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外の空気は思ってたよりも冷たくなかった
ののはゆっくりと路地を歩く
足元には水溜まりはひとつも無い
それでも世界は静かに濡れているように見えた
街の建物は全て透明だった
まるでガラスでできているみたいに透き通っていて
遠くの灯りが壁の向こうをすり抜けていく
音ノ乃
小瓶を取りだし光にかざした
中の 晴れの日の雨 が微かに揺れた
その時どこからか足音がした
???
その声の主を見た瞬間ののは息を飲んだ
そこに立っていたのは
自分だった
髪の色も
瞳の形も
声の響きも
全て同じ
けれど表情だけが違った
晴れた日の光みたいに
暖かく
眩しい笑顔をしていた
音ノ乃
もう1人の音ノ乃
もう1人のののは優しく微笑んで小瓶に触れた
もう1人の音ノ乃
音ノ乃
ののの問いに 晴れのの は少し寂しそうに目を伏せた
もう1人の音ノ乃
もう1人の音ノ乃
もう1人の音ノ乃
もう1人の音ノ乃
ののの胸の奥でなにかが震えた
このみの言葉─
甘狼
これはきっとこういう意味だったのだ
ガラスの街がひとすじ割れた
光が降り注ぐ
晴れのの がその光の中に溶けていく
もう1人の音ノ乃
もう1人の音ノ乃
ののは涙を拭い
胸の前で小瓶を開いた
するの中の光がほどけ
空に散った
次の瞬間 ぽつ、ぽつ
と透明な雫が落ち始める
世界に久しぶりの雨が降った
ののは店に戻った
ドアベルが鳴るとみんなが顔を上げた
このみが微笑んで言う
甘狼
甘狼
ののは小さく頷いて小さく息を吐いた
音ノ乃
リズが静かにピアノを引き始める
その旋律に重なるように雨音が店を包み込む
温かくて
優しくて
そして───
どこか懐かしい