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今日は何かに溺れたかった。

だからバーなんて初めて。

そのくらい私は行き詰まっていた。何もかも忘れてしまいたかった。

今日ぐらい甘えてもいいよね」そう自分に言い聞かせ、少しばかりの緊張を胸に、私は重たい木のドアを開けた。

カランカラン。

私が扉を押すと、鉄製の年季の入った鈴が軽やかに店内に響く。

マスター

いらっしゃいませ。

男性の低くて心地よい声が、私を出迎えてくれた。

白髪混じりの髪をキッチリと整え、白いシャツを着たその人は、年齢はきっと高いだろうが、とてもスマートな方だった。きっとこの店のマスターだろう。

私は適当にカウンターの椅子を引き、ドサっ倒れ込むようにして座った。

マスター

何にされますか。

穏やかな声が私に聞いてくる。きっと私みたいな客多いんだろうな。この人の声、なんだかすごく落ち着く。

キム・ヘリン

マスターのオススメで。

私はバーというところに来たことがなかったので、とりあえずマスターのオススメならば失敗はないだろうと思い、そうした。

マスター

どうぞ。

しばらく何も考えずにボーッとしていると、マスターがお酒をカウンターに置いた。中は少しオレンジっぽくて、透き通っていた。氷が店内の明かりをキラキラと跳ね返している。

キム・ヘリン

あ、あの、これは...?

マスターは微笑んだ。

マスター

飲むと元気になれますよ。最近皆さんコロナ疲れで、溜息ばっかりですからね。

マスターは、お酒の名前は教えてくれなかった。若干の不安を抱えながら、私はそっとグラスを口にした。

キム・ヘリン

ん、おいしい。

程よい酸味と甘味があって、フワッと爽やかな香りがした。喉を通るひんやりした感覚が心地よいよくて、とても美味しかった。

こんなに美味しいお酒、今まで飲んだことがなかった。

キム・ヘリン

美味しいです。マスター。

私がそう言うと、マスターは自信ありげにふふっとまた微笑んだ。

今日くらい自由でいたい、そう思いながら三杯目くらいのグラスに私はまた手をつけ、ぐびっと流し込んだ。

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