時々寄る本屋の雰囲気は最悪だった。
今日はとある小説家の新作発表だった。
それのせいで周りの広告は
新作広告でいっぱい。
小説も1番目立つところに
山積みされている。
突然だが僕はその小説家が嫌いだ。
嫌いというか、嫉妬というか。
それでも彼女の小説を手に取り
買い上げてしまうのは
どうしても彼女の小説に
引き込まれてしまうから。
彼女の小説は魅力的だった。
僕は昔から本が好きだ。
学校の図書室は常連。
小学校の図書室の本は
ほぼ全て読んだくらい。
いつか小説家になれればいいなと
夢を見たこともある。
小説サイトに書いた小説を投稿して
いつか誰かに
読まれればいいなと思いながら
趣味範囲で1人、
楽しんでいた。
ただ現実は甘くない。
1年経っても
一向に読まれない。
サイトを利用している人他のたちは
あんなにも閲覧数があり
読者がいる。
僕にはできる気配がなかった。
そんなこと分かりきっていた。
無名の自分が夢を見られるなんて
有り得る訳ないと。
きっと僕には才能がないのだと
呆気なく希望を
夢を、捨てた。
こんな事があったからこそ
彼女の事が羨ましいのだ。
比べてはいけないことくらい
分かっている。
彼女は若手作家として有名になった。
ただの若手作家ならよくある事だ。
彼女のデビューした年齢は
中学2年生という若さだった。
ただ若いだけではない。
当時中学生とは思えないと言われる程の
文章力、話の展開力を持っていた。
主に若い年齢を中心に
彼女の作品に惹かれている。
悔しいが、僕もその1人だ。
その名も
七瀬涙奈。
購入した本を早速読もうと
お気に入りの場所へと向かう。
そこは自宅でもなく
図書館でもない。
はたまた学校の教室でもない。
家の近くにある
公園の一角にある東屋だ。
ここは四季を感じることができる、
数少ない自然豊かな場所。
この場所が1番読書にぴったりで
好きだ。
ここに来る人は
年寄りか植物が好きな人くらい。
大騒ぎする高校生などは
滅多にくることはない。
だからこそ
静かで良い場所なのだ。
いわゆる穴場という場所。
今日も春風を楽しみながら
1人読書の時間を楽しむ。
物語の世界に入り込むのに
時間は要らない。
気づけば
夕日が傾く時間となった。
少しずつ日が落ちるのが
遅くなってきたとはいえ
時間が過ぎるのは早いものだ。
僕はきりの良いところで栞を挟み、
本を閉じる。
視線を鞄に移した時、
1冊の本の存在に気づく。
ベンチの端に
そっと置かれてある。
忘れ物だろうか。
そっとその本へ近づき
手に取る。
カバーがかかっており、
どんな本かは見れない。
表紙を見ると
題名と作者が
書かれてあった。
作者は
『七瀬涙奈』。
僕が今読んでいる人と同じだ。
作家名を見た後に
再び題名に目を移す。
僕は少し違和感を覚えた。
彼女の事が嫌いな僕だが
数少ない彼女の本は
全て読んだことがある。
だからこそ違和感に気づくのだ。
この本を僕は知らない。
ページをめくり読み進めても
知らない内容が書かれてある。
いつの間に出していたのだろうか。
読んだことのない彼女の小説に
僕は思わず読み進めてしまう。
1度進めた手は止まらない。
僕は夢中になっていた。
少し強めに声をかけられるまで
気づかなかった。
唯人
びっくりして
声が裏返ってしまう。
顔を上げると
そこには見覚えのある顔があった。
唯人
慌てて本を閉じ、返す。
少し気になる本だとはいえ
人のものを勝手に読むなんて
とんだ失礼なことをしてしまったのかと
少し反省をする。
そう言ってその場を立ち去ろうと
後ろを振り返った時
僕は思わず声をかけてしまった。
唯人
唯人
コメント
2件
情景がとても美しいですね🌸 ついついフォローしてしまいました。 続きが楽しみです😊