鈴木と石田の二人は飲み屋を出ると、そのまま石田が住むマンションへ向かった。
マンションに着くと、石田が千鳥足で階段を上ろうとした。
鈴木則行
石田信昭
石田は声を張り上げるなり、覚束無い足取りで階段を上り始めた。
転げ落ちないよう鈴木は背中を支えてやった。
三階に着き、石田の部屋へお邪魔しようとしたときだった。
ふと視線を感じて見回すと、右隣の少し開いた扉から誰かがこちらを覗いていた。
七十代前後の老婦人らしいと、鈴木は瞬時に判断した。
鈴木則行
鈴木が苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうに詫びたが、
老婦人は慌てて目を逸らすとピシャッとドアを閉めてしまった。
部屋に入ると、石田は台所で水を1杯、2杯と飲んでいるところだった。
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
二人は高校時代からの友達だった。
突然、石田に誘われ飲みに行くことになったのだが、
鈴木はどちらかというと下戸だった。
反対に石田は無類の酒好きで、ジュースを飲む鈴木の目の前で、
がぶがぶとアルコールを摂っては一人で大笑いする始末だった。
店に迷惑をかける前に解散しようと提案したのだが、
途端に石田は、ご機嫌な口調でオレのマンションに来いと鈴木を引き留めた。
道端で酔った弾みにケガをする心配もあったので、
鈴木は渋々ながらも石田を送り届ける形でマンションまで付き添った。
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木は笑ってからOKサインをし、部屋を出た。
階段を降りようとすると、再び視線を感じた。
案の定、またしても隣の老婦人がひょこっと顔を出し、鈴木を見ていた。
確か、片桐という名前だったはずだ。
鈴木はもう一度会釈したが、老婦人の片桐はさっきと同じく慌てて目を逸らせ、
大きな音を立ててドアを閉めてしまった。
鈴木則行
鈴木はモヤモヤな気分になったが、すぐ気を取り直し階段を下りて行った。
翌朝、鈴木の携帯に石田から電話があった。
鈴木が昨夜の居酒屋で立て替えてくれた代金を払いたいというのだ。
正午に近くの喫茶店で待ち合わせをすることになった。
代金を受け取ってから、鈴木は口を開いた。
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
鈴木が笑うと、石田は急に声を潜め、
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
すると、真顔の石田に反して鈴木はクスクス笑っていた。
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
数日後の夜、会社帰りの鈴木が自宅で休んでいると、ドアホンが鳴った。
こんな時間に誰だろう、とモニターを見た鈴木は驚いた。
以前、石田のマンションで会った片桐という老婦人だった。
鈴木はかすかな警戒心を抱きながら応答した。
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐は終始恐縮そうな態度を崩さなかった。
冷たい秋風が吹く表に留めておいては気の毒なので、
鈴木は小柄だが恰幅の良い老婦人を招じ入れた。
温かいお茶を出すと、片桐は重々しそうに頭を下げた。
鈴木則行
片桐安江
鈴木則行
鈴木則行
鈴木は、以前のことで片桐が訪問したと思い込んでいた。
だから真っ先に謝るべきだと判断して詫びの言葉をかけたのだが、
当の片桐は「気にしていませんから」と慌てて厚い手を振った。
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
鈴木には、老婦人の片桐がなにをいいたいのか理解できなかった。
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐安江
と、片桐は初めて吐き捨てるようにいった。
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
片桐安江
この話と服が一体どんな関係があるのか、と疑問に思いつつも、
鈴木則行
鈴木則行
片桐安江
鈴木則行
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
鈴木はなんとなく嫌な気分になった。
特に気に入っているわけではないのだが、普段着の一つが、
まさか恋人殺しの犯人の犯行当時と同じ服だったとは…。
しかも、片桐は驚きの内容を鈴木に聞かせた。
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
片桐が頷く。
片桐安江
片桐安江
片桐安江
鈴木則行
鈴木則行
と、鈴木は笑い話で終わらそうと図ったのだが、片桐は相変わらず硬い表情だ。
片桐安江
片桐安江
片桐安江
片桐は今回で三度目になる、重々しい頭を下げた。
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
鈴木は渋い顔をする石田を見、そしてエレベーターを見た。
片桐との話し合いで鈴木が真っ先に考え付いたのが、
あえて幽霊を刺激するような行動を起こすことで、
霊がこの世に存在し得ないという結論を導き出すことだった。
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
鈴木は断固として譲らなかった。
片桐から知り合いの話を聞かされたときも、鈴木は黙って聞いていたが、
内心では信じていなかった。
その知り合いが噂話に便乗してでっち上げた可能性もあり得たからだ。
鈴木則行
検証方法はごく単純なものだった。
足立順子を殺した男が事件当時着衣していたのと同じ赤白のチェック柄を着、
自然体のままエレベーターを利用する。
深夜零時過ぎ、鈴木がエレベーターのボタンを押した。
長い年月、眠っていたのを呼び起こされたかのように、
防犯窓の付いた扉越しから唸るような音が響いた。
やがて、箱が到着し扉が開くと、二人は乗り込んだ。
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
恐怖心を追い払うかのように、石田が苦笑しながらいった。
鈴木が最上階のボタンを押すと、扉が閉まりエレベーターは動き出した。
最上階に着き、扉が開く。
念のため、外を見回してから扉を閉める。
石田の部屋がある三階を押すと、再び不気味な音を立てて箱が下降する。
石田信昭
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
真っ向からオカルトを否定する鈴木らしい意見だった。
エレベーターが三階に到着し、鈴木は外を見回してから出た。
石田は少し躊躇ってから、ひょいと箱から飛び出した。
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
鈴木則行
石田信昭
鈴木則行
エレベーターの扉が閉まったとき、鈴木の着ている服の袖を挟んでしまったのだ。
鈴木がドアを開けようとボタンに手を伸ばしたときだった。
石田信昭
鈴木はドキッとして石田を振り返った。
石田は大きく見開いた目を、エレベーターに向けていた。
鈴木も釣られて見、思わず声を上げそうになった。
青白い顔の髪の長い女が目を大きく見開きながら恨めしそうな顔で、
エレベーターの中から防犯窓越しに鈴木たちを凝視していた。
2020.10.03 作
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