桃は、以前より静かになった。
感情を閉じ込めていた頃とは違う。
今は、出し方が分からないだけだった。
橙
さとちゃん
控室で、橙が呼ぶ。
橙
これ、見て
スマホを差し出すと、 桃は自然に距離を詰めて覗き込む。
近い。
前より、明らかに。
橙は一瞬だけ驚いたけど、 何も言わなかった。
最近の桃は、よく橙の隣にいる
理由はない。 必要以上に触れない。 でも、離れない。
橙
さとちゃん、今日ずっと一緒やな
冗談みたいに言うと、 桃は少し困った顔をした。
桃
…嫌?
橙
嫌ちゃうけど
橙は、桃の表情をじっと見る。
橙
なんか、不安そう
その一言で、 桃の喉が詰まる。
桃
…離れるのが、怖い
正直すぎる言葉。
桃
前さ
桃は、視線を落としたまま話す。
桃
我慢しすぎて、壊れかけたから
桃
今は
桃
ジェルがいない時間が、怖い
橙
…それ、依存ちゃう?
あえて、軽く言う。
桃
たぶん、そう
即答。
桃
でも
顔を上げる
桃
自覚してる
橙は、少しだけ笑った。
橙
さとちゃん
橙は、桃の手首を軽く掴む。
橙
俺な
橙
離れたいって思ってないで
桃の目が揺れる。
橙
でもな
橙
全部、俺に預けすぎるのはあかん
優しい声
橙
一緒に立つのはええけど
橙
一人で立てんくなるのは、違う
桃は、ゆっくり頷いた。
桃
…分かってる
夜、スタジオ。
人がいなくなった後、 桃はそっと橙の袖を掴んだ。
桃
…今日は
桃
もう少し、近くにいていい?
小さな声。
橙は、一瞬だけ黙ってから言う。
橙
今日だけやで
その言葉に、 桃の肩の力が抜けた。
二人は並んで座る。 肩が、触れる。
それだけで、呼吸が楽になる。
橙
さとちゃん
橙が低い声で言う。
橙
俺がおらんくなったら、どうする?
桃は、少し考えてから答えた。
桃
……ちゃんと立つ
橙
それなら、ええ
桃は、橙の肩に額を軽く預ける。
桃
ありがとう
橙
なにが?
桃
…一緒にいてくれて
橙は桃の頭をぽん、と叩いた。
橙
当たり前や
桃は小さく笑った。
依存しかけている自分を拒まれず、 でも見失わせない距離。
それが、今の二人にとっての正解だった。







