🌹 第4話 菜月の影
週の真ん中の昼休み。 私は友達の結衣と他愛ない話をしながら笑っていた。
結衣
紬、その髪留めかわいいね〜!
紬
えへへ、ありがとう。
最近買ったんだ
最近買ったんだ
そんなふわっとした時間のすぐ後―― ふと視線を感じて振り向くと、 廊下の向こうで菜月がこちらを見ていた。
笑ってる。 ……でも、どこかぎこちない。
「菜月くーん!」と手を振ると、 すぐにいつもの柔らかい表情に戻って近づいてきた。
菜月
紬さん、楽しそうだったから声かけづらくてさ。
……ごめん、邪魔した?
……ごめん、邪魔した?
紬
え、全然!
そんなことないよ
そんなことないよ
そう言ったのに、 菜月はなぜかホッとしたように息を吐いた
その反応が、少しひっかかった。
◆ 放課後の帰り道
菜月はいつもと変わらず笑っていた。 けれど、話している途中、ふとこんなことを言った。
菜月
紬さんってさ……知らないうちに、誰かを惹きつけちゃうタイプだよね
紬
え?そんなことないよ
菜月
あるよ。今日だって、
結衣と話してるときの紬、すごく楽しそうだったし……
結衣と話してるときの紬、すごく楽しそうだったし……
菜月
……ああいうの見ると、
なんか不安になる
なんか不安になる
不安? なんで?
私は思わず立ち止まった。
紬
菜月くん、不安って……何が?
菜月は少しうつむき、 靴のつま先で地面を軽く蹴った。
菜月
紬が……いなくなるんじゃないかって
菜月
誰かに取られちゃうんじゃないかって、勝手に思っちゃう
菜月
……ごめん、変だよね
その声音はいつも通り優しいのに、 どこか“重い”響きが混ざっていた。
紬
取られるって……友達だよ?
菜月
わかってるよ。でも……気持ちは簡単じゃない
笑顔で言うのに、 その目だけは、笑っていなかった。
胸の中に小さなざわめきが生まれる。
――菜月って、こんな子だったっけ?
◆ 家に帰っても、違和感は消えなかった。
菜月は優しい。 気遣い上手で私のことをよく見てくれてる
でも今日の言葉は、 “友達”のそれより、どこか深すぎて。
心のどこかでひっそりと感じた。
菜月の優しさの中に、何か隠れている。 まだ知らない何かが。
その影が正体を見せ始めるのは、 もう少し先のことだった。






