カタヅケ屋霊異記【完結】

その時、久留間が担いで来たリュックサックがもそもそと動く。

不思議な動きは猫の目を惹く。

もしや中にネズミでもいるのではと、子猫が尻を激しく振り始めた時だった。

無理やりジッパー部分をこじ開けて、一冊の本が飛び出す。

思わず後ろに飛び上がり、そのままコロコロと転がる。

それを慌てて受け止めた依頼人が、驚いた表情で宙に制止するそれを見上げた。

空を浮遊しながら憤慨してみせるハードカバー本を、依頼人が驚愕の表情で見上げる。

恐る恐る、依頼人に抱き上げられた子猫霊が前足をポストに伸ばす。

柔らかな肉球がハードカバーに触れると、それは淡く光って本文を開いた。

そこに見る間に文字が羅列されていく。

こつんと小さな頭が、足下にすり寄る。

それを抱き上げ、依頼人が鼻先を合わせた。

元気に返った声は依頼人に聞こえない。

けれどその大きな口とゆらゆらと揺れる尻尾ですべてを察し、依頼人はふふと肩を揺らした。

帰りの車内。

わんわんと叫ぶポストに笑い、すっかり日の暮れた道で緩やかにアクセルを踏む。

週明け

依頼人からは無事に遺骨を家族に届け、涙ながらに感謝されたという報告があった。

さらにその二ヶ月後。

依頼人宅の庭先に住みついた野良猫が１匹の子猫を出産し、親子とも家族に迎えたという報告を受けることになるが――

さしものカタヅケ屋も、その未来は予見もしていなかった。