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➰ ✿ nrkr
32
りおん
5,264
みかんのかんずめ
246
研究区域。
朝から、いるまは机に向かっていた。
目の前には、何枚もの資料が並んでいる。
薬品名。
投与量。
被験者の身体データ。
昨日までなら、自分には関係のないものだった。
けれど、今は違う。
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すちは一枚の書類を指差す。
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その「大丈夫」という言葉が、すちには少しだけ痛かった。
二人は研究室の奥に向かう。
ガラス越しに、別の部屋が見える。
そこには、一人の子供がいた。
ベッドに座っている。
腕には管が、繋がれていた。
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足が止まる。
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機械が動き出す。
ピッ。
ピッ。
一定だった音が、少しづつ速くなる。
被験者
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研究員
被験者
いるまの指が止まった。
被験者
その声。
聞き覚えがあった。
自分も何度も言った。
苦しい。
怖い。
やめて。
それでも誰も止めてくれなかった。
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研究員
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タブレットを受け取る。
画面に数値が表示される。
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研究員
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指を動かす。
けれど、ガラスの向こうから、目が離せない。
被験者
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手が震えた。
研究員
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本心を隠した。
被験者
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ガタンッ。
椅子が後ろへ倒れる。
いるまが立ち上がった。
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ひどく冷たい声だった。
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すちは答えられなかった。
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声が震える。
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すちは目を伏せる。
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すちはしばらく黙った。
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いるまはもう一度、ガラスの向こうを見る。
被験者は苦しそうに、目を閉じている。
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すちは何も言わなかった。
その日の午後。
いるまは再び記録をしていた。
被験者の心拍数。
体温。
薬への反応。
最初は震えていた手も、少しずつ動かせるようになっていた。
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カタカタ。
記録する。
研究員
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また記録する。
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すちは隣で見ていた。
いるまは、ちゃんと記録できている。
けれど。
その目は、まだ苦しそうだった。
研究員
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研究員
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いるまは答えなかった。
その言葉が、嬉しいものではないとわかっていたから。
夕方。
患者区域では、こさめとなつが窓の外を眺めていた。
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こさめは小さく頷く。
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その頃。
研究区域。
いるまは白衣の袖を握っていた。
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すちは、いるまの頭に手を置く。
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二人が研究室を出る。
誰もいなくなった机の上には、いるまが書いた記録が残っていた。
そこには、綺麗に並んだ数字。
その一番下。
『観察能力___良好』
そして、
『研究者見習いとして継続』
その文字の隣に、すちが小さく書き足す。
『精神的負担____要観察』
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すちはその記録を見つめる。
自分が昔、同じ場所で感じていたものと同じだった。
慣れたくない。
でも、慣れてしまう。
それが、この場所の一番怖いところだった。
コメント
1件
読んだよ…っ、この話、めっちゃ重くて苦しいけど、すごく引き込まれた😭💦 いるまが「絶対慣れない」って言うけど、もう手が震えなくなってるところ、めっちゃ辛い…。 すちの「慣れたくなかったよ」って過去形なのが、もう切なすぎる😢 最後の“要観察”って書き足しに、すちの優しさとリアルさが詰まってた…。