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好き好き好き好き好き好き無一郎のかお浮かんでくる笑
任務が忙しくなってくる。もう鬼殺隊となってから数え切れないほどの鬼を斬ってきた。
しかし奈那の任務が終わり、屋敷に着いても蜜璃はまだいない。当然だが柱の任務は困難なのだろう。
ふと刀を見る。まだ刃こぼれもなく綺麗な桃色の刀身だ。
恋の呼吸も蜜璃と比べてしまっては隙も多く威力も弱いが、過去の自分と比べればかなり上達している。
奈那の刀は特殊な形ではなく、大体の隊士と同じ普通のものであるため手入れが比較的簡単だ。
奈那にはあのしなる長い刀は扱えない。
少し借りたこともあるが、足に軽い切り傷をつけただけだった。
あれは蜜璃だけが扱える専用の武器だ。
そんなことを思いながら刀を眺めていると、勢いよく襖の開く音。蜜璃が任務から帰ってきたのだろう。
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
任務の後でこんなに元気があるなんて、師範は本当に凄い。そう思う。奈那はいつも疲れてすぐに寝てしまう。
奈那
その日はお互いお気に入りの食事処や小物屋について話し合い眠りについた。
柱の非番は貴重だ。それなのに、蜜璃はその貴重な休日を自分に使ってくれている。
その事実がどうしようもなく嬉しかった。
蜜璃はかなり綺麗な容姿をしている。その隣を歩くのだから、自分も最大限美しい格好で行こうと奈那は朝から浴衣や化粧に心を込めていた。
しかし普段髪をお洒落な形にすることがない奈那は、髪を結うことが難しい。蜜璃に頼みに行くことにする。
奈那
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
奈那
奈那
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
蜜璃の手つきは慣れていて、とても優しい。
あっという間に綺麗な三つ編みが出来上がっていった。
甘露寺蜜璃
花が咲くような笑顔で奈那に手鏡を渡す蜜璃。
奈那
奈那
甘露寺蜜璃
道中、咲き誇る花や実は食べられる植物を見ながら談笑していた。
街に着いて、奈那は桜餅を頬張りながら同じく桜餅を十倍は食べている蜜璃を眺める。
小物を売っているお店に入り、悩んでいる蜜璃に硝子細工で出来た白黒で縞模様の猫を見せる。
蜜璃と過ごす休日は穏やかで素敵だ。幸せを噛み締める。
すると突然、蜜璃が
甘露寺蜜璃
と大きな声をあげる。
それに驚いて奈那は視線の先を追う。
すると美しく伸びた長い黒髪。
先に向かうにつれて青く染まっている、美しい少年の姿。
奈那
ほんの二日前、蝶屋敷で奈那を心配した彼──無一郎の姿。
こんなにもすぐに再会できるとは思ってもいなかった。 もっとも、"奈那にとっては再会"であるだけなのだが。
甘露寺蜜璃
大きく手を振って嬉しそうに話しかける蜜璃。
無一郎は振り返るものの、感情の読めない表情でぼーっとこちらを見つめているだけ。
甘露寺蜜璃
やはり忘れてしまっている。蜜璃はそれが前提であったかのように自己紹介をした。
一方奈那はもしかしたら覚えていてくれたかも、という淡い期待を持っていた。
当然打ち砕かれたが。
初めましてと軽く会釈、自己紹介した後一言も喋らず下を向いて赤面する奈那。
蜜璃は奈那を心配する。当然だ。想い人に忘れられてしまうことは辛いだろうと、気の毒に思う。
蜜璃は口を開く。
甘露寺蜜璃
時透無一郎
甘露寺蜜璃
天丼を食べながら話す
無一郎は過去になにか大切な事が起きた気がしてここに来たと言う。
彼は蜜璃と奈那を見て記憶にかかる霞がほんの少し晴れることに期待して、この蜜璃の誘いに乗ったのだ。
時透無一郎
と譫言のように呟く無一郎。
奈那は少しでも霞の奥に自分がいることを酷く愛おしく思った。
切に願う。思い出してほしいと。私にあんなにも優しくしてくれた本来の彼を。
きっと泣く私を慰めた時のあれこそが彼本来の性格なのだろう。
話は意外にも弾んだ。蜜璃は話上手だ。
無一郎と奈那を会話から外さず、そして互いで話せるように気を配った。
無一郎は無愛想な相槌が多かったが、不快感を感じているわけではないようだ。
少なくとも、そういった態度を前面に出すことはなかった。
また、無一郎は三人分の支払いをした。
趣味も紙飛行機であり、食事にもさほど拘らない無一郎は本当にお金の使いどころがないと言う。
そしてまたもや謝り倒す蜜璃と奈那に向かって前回と同じ言葉を繰り返した。
時透無一郎
二度言うのであれば間違いなく本心なのだろう。
ただ違うのは、前回よりも少し柔らかい表情であること。
奈那は一度目よりも幸せな気持ちになる。
本心だと確信したことも大きな要因の一つだが、ただただ恋心が以前よりも大きくなっていた。
店を出た直後。
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
蜜璃が唐突に告げる。
無一郎君、奈那ちゃんありがとう。ふたりで仲良くね、とこちらに微笑む。
贈り物を探していることは真実だが、彼女なりの気遣いであることは明白だ。
蜜璃との約束だったはずの予定を妹の恋心を優先して、譲った。
大きな申し訳なさと感謝を込めてお辞儀をする。
…しかし、話上手の蜜璃がいなくなってはあの無一郎と話が続くわけもなく、無言だ。
話しかけようにも話題などどこにもない。あったとしても話せない。
綺麗な浅葱色の目を見ることが出来ない。
時透無一郎
奈那
突然話し掛けられる。
時透無一郎
耳を疑う。私は夢を、見ているのでしょうか。師範。
そうであれば……なんて、幸せな夢なのでしょうか。覚めないで、お願い、覚めないで。
奈那
時透無一郎
他の柱のことは名前に様をつけて呼べるのに。無一郎のことだけはずっと霞柱様と呼んでいた。
理由は単純に恥ずかしいから。
恋慕している無一郎のことを名前で呼ぶなんて、出来るわけがない。
奈那
時透無一郎
無一郎の一人称がぶれる。明らかに機嫌が悪い。
真逆の勘違いをされては困る奈那には、名前で呼ぶ選択肢しか残されていないと悟る。