守護霊

目を赤く腫らした母がたしなめるが 私は泣き続ける

おじいちゃんは寂しそうに笑って そう言った

その笑顔がすごく悲しく見えて ますます私の胸は締め付けられる

病室に泣き声が響く

バタバタと私は階段をのぼる

お母さんの嘘つき！ 大っ嫌い！大っ嫌いっ…！

そして大きな音を立ててドアを開けて 部屋に飛び込む

お母さんが入ってこないように ドアの鍵を閉めた

ベッドに飛び込んで 頭まで布団をかぶる

そうして目と耳を塞いでいると

眠気が押し寄せてきた

ここ…どこ？

気づくと私は森の中にいた

心細くて私はぐすぐすと泣き始める

一人は…嫌だよ…

ガサガサッ

黒い人影が草むらから現れた

敵意はないのかあまり近づいてこない

人影は質問に答えることはなく ただ霧の中にいるように ぼんやりとゆらゆら揺れている

夢の中…？

なんだか…変な夢

人影に近づこうとすると

人影は霧が晴れるようにパッと消えた

体は起きているはずなのに 頭はまだ夢の中のように ぼーーっとする

おじいちゃんは優しく微笑んで

なんだか少しだけ顔色が 良くなっている気がする

私はその言葉に顔をほころばせる

学校であったことや楽しかったことを おじいちゃんに話すと おじいちゃんは笑顔でうなずきながら 聞いてくれる

パタパタと音を立てて母が病室に 入ってくる

はぁーーーっと 母は重いため息をついた

そして私の手を引く

母に手を引かれながら 病室から出ていく私を おじいちゃんは笑顔で見つめていた

帰ってくると父が待っていた

私は父の言っていることが 理解できずポカンとする

我慢していた涙がまた目に たまってきた

視界がぼんやりと ぼやける

周りの人の優しさに触れ 堪えていた涙がこぼれる

料理を終えて皿を運んでいた母が 驚いて目を白黒させる

私に話す前に母に話していたのか すんなりと母は状況を理解した

昨日はなんだか怖かったけど

おじいちゃんなら全然怖くない

だっておじいちゃんは いつでも優しいもの

だんだんとまぶたが重くなって

ゆっくりと夢の中に沈んでいった

あの人影を探してキョロキョロと 辺りを見渡す

すると木々の間からするりと 昨日の人影は出てきた

顔を覗き込むと おじいちゃんの顔だった

やっぱり！

すると意識が浮上していく 感覚に襲われた

ああ…もう…起きちゃうんだ…

キラキラの笑顔でそう言うと 母も嬉しそうに微笑んだ

あれ…？

突然ぐらりと体が傾き

私は…意識を失った

でもどうやって起きればいいんだろ…

サクサクと地面を歩く音が聞こえる

振り返るとおじいちゃんが立っている

心なしか昨日よりもハッキリと見える

おじいちゃんは焦点が定まらない瞳で 私を見つめる

いつもと違って 自分の話を聞かないおじいちゃんに 違和感を覚える

ブツブツ言いながら私に近づいてくる おじいちゃんに

怖くなり後ずさると

ザッザッザッ…

おじいちゃんは私にスレスレまで 近づいてきた

私は耳を疑った

大好きなおじいちゃんは私に

あろうことか 「わしの代わりに死んでくれ」 と言った

今まで夢の中でニコリともしなかった おじいちゃんは

ニタニタと気持ち悪い 笑い方をしながら

私の肩をものすごい力でつかむ

地面がグニャグニャ歪んで

沼みたいに体がゆっくり沈んでいく

一生懸命もがくが

やがて頭まで沈んで

とぷん

と私は飲み込まれた

泣きはらした後のように 母の目は真っ赤に腫れていた