咲蓮
霧の中から出てきたのは、紛れもなく 私たちの育ての親だった。
彼のもとへと走り、抱きつく。
霞
咲蓮
霞
小萩
霞
霞
小萩
兄が口ごもっているのを横に、 霞が後ろをくるりと振り向いた。
霞
何に向かって話しているのだろうと 思っていたが、耳を澄ますとひそひそと 話す声が聞こえてきた。
水?
緑?
水?
すると、霧の中から二つの人影が 出てきた。
ひとりは水色の長い髪をした女の人、
もうひとりは緑色の短い髪をした男の人。
どちらも和服を着ていて、 頭には華やかな装飾がつけられていた。
霞
霞の言葉を聞くなり、二人は 目をほそめてこちらに歩み寄ってきた。
緑?
風織神
月晴神
月晴神
風織神
その瞬間、私の頭にひとつの考えが 浮かんだ。
それを迷わず口にする。
咲蓮
咲蓮
そう言うと、月の神さまは一瞬目を 見開いたあと、困ったような表情をした。
月晴神
月晴神
月晴神
咲蓮
すると、風の神さまが頭を掻きながら、
風織神
風織神
小萩
小萩
月晴神
月晴神
ふと兄の方を見ると、ぱちっと 目があった。
それから同時に頷き、神さまたちの方を 向き直る。
咲蓮
月晴神
月晴神
そう言うと二人は、両手を胸の前で 組んで、祈るような構えをした。
次の瞬間、霞の体が白い光に包まれた。
そして、霞の体は徐々に消えていった。
風織神
風織神
咲蓮
小萩
風織神
風織神
月晴神
月の神さまは着物から何かを取り出し、 私たちに差し出した。
咲蓮
咲蓮
ひとつは紫の宝石があしらわれていて、 風の神さまがつけている首飾りと 似たもの、
もうひとつは桃色の宝石があしらわれて いて、月の神さまがつけている冠のような ものと似たものだった。
どちらもこの世のものとは思えない 美しい光を放っていた。
小萩
風織神
咲蓮
月晴神
咲蓮
月晴神
小萩
兄の顔が赤くなっていることに気づき、 思わず笑いが込み上げてきた。
それは神さまたちも同じだったみたいで、風の神さまが笑いをこらえきれずに 軽く吹き出した。
それにつられて私たちも笑い声を上げ、 しばらく四人で笑い合っていた。
シャン…
しばらくした頃、あの音が響いた。
風織神
月晴神
小萩
風織神
月晴神
明るく振る舞う二人を見ていると、 寂しい気持ちは自然と消えていった。
そして、二人の方を見て精一杯の笑顔で こう言った。
咲蓮
咲蓮
咲蓮
咲蓮
すると二人も、にこりと柔らかく 微笑んでくれた。
月晴神
風織神
その言葉を聞いたのを最後に、 私の意識はだんだん薄れていった。
咲蓮
目を覚ましたとき、私の体は地面に 寝かせられていた。
朝の涼しい空気が頬をなでる。
私の横には、うつ伏せになっている 兄がいた。
咲蓮
五回ほど揺さぶったところで、 瞼が開いた。
小萩
小萩
兄はゆっくりと体を起こし、 遠い目をしながらあたりを見回した。
小萩
咲蓮
私たちがいたのは天渡の丘で 間違いなかった。
けれど、そこには私たちが摘んだ花や 銀故幻木はなく、
看板の一つすらなかった。
咲蓮
もしかして、霞の魂が見えるように なったというのも、夢の内容の一部 なのではないか。
それでも、私は、私たちは、 前に進まなきゃだめなんだ。
そう思って立ち上がったとき。
カラン…
私の着物から何かが落ちた。
それは、桃色の淡い光を放つ 髪飾りだった。
咲蓮
小萩
兄の方を見ると、彼の手にも 紫の髪飾りが握られていた。
小萩
咲蓮
家へと続く一本道を歩く。
花や草は朝の光を受けて輝いている。
そして、天には真っ青な空が 広がっていた。
家に帰ったら霞が待っているはず。
これから、前のように楽しい日々が―
いや、
前よりもはるかに楽しい日々が 待っているんだ。
すると、兄に早く行こうと急かされ、 彼はそのまま小走りで行ってしまった。
その背中を見失わないように、
もう二度と、互いの気持ちに 気づかないことがないように、
私は心のままに駆け出した。
その夜、新月の里の天に、初めて月が昇った。
𝑭𝒊𝒏.
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