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🌹 第5話 聞けない言葉
あの日以来、菜月の言葉が胸に残っていた
「取られるのが不安」
「いなくならないで」
あの優しい声の奥に、 何かぎゅっと隠された痛みがある気がして
気のせいだと思いながら、 それでも今日も菜月の一挙一動が気になってしまう。
◆ 放課後、図書室
机に向かっていると、 静かに影が差した。
菜月
いつもの笑顔。 でもその笑顔を見た瞬間、 胸がちくりと痛んだ。
紬
本を閉じながら、私はゆっくり息を吐く。 菜月は私の表情を見逃さず、 不安そうに小首をかしげた。
菜月
紬
菜月
優しい声。 いつも通りの“良い友達”の菜月。 その優しさが、今日は少し怖い。
――聞きたい。 菜月、本当はどう思ってるの? なんであんなふうに不安になるの?
けれど声にならない。
◆ 帰り道
夕方の冷たい風の中、 菜月の歩幅は私に合わせてゆっくりだった
菜月
紬
菜月
紬
菜月はその答えを聞いて、 柔らかく笑った。
菜月
その“嬉しいよ”が本物なのか、 それとも“確認”なのか―― もうわからなかった。
胸の中でもやもやが膨らんでいく。
菜月の言葉は、 優しいのに、どこか重い。
手を伸ばしかけたら、 絡め取られてしまいそうな重さ。
◆ 夜、ベッドの中で
スマホには菜月からの 「今日はありがとう。また明日もよろしくね」 というメッセージ。
優しい。 いつも通り。 なのに心がざわつく。
紬
菜月と過ごす時間は好き。 でも、あの影の正体がわからないまま近づくのが怖い。
聞きたい。 でも聞けない。
その狭間で揺れていた。
このときの私はまだ知らなかった。 菜月が抱えていた“過去”の重さを。 私が、いつかそれをまるごと抱きしめることになるなんて。