父から今に至るまでの経緯を聞いた悟は、直ぐに診察を受けた。その後、様々な精密検査を行ったが、奇跡的に後遺症も残らず、意識的な動作や発声も可能であった。担当の医師も信じられないと一驚していた。
怪我といえば、腕や足の骨にヒビが入っていたようだが、それらはとっくに治癒しており、残すは打撲のみであった。 点滴や尿道カテーテルも抜かれ、一週間様子をみて何もなければ退院となった。
悟
一ヶ月と十五日のベッド生活から解放された悟は、体力を取り戻すべく病棟の廊下を歩いていた。歩いたのはたったの十分であるのに息があがり、額には汗が浮き出ている。悟は壁に背を預け、呼吸を整える。
父
母
「車椅子持ってこようか」とやたらと車椅子に乗せたがる両親に悟は「いい」と首を横に振る。病み上がりで心配してくれているのはわかるが、それではいつまで経っても体力が戻らない。
自分の身体よりも両親の方が心配だった。両親の憔悴しきった風貌は、悟が目覚めたことでこれ以上酷くなることはないだろうが、体調を崩していないかが気掛かりだ。
体力低下と打撲以外になんともないことは検査結果で証明されている。交代交代でつきっきりになっていたという両親に悟は「もう大丈夫だから」と諭し、勉強の遅れを取り戻すために勉強道具を持ってくるよう頼んだ。その日の黄昏時、母が勉強道具や携帯電話の充電器、コンビニで買ってきたゼリーを持ってきた。その間、父は悟につきっきりだった。
悟は毎日、両親へ連絡すると約束をした。そして、一刻も早く体調を整えて元の日常へ戻ってほしいという悟の願いをしぶしぶ聞き届けた両親は、次回は退院の日に来ることを約束した。