳太郎
抱きしめたくて困ってる
柳太郎はそう言って、困ったように微笑んだ。
コメント
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やばぁ♡♡ラブラブ💑
ああ良い