2機は、その黒い球へ向けて言った。
この中には、逢魔トキがいる。
何が目的で、このような奇行に至ったのかは不明だが、
西空ともりを殺し終えた今、
それはどうでも良い事だった。
彼に何かができるとは思えない。
あとは、彼の謎を突き止め、確実に自殺させるだけだ。
それを囲うように、宙にスマートフォンが現れる。
幾つものそれらは、3色の光を放ち、互いに弾け合う。
光の線が半球を成した。
直後、その内を満たすように、光が生まれた。
強い光だ。
その液晶に亀裂が走った。
宙にあるスマートフォン。
突如、それが砕けていく。
2機のいる方面、そのとある1点から波が来たように、
次々とドミノ倒しに砕けてく。
その度に、壊れたそれが爆発し、煙幕が彼を覆った。
彼の姿は当然、見えない。
しかし、2機と夕焼けは確かに感じていた。
この向こうにある、異質な気配を。
煙が流れ、彼の姿が、2機の瞳に映った。
半分。そう、彼の"片方"だけを見ていれば、ただの人間なのだ。
しかし、全体で見た時、それは何と呼べばいいのか。
右半身に、確かな異常が起こっていた。
深紅の瞳。黒く湿った肌。
袖から出ている腕はこれまた黒く、彼のものより、いくぶんか大きい。
胴体から右脚、そして首にも巻かれているそれは、足だろうか。
吸盤が見えるから、そうなのだろう。
逢魔トキでも、分離蛸でもない。
その中間ともまた違った。完全な別物。
2人の融合にて生まれた、
限りなく主人格と近く、同時に懸け離れてもいる存在。
ここでは、俗称として『蛸人間』と呼ばせていただく。
蛸人間が見たのは、灰だった。
彼には、それが生前何であったのか、わかったらしい。
顔を落として、そのまま2機へ歩む。
中継機が言う。
しかし、蛸人間の身体に穴は開かない。
狼狽える中継機、
その横の発信機は、かかさず仕掛ける。
蛸人間の周囲、宙に幾つものスマートフォンが現れた。
刹那、その全てが破壊された。
蛸人間の背中から伸びた5本の足。
それが鞭のように揺らぎ、これを成したのだ。
2機と蛸人間の攻撃射程。
それが、残り5メートルとなった。
すると、蛸人間は2機を威圧するように、攻撃を開始する。
次々に、抉れていく地面。
空の切られる音が、ただ響く。
その時、発信機のつま先が切れた。
確かに、そこには何もないように見える。
だが、そこにある事になっていた。
なぜなら、血が散ったのだ。確かにいるのだ。
これまで干渉できなかった。
今の我々の視点では見ることさえできない、超次元的なその存在。
蛸人間は、その域に達していた。
2機が迷う内にも、攻撃は迫ってきている。
もう、時間がない。
蛸人間を覆うは闇。
ここには、光が無いのではない、
ただ闇があるのである。
痛覚なく、夕焼けの焔がその身を焼いていた。
否、
ここでわからないのは、光と痛み。この二つだけではなかった。
五感全てが、外界と絶たれている。
この空間では、何もわからない。
情報が一つとて無い。
闇が開けた。
蛸人間は、すぐに動こうとする。
しかし、できない。
その脚は、白の宝石に捕まれていた。
もう、それは膝上まで上がってきている。
空気の凍てる音がする度に、だんだんと上がってくる。
蛸人間の感覚が無いうちに、彼の動きは封じられた。
夕日が、これ以上無いほど強く、煌めく。
西空ともりを突いたのと同じ、あの槍が彼を襲う。
それも、一つや二つではない。
最低でも百、いや二百。
豪雨の如く。
それほどの量が、彼を殺すためだけに使われた。
蛸人間は当然、蛸の足を用いて防ごうとする。
しかし、そう動こうとした時には既に、
その部位は凍らされていた。
足元の凍結はブラフ。本命はそれだった。
降り注いだそれが、蛸人間の身体へ向かっていく。
刺さる、刺さる、刺さる……。
数え切れないほど、僅かな感覚で次に次にと。
槍が重なっていく。
最後の一つが決まった時、
焔が龍の形を成した。
これを喰らって、生きられる人間などいない。
そう……人間など。
いない。
「これが、彼女を殺したのだな」
殺意、迸る。
槍は全て、灰と化した。
彼が怒った。
この現象に対する説明など、それ一つで十分であった。
一閃。
彼の足の一本が揺らいだかと思うと、
次の瞬間には、発信機の胴体が分かれていた。
見えなかった身体の縁が、赤い血で明かされる。
随分と、生意気。だねぇ。
まあ、実際
半分不死身となった君は、
なかなかに、厄介だよ。
で
何のために、私を呼んだ。
守れなかった。
そうだね?
信じる?
何を言っている。
死んだぞ。
人間でなくなり、気をおかしくしたか?
……なんの話だ。
そうだとして。
…………
今の貴様は、何のために生きている。
…………
面白い。
貴様一人で、我らを。
この世界を抑えると。
できるならば、やってみろ。
どうせ、何も変わらぬ。
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