小瓶の中の 雨 は音を立てなかった
ののはカウンターに小瓶を置き何度も角度を変えて覗き込む
透明な粒が光を受けて "虹"色に瞬く
けれどどうしても雨には見えない
音ノ乃
そう訪ねても青年は曖昧に笑うだけ
青年
意味のわからない言葉を残して彼は珈琲を1口飲み 「また雨の日に」と言って帰った
ドアベルの音が消えたあとも店内には妙な静けさが残った
まるで空気のどこかに晴れが紛れ込んでいるみたいに
甘狼
背後からこのみが話しかけてきた
このみはいつもと違い少し真剣な表情をしていた
甘狼
甘狼
音ノ乃
甘狼
その言葉の意味を考えるより先に早く口を開いていた
音ノ乃
このみはしばらく黙った
それからゆっくり微笑んだ
甘狼
夜になっても雨は降らなかった
店のピアノではリズが静かに鍵盤を撫でている
音は出ない
雨がない夜にピアノは眠るらしい
ツクリが帳簿に新しいページ開いて呟いた
眠雲
眠雲
音ノ乃
声を震わせながら聞く
眠雲
ツクリはそういい小瓶を指さした
眠雲
深夜みんなが寝たあとののは店のドアの前に立っていた
外には星が輝いている
初めて見る 晴れ の空
扉に手をかけた瞬間どこかでリズのピアノの音が1つだけ鳴った
まるで誰かが行っておいでと言ったみたいに
小瓶をポケットの中に入れそっと外へ踏み出した
その瞬間世界の色が1つ溶けた
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