りょう
りょう
りょう
りょう
ジェル
気付けば4時間も歌っていて、もう外は真っ暗になっていた。
暖かかった部屋から外に出ると、思った以上に気温が低い。
まだコートを着るには早いと思っていたけれど、もう数週間もすれば冬になりそうだ。
友達
みんなは分かれるのが名残惜しそうだった。
遠井さん
友達
ころん
盛り上がってるところ悪いなと思いつつ口にした。
もう8時に近い。
用事があるわけでもないし、親に怒られる。なんてこともないけど、このままさとみ君といるのは神経がすり減ってしまいそうだ。
みんなは随分仲良くなっているので、僕一人抜けたところで大丈夫だろう。
さとみ君だって、僕がいない方が楽しめるに違いない。
友達
名前も知らないやつが馴れ馴れしく名前を呼んできて、笑顔が引きつってしまった。
さとみ
友達
文系コース組は残念そうな声を発する。
もうちょっとさとみ君と一緒に過ごしたいのだろう。
手っきりみんなと一緒に遊ぶと思っていたので、僕も驚いて顔をあげた。
ジェル
友達
だけど、ジェル君や、理系コースのみんなはあっさり手を振って送り出す。
さとみ君はいつも早く帰るのだろうか。
理系コースにつられて文系コースも名残惜しそうに僕とさとみ君に手を振っていた。
みんなと別れてとりあえず2人で駅に向かって歩き出したけど、このまま彼と一緒に帰らないといけないのだろうか。
僕たちの間に流れる、この微妙な空気に僕はいつまで耐えないといけないんだろう。
かといって、目的地が一緒だから途中で別れるわけにもいかない。
まさかさとみ君も同じタイミングで帰るなんて...。
なんで、みんなと一緒に行かなかったんだろう。
予想外だ。想定外だ!
彼もきっと、居心地が悪いのだろうと思うと隣を歩いていいのかわからず、とりあえず少し速度を落として一歩後ろをついていく。
さとみ
ころん
怪訝な顔をしている彼にしどろもどろになる。
呆れたような溜息をついて、何故か僕の歩く速度に合わせて再び隣に並んだ。
“駅まで一緒に行こう”という意味なんだろう。
僕のことを嫌ってるはずなのに、放っていくようなことはしないらしい。
好意を示してくれているわけじゃないのはもちろん分かってる。
でも、優しさを感じる。
それを素直に受け入れられないのは、後ろめたいことがあるからだ。
無言の僕たちの間をひゅうっと秋の冷たい風が通り過ぎた。
駅が近いような、遠いような。
不思議な感覚で、彼の隣を歩く。
さとみ
ころん
さとみ
声に反応して、ぱっと顔をあげると、さとみ君は前を向いたまま、ポツリと言葉を零した。
突然のことに、言葉の意味が分からず、ポカンとする。
さとみ君がポリポリと頭を固くかいて言葉を続けた。
さとみ
さとみ
さとみ
さとみ
ころん
好き、の言葉に何故か胸が疼いた。
さとみ
さとみ
少し落とした彼の視線から落ち込んだり、反省してるような雰囲気を受け取った。
意外過ぎるさとみ君の態度に、思わず足を止めてしまう。
さとみ
さとみ
さとみ
さとみ
そこで、さとみ君は顔をあげて、僕が立ち止まってることに気が付いたらしく振り向いた。
さとみ
また、初めてみる彼の新しい表情だ。
真正面から人を見据えるように見据える真剣な瞳。
今まで見た、可愛らしさや、抱いた怖さは微塵も感じなかった。
目をそらすことができず、「あ、うん」と、小さく返事をすることしかできなかった。
相手がこんなにも真っすぐに僕を見て話してくれてるのに、相変わらず、ちゃんとした言葉を紡ぐことができない。
けど、彼はふわりと笑ってくれた。
そして、「行くか。」とまた隣を並んで歩く。
さっきまで、居心地の悪かった彼の隣は、一気に優しくて暖かなものに変わった。
さとみ
ころん
明るい口調だったので、警戒することなく彼の言葉に返事ができた。
さとみ
さとみ
ストレートな言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
ころん
さとみ
それは確かにあるかもしれない。
でもこの場のみんなの笑顔が崩れちゃうかもしれない。
そう考えると、自分の意見が言えない。言いたくない。思っていた方がいい。
そりゃあ、さとみ君や莉犬みたいに、ズバズバ言えるのもいいなと思ってるけど。
さとみ
ころん
さっき、自己紹介したんですけど。
さとみ
さとみ
ころん
さとみ
何のやる気だろう?
真面目な顔で僕に言うさとみ君を見つめていると、堪らず「ふは」と噴き出してしまった。
合コンな最中は怒られてしまったのに、不思議だ。
今はすごく心配してくれている。
素直で、真っすぐで、きついところもあるけど、すごく優しい人かもしれない。
さとみ
ずっと笑い続けてる僕に、さとみ君は少し恥ずかしそうな顔をしてから肩をすくめて苦笑した。
さとみ
ころん
さとみ
言葉はすごくストレートなものばかりで、ちょくちょく胸を抉ってくるとは言え、嫌だったら、とか損をする。とか僕のことを思ってくれているのが良く分かる。
どうして、ほぼ初対面の僕を、こんなに気にかけてくれるのだろう。
合コンの時の罪滅ぼしだろうか。
それとも、僕が“莉犬の友達”だからか。
それでも、やっぱり悪い気はしない。
むしろ嬉しい。
さっきまではさとみ君と一緒にいるのが逃げ出したいくらい嫌だったのに、不思議だ。
2人で話しながら歩いていると、駅に着くのはあっという間だった。
さとみ
ころん
さとみ
改札をくぐって、ホームに降りる前の階段でお互いの帰る方向を指さした。
「じゃあ」とあいさつして踵を返すと「あ」とさとみ君が声を出した。
振り返ると「お前さ」と前置きして笑った。
僕に向けられる、初めての暖かな笑顔を見て、心臓にドンッと衝撃が走った。
さとみ
一歩僕に近づいて、ポンっと僕の頭の上に手をのせた。
大きな手が僕の青い髪をとかすようにふんわりと包み込むのがわかる。
じんわりとさとみ君の手の温かさが全身に伝わってくる。
さとみ
最後にもう一度、そう言って背を向けて階段を下りていく彼の背中。
それを見つめながら僕は、彼に触られた頭を触った。
莉犬のことを好きだと口にする。
僕に腹を立てたと思う。
だけど、謝って、心配してくれる。
そして__笑ってくれる。
思わず期待してしまいそうになる。
あの優しい笑顔も、“僕”だからなのかもしれない。なんて、思いそうになってしまう。
誰に対しても、さとみ君はきっとあんな感じなんだろう。
そう、誰に対しても。
きっとそうだ。変な期待はしちゃだめだ。
莉犬にだったら、もっともっと優しいのだろう。
心拍数がいつもより速い。抑え込むようにぐっと奥歯を噛んだ。
ぎゅっと目を瞑れば、瞼の裏にさとみ君の“僕”に向けられた笑顔が浮かぶ。
日が沈み、気温もぐっと下がり肌寒い。
なのに、体の芯がじんわりと温かく感じられた。
調子が狂う。やめてほしい。
これ以上、彼と接点を持たない方がいい。
ゆくゆくは嫌われる嘘つきなんだから。
………僕は。
りょう
りょう
りょう
コメント
17件
まってました!! ころくんのこと好きになるかな?
いや最高。ぶくしつでぇす(´˘`*)
ブクマ失礼します!!