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あの日の放課後から、彩空の様子が少しおかしい。
いつもなら他愛ない話をして笑っていたのに、最近は“考えごとをしている時間”が多くなった。
俺が声をかけても、どこか上の空で返事をする。
──まるで、何かに取り憑かれてるみたいに。
その夜、俺はベッドに横になりながらスマホを握っていた。
時計の針は午前二時を回っていた。
明日のテスト範囲を確認するつもりが、気づけば彩空のSNSを眺めていた。
最後の投稿は三日前。
そこには、満開の桜と「きれいだね」という一言だけ。
“きれいだね”
──その言葉の裏に、何かが潜んでいる気がしてならなかった。
そのときだった。
スマホが震えた。
画面には「彩空」の名前。
胸の鼓動が一気に跳ねる。
深夜二時。どう考えてもおかしい。
永瀬彪斗
耳を当てると、しばらく無音。
そのあと、微かな息づかいが聞こえた。
夏川彩空
小さく笑う声。だけど、どこか壊れた笑い声だった。
永瀬彪斗
夏川彩空
息が止まった。
何を言ってるんだ、こいつは。
笑いながら言ったその一言が、耳の奥で何度も反響する。
夏川彩空
夏川彩空
スマホを持つ手が震えた。
頭の中が真っ白になる。
でも、気づいたら口が勝手に動いていた。
永瀬彪斗
その瞬間、受話器の向こうで“カチリ”と何かが外れる音がした。
夏川彩空
プツッ。
通話が切れた。
暗闇の中、俺の手のひらには汗が滲んでいた。
ただの夢であってほしかった。
でも次の日、教室で彩空の机に貼られた一枚のメモを見た瞬間、──それが現実だと悟った。
そこには、血のような赤インクでこう書かれていた。
「約束、覚えてるよ」