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夏都side
SHR後、俺たちは真っ直ぐに 待ち合わせ場所になっている 美術準備室へと向かった。
美術部顧問の大神先生から 「審判」が下されるまで 部室に居ても良かったのだが 逆に落ち着かないだろうからと 威榴真と澄絺と一緒に 廊下で待つことにしたのだ。
赤暇なつ
この場の誰もがじりじりとした 焦燥感に無言で耐えている。
開け放った窓から入ってくるのは 爽やかな風ではなく 蟬たちの大合唱だ。
春緑すち
数分ぶりに声を発したのは 窓の外を眺めていた澄絺だった。
俺も手で太陽を隠しながら 眩しい空を仰ぎ見る。
赤暇なつ
春緑すち
紫龍いるま
澄絺が同意を求めるように 隣を見たが対する威榴真は 心ここに在らずといった状態だ。
窓の外を眺めてはいるものの 目の前に広がる景色ではなく 何か別のことが頭の中を 占めているらしい。
澄絺と俺の視線にも気付かず 物憂げなため息を零した。
赤暇なつ
2人は家が隣同士で よくお互いの部屋を行き来しいる。
高校生になってからも 土日のどちらかは一緒に勉強したり ゲームをしていると言っていたから その時に何かあったのかもしれない。
赤暇なつ
ちらりと澄絺を見ると向こうも 俺に視線を投げかけるところだった。
目が合うなり須智はやれやれと 言いたげに軽く肩を掠めた。
俺は苦笑で応え、 再び窓の外へと向き直る。
暫くすると廊下にブーブーと バイブ音が響いた。
紫龍いるま
威榴真の一言に澄絺も俺も 弾かれたように振り返る。
じっと息を詰めて続きを 待っているとすぐに威榴真から ガッツポーズが飛び出した。
紫龍いるま
春緑すち
赤暇なつ
ほっと胸を撫で下ろす俺に 威榴真と澄絺も安心し切った顔で頷く
美術部顧問から正式に許可が 下りたとなれば絵を描く場所も 確保されたことになる。
何より学校側に隠れて何かをする 必要がないというのが大きかった。
赤暇なつ
特に恋醒と美琴はほぼ100%の 受賞率を誇っている。
澄絺に賞を獲った経験があるとはいえ まだ歴史の浅い部の それも恋醒たちの評価に 直接結び付かない活動で時間を 奪うことは簡単には許可が 下りないだろうと思っていた。
赤暇なつ
きっと蘭たちも美術部の活動と 両立するからと口添えして くれたのだろう。
ますます気を引き締めて映画作りに 臨まなければと背筋が伸びる。
澄絺たちも同じ気持ちだったようで 表情を改めていた。
紫龍いるま
感慨深げに呟いた威榴真に 澄絺がいつになく真面目な顔で頷く。
春緑すち
春緑すち
澄絺の口調は穏やかで 気負ったところは感じられなかった。
紛れもない本心で取ってつけた 言葉ではないことが充分伝わってくる
赤暇なつ
心を揺さぶられたように立ち尽くす 俺の横ではっと澄絺が息を呑んだ。
何かに気付いたのか眉を顰め 急に深刻な表情になる。
一体どうしたのかと身構える 威榴真と俺を前に澄絺は 声を落として呟く。
春緑すち
赤暇なつ
言い終わった途端澄絺は 肩に掛けていたバッグを漁り始めた。
威榴真も返事をするタイミングを 逃したようでぽかんとした顔で 見守っている。
中から出てきたのは昼休みに 見せてもらった手乗りファンだった。
コンセントやパソコンに繋がなくても 使えるのが売りだとかで 早速電源を入れている。
赤暇なつ
初めて賞を獲った時も澄絺は 「映画作りは趣味のひとつ」と 言っただけだった。
寝食を忘れて没頭していたにも 関わらず、だ。
澄絺という男は何事も舞台裏を 明かすのはカッコ悪いと思っているし 努力している姿を見せたがらない。
もっといえば「努力」だと 思っているのは周囲だけで 本人は「当たり前のこと」としか 考えていないのかもしれない。
赤暇なつ
思わず零れた俺の独り言は 本人の耳にも届いたらしい。
澄絺は首を傾げたがすぐに 「あぁ」と目を輝かせた。
俺の発言をどう受け取ったのか 扇風機を自慢げに掲げて見せる。
春緑すち
春緑すち
赤暇なつ
素直に驚く俺に威榴真が口元を もごもごさせながら続く。
紫龍いるま
元ネタのアニメには俺にも 心当たりがあったがまさか そんなベタなと苦笑する。
だが澄絺は鼻歌でも 歌い出しそうな調子で言う。
春緑すち
紫龍いるま
赤暇なつ
俺と威榴真が声を揃えて笑い出すと 澄絺は納得がいかないのか 眉を寄せて訴える。
春緑すち
紫龍いるま
紫龍いるま
吹き出す威榴真に澄絺も俺も つられて笑い出す。
一頻り笑い転げると渡り廊下の方から 足音が聞こえてきた。
首を巡らせると手を振る 蘭の姿が目に入る。
桃瀬らん
春緑すち
桃瀬らん
澄絺と蘭の調子はいつものことだが 今日は恋醒と美琴もいる。
幼馴染の蘭とは今更遠慮する 仲でもないけれど恋醒達は違う。
わざわざ映研の為に時間を とってもらうことを考えれば お礼は当然に思えた。
赤暇なつ
自販機に向かおうとする俺の前で 澄絺がひらひらと手を振る。
春緑すち
春緑すち
桃瀬らん
桃瀬らん
澄絺の軽口に蘭がすかさず応酬すると わざとらしい咳払いがして威榴真の 冷ややかな声が響いた。
紫龍いるま
紫龍いるま
威榴真の言葉に振り返ると 遅れてやってきた美琴と恋醒が 立ち尽くしていた。
澄絺と蘭は幼馴染という関係以上に 悪友と呼ぶのが相応しいほど ウマが合う。
口を挟むタイミングを 伺うどころか2人のノリに 圧倒されてしまったのだろう。
赤暇なつ
そんな場合ではないと 分かっているのに俺は恋醒に 視線が釘付けになる。
彼女の動きひとつひとつに 鼓動が大きく跳ね上がり どんどん顔に熱が集まっていく。
ふっと誰かの視線を感じたが 蘭の慌てた声に意識を戻された。
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