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悟今日は俺の人生が決まる、 最悪な日。
名家として成り上がった俺の家系は、 新たな事業拡大のため、 政略結婚という手段を持ち出した。
それが、 よりによって俺なのである。
はっきり言って、 絶対に嫌だ。
なぜなら、 俺には想いを寄せる人がいたからだ。
しかし、 それはもう叶わない。
政略結婚うんぬん関係なく、 二年前にその人は、 不慮の事故でこの世を去ったのだ。
だからと言って、 政略結婚に応じるなど言語道断!
誰か、 どうにかならないものか。
目の前にいるこいつもまた、 名家の生まれ。
美梨愛
慎悟
美梨愛
自分で『美しい』なんて言う女、 痛すぎるだろ。
慎悟
美梨愛
間違いなく奴隷になる未来が見える。
慎悟
美梨愛
名前すら呼んでもらえない。
それどころか、 こいつの名前を呼ぶことも許されないとは。
美梨愛の一方的な会話を聞き流し、 縁談は終了。
そもそもこんなのはお飾りで、 俺たちが結婚することは決定されている。
慎悟
俺は一人、 部屋で叫んだ。
そして、 冷たい布団に潜り込む。
あの人が生きていたら、 俺は今頃、 幸せな結婚を掴んでいたかもしれないのに。
目が覚めた。
いつの間にか眠りについていたようだ。
季節は冬、 のはずだが、 なぜか着ているのは夏服。
寝る前は確か、 もこもことした分厚いローブを、 着ていた記憶がある。
慎悟
室内を照りつける日差し、 まるで、 いつかの夏の日を追体験しているような。
このだるい感覚を、 俺は知っている。
慎悟
近くに放り投げられていたスマホに目をやる。
電源ボタンを押し、 表示された日時を見た俺は目を疑った。
慎悟
まず季節が変わっていることに驚き、 その後、 ホーム画面に表示されているカレンダーの年が、 二年前に遡っていることに気が付いた。
慎悟
俺は状況を整理するため、 居間にいるであろう母さんのもとへ駆けつけた。
母
母さんは俺を、 不思議そうな目で見つめている。
慎悟
母
政略結婚をするはずだった俺は、 二歳若返ったというのか。
慎悟
母さんは俺の言葉に目を見開いた。
母
嘘をついている様子もない。
これはもしかして、 そういうことなのか?
慎悟
母
本当に過去に戻っているなら俺は今、 高校二年生ということになる。
まだあの人が生きている、 青春真っ只中の夏。
慎悟
俺の強い思いがそうさせたのか、 理由なんてどうでもよかった。
これはチャンスだ。
神は俺に言っている、 あの人を死から救い出せと。
慎悟
学校に着いて、 中庭の花壇にいる想い人に声を掛ける。
園実
カラフルな花々にジョウロで水をあげるその姿は、 まるで舞い降りた天使のよう。
長い髪を耳にかけ、 俺の声に反応する。
慎悟
彼女は俺より一つ年上の先輩だ。
入学してすぐ、 花壇の手入れをしていた彼女に、 俺は一目惚れした。
園実
俺は高校生活の全てを、 彼女との関係発展に費やしていた。
しかし、 このままいけば、 彼女はまた、 不慮の事故で亡くなってしまう。
彼女を救うためには、 どうしたらいいのか。
放課後、 彼女を中庭に呼び出し、 話を持ちかける。
慎悟
園実
きょろきょろと周りを気にする彼女は、 少し緊張しているようだ。
慎悟
園実
彼女は甲高いうわずった声を出し、 口に手を当てる。
俺たちの間に、 気まずい空気が流れていく。
慎悟
園実
俺はそっと胸を撫でおろした。
彼女の家は、 俺の家までの道中にある。
彼女が家に着くまで一緒にいれば、 何かあっても防げるかもしれない。
楽しい話の後、 彼女は少し不安そうに口を開いた。
園実
俺は未来を知っている。
だからこれが、 彼女の杞憂だと思えなかった。
慎悟
そこから毎日、 彼女と一緒に帰るたび、 俺は辺りを注意深く観察する。
そして鋭い視線を、 どこからか感じるようになった。
一体誰が何のために、 彼女を狙っているのだろう。
慎悟
園実
不安そうな彼女は、 横を歩きながら、 俺の服の裾を掴んでいる。
俺たちは角を曲がり、 さっと身を隠す。
黒服の誰かがこちらに近づいてくる。
俺は背中に彼女を隠し、 しっかりと守る姿勢をとる。
俺たちをつけ狙っていた、 その正体は予想外なものだった。
慎悟
狛沢
狛沢は篠崎家に仕える執事、 俺の世話係だ。
慎悟
狛沢
慎悟
細い目を大きく見開いた狛沢は、 否定しなかった。
園実
慎悟
園実
俺は彼女を見送り、 目の前に佇む狛沢と、 決着をつけるために話をする。
慎悟
狛沢
慎悟
不慮の事故だと思っていたことが、 まさか身内の仕業だったなんてな。
狛沢
慎悟
狛沢
篠崎家では、 執事であってもかなりの権力を持っている。
執事長の狛沢は、 篠崎家に口出しできるほどの立場にいるのだ。
慎悟
狛沢
その表情は悲しいより、 悔しそうに見えた。
俺は狛沢の件を母さんに全て話した。
狛沢は解雇となり、 平穏が訪れた。
これでもう、 菅野さんが事故で死ぬことはない。
俺は彼女の未来を守ったのだ。
あの一件以来、 彼女と俺は親密な関係になり、 よく一緒に過ごすようになった。
園実
その言葉に心が動いた。
園実
心臓の鼓動がどんどん強くなっていく。
園実
そんなの、 答えは最初から決まっている。
慎悟
園実
そこからの日々はとても楽しかった。
学校のお昼休みには一緒にご飯を食べ、 放課後には一緒に下校し、 休日には遊園地に遊びに行ったりもした。
しかし、 幸せな日々は突然幕を閉じた。
彼女は、 菅野園実は不慮の事故で亡くなった。
俺は仕組まれていたのではないかと調べたが、 そんなことは一切なかった。
過去に戻ってきてまで俺は、 幸せを掴めなかったのだ。
あれから数日が経った。
もう何も考えられない。
なんなら、 またあの嫌な政略結婚を、 持ち込まれるかもしれない。
もうどうにでもなれ、 俺がそう思っていた矢先、 玄関のドアが開いた。
父
慎悟
離婚して、 篠崎家を追い出されたはずの父さんが、 俺を訪ねてきた。
父
慎悟
父
父さんは会社を経営していて、 アイドルを募集しているらしい。
だからって、 実の息子をスカウトにくる父親が、 どこにいるんだ。
まあ、 やらないとは言っていないが。
俺は結局、 父さんのごり押しでアイドルになり、 歌やダンスを練習した結果、 今ライブとして武道館に立っている。
いきなり過去に戻されて、 やり直した結果は、 望んだものとは違う。
でも、 政略結婚は阻止できたし、 少しだけ彼女と楽しいひと時を過ごせた。
逆らったのは、 間違いではなかったのだ。